ACT43〜魔物討伐〜
オレにとっては、はじめての経験だった。今のような人数での行軍がだ。
今、オレとニナ、ナミナとリーシオの四人は、第二騎士団と第四騎士団の合同軍に参加していた。
当然、行軍に参加している騎士の人数は多い。
今回も森の中に目的地があるらしく、森の中を歩いて進んでいるが、流石に人数が多過ぎるように感じる。
「あの、今回の討伐目標って、たいした規模の場所ではないですよね?」
オレが、横にいるガイム団長に聞いた。
「ああ!全然たいした事はない!魔物は多少出るかもしれないがな」
「なら、なんでこんな人数で討伐に行くんですか?」
オレとしては、無駄に人員をさかず、他に回すべきだと思っている。
魔物の被害が大きい所は、王国内にはいくらでもあるのだから。
「見せるためだ!王国内に、マサノリの討伐が国家事業だと知らしめる必要がある!」
オレは、それを聞いて理解した。
つまりはパフォーマンスだという事だ。オレの討伐に大規模な騎士団をつける事で、王国が後押ししているとアピールしているのだ。
「まあ、その為、今回の討伐は失敗できないからな!兵力を十分に付けたという意味もある」
ガイム団長がさらに説明を付け足した。
「でも、一番の原因は、私でしょうね!」
そう言ったのは、第二王子のヘンスードだった。彼は、今回の討伐に同行している。
周りからは反対されたそうだが、押しきってついて来たらしい。
「私の護衛の為に、人員を投入したという事でしょう」
第二王子であるヘンスードが、何を意図して今回の魔物討伐に参加したのかは、わからない。
「良いように言うならば、私達にだけ魔物討伐を押し付けるのではなく、王族も危険な地に出て現場を知るべきだと考えている!でしょうか?」
ヘンスードの同行を知ったリーシオが、そう言っていた。そして、さらに続けて、こう説明した。
「でも、そんなに単純な事ではないと思います!今回の行動で、王位継承が有利になりますし、民や貴族などの支持も獲得できます!そうなれば、王族の印象も良くなりますし、王族派閥の味方も付けやすくなります!」
リーシオは、冷静に分析していた。まあ、つまりは複雑な事が絡み合っているという事だ。
ヘンスード自身の真意はわからない。実際、リーシオが言った事は理解した上で行動しているのは事実だろう。
ただ、何を目的にしているのかは、オレにはわからなかった。
オレには、本当に王国の為の行動にしか見えなかった。オレはアマイのだろうか。
「そろそろ、目的地だ!気を引き締めろよ!」
考え込んでいたオレに、隣を歩いていたガイム団長が声をかけてきた。
「はい!すいません!」
オレは、その言葉に我に返り答えた。
「うわ〜!」
その時、騎士団の前方で悲鳴と、金属がぶつかる音が聞こえてきた。
「魔物が出たか!」
そう言って、ガイム団長が前方に走り出した。
「オレも行きます!」
そう言って、オレも走り出した。必然的にニナ達も走り出す。
現場に到着したガイム団長とオレ達は、魔物を確認していた。犬型の魔物だ。邪気をまとっていなければ、たいした敵ではない。
「ホーリーブレード!ホーリーロッド!」
オレは、自身の剣とガイム団長、そしてナミナの剣に浄化の力をやどした。
同時にニナとリーシオのロッドにも浄化の力を与える。
因みに、ニナとリーシオは王都に戻ってきてから、ロッドを新調していた。
「ハァ!」
「フン!」
そんな声を出しながら、オレ達は魔物を切り裂いていた。
今回は、五匹程度だったので、オレ達だけで処理をした。
なんでも、浄化の力がない場合は、この程度の魔物でも苦戦するらしい。
「浄化の力があれば、なんて事はないな!」
ガイム団長は、息を乱す事もなく魔物を仕留めていた。
「いや〜!流石ですね!」
ヘンスード王子が、そう言いながら近づいてきた。
「浄化魔術があるだけで、これ程簡単に仕留める事ができるのですね!」
ヘンスード王子が、関心しながら、そう言っていた。
その後も、何匹かの魔物が出たが、ほとんど被害はなく。順調に行軍する事ができた。
「ここはなんだ?」
オレは、今回の行軍の目的地に到着した時、そんな声を出した。
その場所は、まるで黒い霧が漂っているような場所だった。
「ここは、邪気が集まっている場所よ!」
横に来たニナが教えてくれた。確かに森の一角が淀んだ場所になっていた。
「元々、聖女様の最初のお勤めは、このような場所の浄化から始めるんです!」
後ろから、リーシオが声をかけてきた。
「ああ、前に言ってた土地の浄化ってやつか!つまり、浄化の初級編って感じだな!」
オレが答える。
「そうだけど、こういう場所にさらに邪気が溜まると、穢れの地になるの!」
「油断はできない、重要な仕事だって事だな!」
オレは、ニナの説明に答えた。聖女の仕事は、こういう場所の浄化から始めるらしい。
まあ、いきなり大量の魔物討伐や穢れの地の浄化などは危険なので、少しづつ慣らして、危険度を上げていくようだ。
いきなり魔物と戦ったり、浄化魔術を覚えてすぐに穢れの地の浄化をしてきたオレ達が異常なのだろう。
「大丈夫です!近くに魔物の気配はありません!」
ナミナに視線を送ると、ナミナはすぐにそう答えた。
もっとも、オレ達の周りには数十人の騎士が集まっていて、広い範囲を警戒している。
オレ達の近くまで、気付かれずに魔物が近づく事はないだろう。
「ホーリーストーム!」
オレは、浄化魔術を発動させた。浄化の光は、竜巻のように渦を巻き、周りの黒い霧を浄化していった。
「これで、任務完了だな!」
オレは、周りを見渡しながら言った。正直な話、拍子抜けするような簡単な仕事だった。
なんだか、ほとんど討伐らしい事はしていないような気がする。
そして、それは王都に戻る間も変わらなかった。そう、本当になんて事はない行軍だったのだ。
「これは、どういう事だ?」
オレは、隣にいたニナに聞いていた。
オレ達が王都の城壁の中に入った瞬間、王都に住む民達が、オレ達を出迎えたのだ。
歓迎ムードのパレード、とまではいかないが、多くの人達が、街道の端に並んで立っている。
「魔物討伐から戻った騎士団は、いつもこんな感じで出迎えられるんですか?」
ちょうど近くに来たガイム団長に、オレは聞いていた。
「いや!こんなに歓迎される事はない!」
ガイム団長が答えた。
「たぶん、先に戻った騎士が、討伐の内容を報告したのでしょう!それが、民の耳にも入ったといった感じでしょうかね!」
そう言ったのはヘンスード王子だった。
「つまり、マサノリは王都の人々からも歓迎されているって事よ!」
ニナがオレに言った。
「そうなんだ!」
オレは曖昧に答えた。
オレは初め、聖女のオマケでこの世界に来た。最初は疎まれていたし、誰も相手にしていなかった。
聖属性魔術を使った時は、命を狙われた。
殺されかけたし、オレ自身が相手の命を奪った。
その時の恐怖、怒り、憤りなどを、オレは忘れた訳ではない。
たぶん、忘れる事はないだろう。
でも、オレには仲間がいる。ずっと、オレを助けてくれてきた仲間だ。
だから、オレは道を踏み外さずにすんだのだろう。
今、オレは歓迎されている。オレは認められている。
でも、だから何かが変わる訳ではない。
過去が変わる訳ではない。
それでもオレは、頑張っていこうと思う。
オレには、オレを支えてくれる仲間達がいるのだから。
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