第6話 『変身』



呪いを浄化するためにノースラルクへ出向き、『狼』の呪いを見つけることに成功し、浄化を試みるもシーゲルト、『血染め』といった第三勢力に阻まれる。

そして今現在も交戦中だが、正直、戦況は芳しくなく、防戦一方だ。ナルムは狼と、団長はシーゲルト。そして俺とミモが『血染め』の相手をしている。俺が盾となり、ミモが短剣で攻撃を仕掛ける戦法は、相手にとって猫のじゃれ合い程度にしかなっていなかった。ミモの攻撃は器用にかわされ、俺の防御は相手がわざわざ盾へ目掛けて攻撃しているように思えた。


「ふふふ、それで今まで戦ってきたのですか?なんと言いましょうかまあまあまあ…」

「『軽率』」

その片目はこちらを確かに嘲笑っていた。


「ぐッ…!!!」

図星を突かれた俺は頭に血が上り、ミモの攻撃直後、盾を一度しまい、殴りかかりながら展開する。


「うおおおおらァッッ!!!!」


「『怠慢』」

そんな攻撃も虚しく、相手は躱した直後、俺の腹部目掛け蹴りをかます。

瞬時に防御へ切り替えるが盾ごと破壊され、そのまま左腕を折られ叫ぶ暇もなく住宅の塀に吹き飛ばされる。


「ヒョウリ!!ぐォッ!…。」そんな後ろを向いた一瞬の隙にミモも腹部に膝蹴りを食らい気絶する。


「『傲慢』…そのレベルで三等星級の呪いに挑んできているのですか?いやはや、この国の冒険者の程度が知れますね。」


(呪い、の、等級…?)

立ちあがろうとするが肺から空気が抜けていく一方で腹に力が入らず、折られた腕が悲鳴を上げるのみだ。


「…あら、動かなくなってしまいましたね。傀儡人形マリオネットを使った劇は専門外なのですが…こうでもすれば、また遊んでくださいますか?」


そういうと『血染め』は気絶したミモレットの髪を掴み、顔を殴り続ける。ミシミシと肉を打ち骨まで通る音がこちらまで聞こえてくる。その痛みで彼女は、めては気絶を繰り返していた。


「があっ…ああああ…!!」

だんだん酸素がなくなっていく。血反吐を吐きながら、ただその光景を見つめ、情けない叫び声を上げることしかできなかった。


すると団長が魔導兵器を発動し、こちらに接近しつつ、ミモレットを庇いながら『血染め』を殴り飛ばす。まともに攻撃を受けた彼女は流石の体格差に吹き飛ばされる。


「ヒャッホー!俺がいることを忘れんなハガァ!」

飛びかかってきたシーゲルトを掴み、左頬に一撃お見舞いする。その一撃は怒りと悲しみがこもっているように感じる。


「…悪いなシゲル、ちょっと寝ててくれ。」

サングラスで隠された目元が、今ははっきりと見える気がした。


「うふふ…こっちの殿方は力強くて逞しいですね♡」

煙の奥から全くの無傷で出てくる少女が一人。痛がるそぶりを見せるどころか埃を払う仕草をするほど余裕を見せていた。


「貴様ら、何が目的だ。」


「よくぞ聞いてくださいました!実はですね、私、とある有権者の方に耳寄りの情報を頂きまして…『聖遺物』を探しにきたのです。ウォーターにはない、『願いを叶える日記』があると。」


「『聖遺物』…、『日記』だぁ?」

団長の魔導兵器が熱暴走オーバーヒートし、冷却時間リキャストに入る。再稼働に時間がかかりそうだ。


「あら、ご存知ないようですね?もうとっくに回収していると思いましたが…いやはや勘違のようです。失礼いたしました。」


「なら、ここで手を引いてはくれないか。“”なのだろう?」


「それはなりませんわ。邪魔者は排除する契約ですもの。ね?シーゲルトさん。」

団長の隣で寝ていたはずのシーゲルトは自身の埋まっていた半身の砂を電気で溶解し鋭いガラスを作り出していた。


「ショットォ!今ですあねさん!」


ガラスは団長に命中し体制を崩す。その隙に『血染め』はまたナイフを投擲してくる。先ほどのとは違う機械のような漆黒のナイフだった。団長の腕に命中し、魔導兵器の光が消える。


「ぐっ、体が動かん…!まずい!」

呪いの霧も濃くなり、先ほどまで気にならなかった雨風も次第に強力になってくる。俺はただ仲間の存亡の危機を、指を咥えて見ているしかなかった。



………

……



…雨が嫌いだ。


親父が死んだあの日から、この黒い気持ちは元の色に戻ることはなかった。


深く全身に打ち付ける感情は俺を非難する。

「なんであの日、お前ぼくは出かけたいなんて言ったんだ?誕生日だからか?浮かれるな。男で一人で育ててくれた父親にこの仕打ちか?その日だって、お前のために夜勤明けで働いてきたんだぞ。その恩もお前は仇で返した。最低な人間だなお前は。」


その避難は勢いを増し、親父すらも流していく。


「…。」

少女がこちらを見つめてくる。


「…そこに立ってる娘を見ろ。お前の親父が、お前よりそいつを優先したんだ。無関係なそいつは助かって、なんで親父は死なないといけなかったんだろうな?ああ、可哀想に。」


黒い気持ちが強くなる。

なんで…?なんで僕を置いていったの?


