第3話 枯渇

「オッ!…ゴボッ!!…グギィ」

音にならない声を上げながら俺は転がる。巨熊は大技の反動からか、動けずにこちらを見ている。


状態は最悪だ。まずは臓器。腹が裂かれたのだろう。そこら辺に多分俺のものであろう内臓の一部が散らばっている。内臓は後で入れるか一から再生するかしかないな。

脳が揺れる。体が熱い。苦痛耐性を貫通して痛みが襲う。

普通なら即死級の攻撃を受けて生きているのは今までの耐久実験のおかげなのだろう。

いそいで俺は自動再生リジェネーターを回す。内臓の修復をせずに、腹をふさげ。止血をしろ。と念じる。

今の再生で魔力をかなり持ってかれた。流しすぎた血の再生でかなりの魔力を消費する羽目になったのだ。

腹の表面だけふさぎ、血を戻したのち自動再生リジェネーターを切る。内臓は後回し。これ以上の魔力消費はいただけない。

アクティブカードにはクールタイムがある。大技だと連発はできないはずだ。時間がもったいない。


「その技で仕留め損ねちゃ、世話ないな。癒しの力見せてやるよ。」


俺は巨熊に一瞥を投げ臨戦態勢に戻る。ラウンド2だ。


大技は連発できない。そう思い踏み込みを入れ懐にはいろうとすると、俺は体の異変に気が付いた。


スピードが落ちている。それもそのはずだ、体自体に蓄積されたダメージはかなり大きいのだから。巨熊の左腕の薙ぎ払いを避け、腹に蹴りを入れる。

蹴りの反動で後ろに跳躍し距離をとる。

巨熊はというとあまり効いてなさそうだ。やはり顔を狙うほかないだろう。


畳みかけるように俺は攻勢に出る。近くにあった木に飛び移り、そこから脳天にかかと落としを食らわせる。そのまま息をつかせず、目を攻撃する。

一発、二発、三発、巨熊の目から出血が確認できたとき、巨熊が首を振り地面にたたきつけられた。


「ぐっ…」


衝撃で肋骨や腕あたりが折れたのを感じたので自動再生リジェネーターを入れる。

壊れてない足で踏み込みをし、横に転がる。先ほどまで俺がいた場所には深々と爪が刺さっていた。


自動再生リジェネーターに頼る戦い方で気を付けなければいけないことがある。心臓の破壊と脳の破壊だ。いずれかが起こると自動再生リジェネーターが強制遮断され即死するのだ。


パッシブカードのみに頼るということは非常にピーキーな戦い方なのである。




 何度目の攻防を繰り広げただろう。空は茜色に染まり森は静寂に包まれている。

数時間にわたる攻防の末、俺の魔力は尽きかけていた。


研究所の無機質な白い服は真っ赤に染まり固まりだしている。さすがに内臓がないまま数時間を過ごしていたら頭にモヤがかかってきたので内臓は再生しなおした。そのお陰で今魔力が尽きかけているのだが。


「それはお前も一緒か。」


目の前にいる巨大な熊は両目をつぶされて出血をしていた。少量だが長時間出血していたことにより巨熊の生命の火は弱まっていた。

両目をつぶしてからは攻撃をよけることは容易だった。


骨を砕く腕力も、肉を裂く凶爪も当たらなければなんてことない。


「楽にしてやるよ。」


俺はゆったりと熊に近づく。気配に反応したのか爪を振り下ろしてくるがよける必要もない。見当違いな場所に爪が落ちるのを見てから顔の前へ立ち止まる。


俺は全身に力をいれ…熊の目玉に両腕をめり込ませ、ひっぱり引きちぎった。そのまま目の中をグリグリしているうちに暴れる熊は動かぬ人形となった。


「…疲れた」


さすがに頭が回らない。体が熱い。直してなかった部分の再生を行うと意識が遠のいていった。


こんな場所で気絶するわけには…


そばの藪が揺れるのを感じる。なんだこの気配。熊、二体目は話にならないぞ…いや別の生き物。


もう少し小さくてしなやかな…それでいて物凄い殺気。


俺は遠のく意識の中、藪に目をやる。


そこにいたのは一人の人間だった。

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