2章
第57話 二人の少年社長
「はい、宮園重工の杉村です。――いつもお世話になっております」
社用携帯がなったので、杉村は電話に出る。
電話の相手は、鉄道系大財閥の担当者だ。
あの激動から数年後。彼は半年前に営業部長の久我から呼び戻され、ルースダストから古巣の本社営業部に復帰していた。
「……ありがとうございます! こちらこそよろしくお願いたします!」
担当から新規取引の話がまとまったことを知らされ、胸を撫で下ろす。
この財閥が運用しているスーパーロボットは、正義のロボットとして多くの人々に認知されていた。
しかし、その正体は完全に秘匿されている。
杉村も少し前まで、どこの誰が運用しているのか見当がつかなかった。
だが、以前から仲良くしている保有機関とのつながりで、なんとか縁を取り次いでもらうことができた。
とはいっても、この財閥のスーパーロボットは、莫大な財力と自社グループの技術力を背景に、部品はすべて内製化されているため、入り込むのは難しいとも考えていた。
事実、何度も門前払いを食らい続けた。
だが、先日社長に直接営業をかけたことで事態が好転したようだ。
「勿論です。弊社の人間も含めて、バレないように先日お話させて頂いた方法をとります。すでに先方とも話がついておりますのでご安心ください」
その後、細かい調整部分や納期などの擦り合わせをして電話を終える。
そして、すぐに別の得意先に電話をかける。
「宮園重工の杉村と申します。恐れ入りますが専務はいらっしゃいますか? ――専務でしたか。先日お話させて頂いた件ですが、先方から正式に連絡があり、弊社と取引を始めることになりました。これで御社にも利益を還元できると思います」
次の電話の相手は、スーパーロボットを使って、便利屋をやっている超零細企業だ。
この会社との付き合いは長いのだが、常に資金繰りに困窮している。
しかし、今回の新規契約に巻き込むことで、彼らも安定した収入源を確保できる見込みとなった。
鉄道系の大財閥が、スーパーロボット部品を外部から調達することを渋っていた理由は、正体が露見するリスクが高いからだ。
それを解決するために杉村はあるプランを考えた。
この零細企業は大財閥がロボットを運用していることを知る数少ない存在だ。
なので、大財閥向けの部品を一旦この零細企業へ納品し、そこから零細企業の名義で荷物の中身を秘匿して、大財閥の工場に再出荷する。
こうすれば、大財閥は秘密を知られることなく部品を確保できる。
零細企業も中継ぎ料という形で利益を得られる。
このプランは双方の理にかなっているため、両社とも快く承諾した。
「――ええ。仲介分の上乗せについても、先方は問題にしていません。あそこは本当にお金が沢山ありますんで」
零細企業の専務は、杉村の言葉に安堵する。
その直後、専務は大財閥からの立替金は、いつ入金されるのかと話しを切り出してきた。
杉村は苦笑いを浮かべながら返答する。
「そのことなのですが、部品の支払いが長らくたまっておりますので、仲介手数料は当面、当社の口座にすべて振り込んで頂く形になりました。先方から御社の口座への入金はしばらくの間、立て替えていただく部品代だけになりますので、ご了承をお願いいたします」
専務は電話の向こうでしばし沈黙した後、弱々しい声で杉村に懇願してきた。
「いやあ、私としても本当はこうしたくはないのですが、もう一年以上滞納が続いていますからね。いくら先代の頃から取引があるとはいえ、このままでは会社としても看過できません。まずは滞っている売掛金の清算をすべて終えてから、こちらも御社に還元する分を振り込ませていただきます」
専務は深いため息をつき、言葉を詰まらせる。
「……申し訳ございません。ニュースなどでご存知かと思いますが、弊社も今は相当厳しい状況でして。どうかご理解ください」
納期と送金スケジュールの話をつめてから、電話を切った。
その直後、杉村は大きな息を吐く。
(ったく、俺の前任はいったい何をやってたんだ)
営業マンは数字を追うだけではなく、得意先に寄り添って本当の意味で支えていかなければいけない。
そうしなければ本当の意味での利益を、維持、発展させることなど不可能だ。
滞納が始まった時点で、ただ催促を繰り返すだけでなく、分割払いの相談や資金繰りの調整など、なにかしらの手を打たなかったことが信じられなかった。
少なくとも杉村がルースダストに出向する前はそうしていた。
だが直近の担当者は、そういったことを一切してこなかったようだ。
その怠慢が得意先を腐らせ、こんな事態を招いてしまっていることに、杉村は憤りをおさえきれなかった。
とはいえ、大口の新規取引先を取り付けたうえに、積もりにつもった売掛金を回収する目処も立った。
これでスーパーロボット部品の収益は、売上・利益ともに過去最高のものになるだろう。
現在、スーパーロボット部品の営業は自分だけである。
こんなすごい成績をダメ営業マンである自分1人で達成したかと思うと、感慨深いものがあった。
勿論、この成績を残せたのは自分の力ではなく、再び戦争が始まったことでおきた、特需のおかげではあるのだが――。
ここまで考えたところで、杉村の胸に焦燥感がよぎる。
(……この程度の数字で満足してちゃダメだな)
現在、宮園重工は創業以来の危機に直面している。
今回の成果など、会社の現状を考えれば焼け石に水でしかない。
杉村は次のアポに備えるため、コンビニに立ち寄りエナジードリンクを手に取った。
☆ ☆ ☆
長らくお待たせしてすいませんでした!
『兵装重機メーカーの左遷営業マン~冤罪、出向からの逆転劇~』
本日より再開いたします。
1ヶ月間は毎日投稿しますんで、面白いと感じていただけたら★とフォローで応援してもらえると嬉しいです!
また、筆者の代表作でもある下記作品もあわせて連載を再開しています。
『底辺ダンジョン配信者高橋、市長になる。』
https://kakuyomu.jp/works/16818093080549226564
こちらはスローペースでの更新になりますので、本作と並行しながら読んで頂けばと思います!
引き続き、よろしくお願いします!
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