第43話 ロボット犯罪

「――そうだったんですね」


 先ほどかけた電話の件で、警視総監から折り返しの連絡が入った。

 自分たちが尾行されていた理由を聞き終えた杉村は、わずかに息を吐く。


「いえ、こちらこそお忙しい中で、ご連絡ありがとうございます。――はい、失礼いたします」


 通話を終えた杉村に、ディスミスターを拭きながら、未来は話しかけてきた。


「分かるの遅かったね。もう日が落ちて真っ暗になってる時間だよ!」


「そんな言い方はないだろう。警視総監だって、何でも即答できるわけじゃない。それに今、警察は死ぬほど忙しいはずだ。そんな中で態々、調べて折り返してくれたんだぞ」


 戦争が続く中で、社会全体が不安定になっている。

 その影響で、市民の不満や不安が至るところで噴き出し、犯罪は急激に増加した。

 その中でも、民生品ロボットや、それを違法に改造した機体を使用した犯罪は特に目立っており、マスコミやSNSでは連日のように取り上げられている。

 特に首都である東京では、そうした犯罪の頻発が深刻な問題となっており、警視庁内の大型機動機械を扱うロボ対策課と、AI搭載型特機を運用する特殊捜査班は毎日のように対応に追われているという。

 それでも、あの部隊の奮闘によって戦況はかなり落ち着き、犯罪も最悪期を過ぎて減りつつはある。

 しかし、まだまだ根本的な解決には至っていなかった。


「へー、警察って忙しいんだね。知らなかった」


「いや、かなり大きな社会問題になってる話だぞ。どうして知らないんだ?」


「だって、この子のことで、最近ずっと忙しいんだもん」


「今日は休みだろ? 別に会社に来なくても良かったんじゃないか?」


「だって、この子、いじってるの楽しいんだもん!」


 中毒になっている未来に呆れていると、彼女が真顔で問いかけてきた。


「ところで、スギさん。結局、私たちはどうして尾行されてたの?」


「……闇市場で、スーパーロボットのコア部品を内蔵した機体が、近々取引されるって話が噂になってるらしい。それで、怪しい奴に片っ端から張り付いたんだと」


 杉村の言葉を聞いた未来は、目を丸くする。


「はあ!? 私たちが犯人だって思われたってこと!? どうして?」


「別にそういうわけじゃない」


 少しでもこの噂に関係があると判断した企業や人物を手あたり次第リストアップし、マークして監視や張り込みをつけていたのだという。

 その中の1つとして、スーパーロボットの付属部品や消耗品を町工場に発注し、各保有機関へ運搬する流通網を構築していたルースダストの杉村が目をつけられた。

 そして未来も、スーパーロボットの技術や部品を一部流用した量産型リアルロボット規格「ディスミスター」の開発にリーダーとして関わっているため、同じくマークされていたのだ。


「ってさぁ、私たちそもそもコア部品なんて作れないじゃん! 警察はそんなことも分かんないの?」


「そんなもん業界の人間じゃなきゃ、分かんねえよ。スーパーロボット部品を扱ってるってだけで、世の中は全部一緒くたに見るんだよ」


「だからって適当に疑うなんて、ひどすぎない!?」


「お前、本当にニュース全く見てねえんだな。俺らが世の中で、どう思われているか教えてやるよ」

 

 ディスミスターはスーパーロボットの技術と部品を応用して開発中の、新規格リアルロボットだ。

 だが、かつて愛花が手がけていた、あの危険なプロジェクトも、同じようにスーパーロボットの技術と部品を使ったリアルロボットとして、大々的に宣伝されていた。

 あの規格は、スーパーロボットを運用する全ての機関が危険視する声明を発表し、それに触発された世論はプロジェクトを大バッシングした。

 ディスミスターは愛花の新規格と、世間からは同じものだと思われ、マスコミやSNSでは連日、批判の的になっている。

 

「なにそれ! あんな無茶苦茶な規格と、この子が一緒にされるなんて、信じらんない!」

「作ってるお前にしてみたら、そうだろうな。でも、何も知らない奴らには、同じもんだとしか思えないんだよ」


 ディスミスターの開発は、スーパーロボット各保有機関に協力を仰ぎながら、正式な承認を得て進められている。

 監修を受けるだけではなく、保有機関でしか作れない部品の納品を受けている。

自作できるものに対しても使用料を支払って、利益の還元と安全性の担保を両立させている。

 地球連邦軍やPMCなど実際に運用する側はもちろん、業界内の同業他社も、愛花の規格とは別物だと理解していた。

  だが、一般の人々には、どちらも同じ、「危険なロボット」にしか映っていなかった。


「でも、ちゃんと説明してくれたら世間の人達も分かってくれるよ! それやってもらうように皆にたのもうよ!」

「なに言ってんだ。今の保有機関にそんな余裕はない。そんな中で、監修や部品の納品までやってくれてるだけでも感謝しなきゃいけないんだよ」


 現在、スーパーロボットの大半は、戦争の最前線で、あの部隊に参加している。

 敵勢力との戦いはいよいよ佳境を迎えており、各保有機関は戦闘支援やバックアップに多くの人員を割いている。

 リソースは、ほとんど戦争対応に取られており、世論対策にまで手が回す余裕はなかった。


「ディスミスターの完成は戦後になる。世間の評判を変えていくのは、その時でいい。それまでに、最高のものに仕上げとけ。それが、お前の仕事だ」


 杉村の言葉に未来は目を見開き、小さく頷いた。


「分かった! ……でもコア部品の話って、絶対ガセでしょ。そんなの普通に考えて、部品や情報が漏れるわけないじゃん」

「そうだな。現実的じゃない」


 確かに宮園重工や自分が製造を委託した町工場では、コア部品は扱っていない。

 流出させようにも、そもそも手元にないものはどうしようもない。

だからといって、スーパーロボットの保有機関から厳重に管理されているコア部品が外部に出回るわけがない。

 だが、杉村は、なぜか胸の奥に引っかかるものを感じていた。

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