第11話 営業の嗅覚

(えーと、取引の証拠は残さないようにするため、取引は全て現金との直接引き換えで行う……と)


 杉村は様々なことを頭の中で整理しながら、パワーポイントの資料作成を続けていた。

 ルースダストの敷地内には、スーパーロボット向けに製造された付属部品と消耗品が沢山ありすぎて、無造作に放置されている。

 それをスーパーロボットの保有機関へ、本社に気づかれないように、こっそり販売する。

 これが、ニュース記事を見て、杉村が思いついた新規事業の構想だった。

 放置されている部品のほとんどは、長年雨ざらしになり、塵や埃にまみれているが、まったく問題はない。

 なにせ、スーパーロボット向けの部品は耐久年数が異様に長く、滅多なことでは壊れないものがほとんどだからだ。

 しかもその大半が、過剰に生産されたものなのだから、そのまま出荷しても品質には一切問題がない。

 さらに本社は、処分費や管理コストを丸ごと浮かせているために、それらの所有権を放棄してルースダストに押し付けてきている。

だから、売っても法的にはなんの問題はない。


(問題は運搬方法なんだよなぁ。大きいものを運ぶから、どうしても目立つ……そうだ! 廃棄物の搬出に偽装して持って出て、それをどこかの中間業者が管理する倉庫に一旦保管する形にして、後は向こうに好きなときに取りに来てもらうようにすれば……)



 ルースダストにある消耗品や付属部品は、スーパーロボットを保有する各機関でも、製造は可能なものばかりではある。

 しかし、敵勢力の出現が減少したことによる対応予算の削減に加え、仕様の特殊性からくる整備難、さらに慢性的な人材不足などが重なり、どの機関も、そうした部品の製造にまでは、手が回らない。

 だからこそ、今回の供給停止に対して、必ずどこかが飛びついてくる。

杉村はそう確信していた。

 耐久年数が長いということを理由に、愛花は補修部品を売らなくて良いという、短絡的な判断を下したのかもしれない。また敵勢力が長らく出現していないことも、その判断を下した要因の1つだろう。

 しかし、敵勢力の出現がないといっても、それはあくまで本来の敵である宇宙や地底からの“異形の敵”に限った話である。

 独立を求める宇宙移民者の諸勢力と、それを許さない地球連邦との間では、紛争が各地で散発的に発生している。

 幸い、この極東地区は、スーパーロボットという、向こうから見れば、“化け物じみた機体“が集中している地域である。

加えて過激な宇宙移民者排斥思想が根付いていないこともあり、直接的な戦火には、まだ巻き込まれてはいない。

 しかしながら、宇宙移民の独立を掲げるプロのテロリストによるテロ行為は、ごく稀ではあるが起こっている。

 奴らが使っているのは、旧式のリアルロボット量産機だが、ゲリラ戦や陽動を巧みに駆使するので、連邦軍のリアルロボット部隊では対応しきれない場面も多い。

 そういった時には、やむなくスーパーロボットに出撃要請がかかるという事態が、これまで何度か起きている。

 

(旧式のリアルロボットしか使っていない連中相手なら、スーパーロボットは、ほとんど消耗しない。愛花はそう考えたのかもな)


 スーパーロボットならば、旧式のリアルロボット数機程度なら簡単に蹴散らせる。

 愛花を含めた現場を知らない連中は、そう思っているのだろう。

 だが、実情はそれと大きく異なる。

 場数を踏んだプロのテロリスト達の戦い方は非常に狡猾で、火力・装甲で勝るスーパーロボットを、地形やタイミング、機体サイズの差を利用して巧みに翻弄する。それでも最終的にはスーパーロボット側が勝利するが、機体は消耗し、細かい整備や調整が必要になる。

 当然、部品や消耗品の交換は必要になる。少なくとも杉村は担当だった頃、そう営業をかけて、複数の取引先から実際に注文をもらっていた。

 とはいえ、テロの頻度は本当にごく稀なもので、大して儲けになるような商売ではない。むしろ本社にバレないようにするための経費のほうがかさむ。だが、バレる可能性が少しでもあれば、梨沙は確実にこの事業の許可を下ろさないので、絶対に本社に察知されない仕組みを整えつつ、かつ利益も出るように、慎重に企画書を練り上げていく。


(個人的には、本社の連中は俺たちを完全に舐めてるから、そこまで用心する必要はないとも思うが……。いや、それでもあの人だけは気づくかもな。なにせ、やり手だからな)


 そう、心の中で呟きながら杉村はパワーポイントのスライドに手を伸ばした。

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