「そうだ!恨め!いかれ!そいつが親父の命を奪ったんだ!」


…許せない。


「許すな!」

許せない…許せない……


「殺せ!」

……殺す。



「そうだ!いいぞ!!そいつもお前も、生まれてくるべきじゃ────」


「君、大丈夫?」

少女の首に手をかけようとした瞬間、背後から聞こえた声に気づき、振り返る。知らない隊服を着た男の人だった。


「だあれ?」


「俺は困ってる人を助ける者さ。」

その男の人は親指をピンと突き立て、自分の胸に当てる。


「…だめなの。僕、お父さんを死なせちゃったから。僕が、ケーキ買いたいって言っちゃったから…。だから、僕は…」

ついさっきの出来事を反芻し再び涙がこみあげてくる。


「…君のお父さん、口癖のように言ってたじゃないか。『お前が生まれてくれて本当によかった。』って。」


『俺は、お前のために生きる。母さんの分まで、お前を愛してみせる。大丈夫だ、心配するな。だから──』



「君はお父さんのために生きられてたよ。確かに、自分を責める気持ちもわかる。けど、それは…一体、誰のためになるのかな。」


「…。」


「大丈夫さ。案外、周りには自分を支えてくれる人がいる。励ましてくれる人がいる。…見てくれる人がいる。」

少し屈み、手のひらを少年の前に出す。青年の後ろには四人の同じ隊服を着た後ろ姿が、光を浴び、さらにその光の先を眺めている。


「その人たちに報いるために、君はどう生きる?」


何故忘れていたのだろう…あの時、父さんは確かに言っていた。僕のために生きているって。


─『だからお前は、好きな人のために生きろ。父さんと母さんの約束だぞ。一緒に頑張ろうな!』


その少年は何かを思い出したようにこちらを見つめる。


「そうだ…僕……みんなを助けなきゃ。」


「うん、行こう。」


振り返らなかったが、後ろの少女はこちらに手を振ってくれているように感じた。




……

………




「ちくしょお…こいつ、何回撃って殴っても再生しやがる…。」

ナルムは未だ回避しては攻撃からのループから逃れることはできず、さながら蟻地獄のように飲まれていっている。もはやチームが壊滅するのも時間の問題だった。


(体力も限界が近い…魔力が切れちまったら冗談じゃなくヤベえ…。)


その瞬間、団長のいた場所が強い光に包まれ爆破する。


絶望した。あの団長があんな賊にやられるはずがない。そんな思いが駆け巡り、『狼』の方を見やる、と、なぜか苦しみ悶える姿を目にする。


「な、なんだこれ…どうなってやがる…おい!全員応答しろ!団長!三号!」

気づけばセスとも通信が切れ、支援魔法も薄くなっていた。


すると爆破の煙が晴れ、その奥にもう一匹の狼が出現する。


「まじ…かよ………。」


ナルムは再び絶望した。この壊滅的な状態でまだ追い打ちをかけてくるのか。一匹ですらまともに倒せないのに、もう一体増えるとなると死を覚悟する以外仕方がなかった。


しかし、その誤解もすぐに晴れることとなる。


その“狼”は呪いの『狼』と遜色なく、灰色を基調としていた。しかし決定的に違うのは、腕にくすんだ色の包帯を巻き、見覚えのあるオレンジ色の上着を羽織っていた。


「あいつは…。」

ナルムは驚き見入るが確信をしていた。間違いない。四号…ヒョウリだ。原理はわからないが彼の魔法だろう、と。


「お、おや…おやおや…まあまあまあまあ!!まさか…まさかまさか!わたくし意外にも…『祝福ファビュラス』を有している方…殿方がいらっしゃるとは!ああ、そうでした。この場合は、『祝福マーベラス』…ですわね?」


そのオレンジの“狼”は、『血染め』の戯言ざれごとを尻目にシーゲルトを吹き飛ばした後、ナルムの方の『狼』へと突っ込み、右腕を振り上げた瞬間、胴から顔面にかけて六つの穴を開ける。


「はっ…。」

(早い!!)

ナルムは振り返る暇もなく、狼が狼をたおす。その動きは煩雑で、乱暴で、自身の体を全く労わる様子がなかった。

狼は抵抗する暇もなく灰になり、その灰すらも憎むかのように地面に打撃を加えていた。見かねたナルムが声をかける。


「おい!四号!…ヒョウリ!!もうやめろ!そいつはもう倒せた!」


「アア…?」

黒く沈んだ目は光がなく、無差別に攻撃を加えんとする。

銀の鉤爪がナルムを襲おうとした瞬間、『血染め』が割って入り、攻撃を止める。


「なっ…?!」


「ふふっ、わたくし、『聖遺物』よりあなたに興味が湧いてきましたわ。まさか私と同じ力を持っていらしたなんて。しかも…『変身』ですの?なんて魅力的なのかしら!」

狼…もといヒョウリの無造作な攻撃を綺麗に短剣で流し、独り言のような対話を求める。しかしヒョウリに理性はなく、うなるのみであった。

すると『血染め』の背後から大男が上から振りかぶり殴りかかる。しかしそれすらも躱し、建物の屋根に飛び移る。


「あなた、『憤怒ふんぬ』…でしたわね?またお会いしましょう…うふふ。」

意味深な言葉を告げると呪いの霧に紛れて少女は消えてしまった。


それと同時にヒョウリも力尽き、泥が体の周りから溶けるように抜けていき、見慣れた顔が現れる。


「大丈夫か!ヒョウリ!おい!」

声をかけるも完全に気絶しているようで全く反応はない。


「俺がぶろう…ナルムはミモをトラックに運んでいつでも出せるようにしてくれ。ヤシロの仲間も探してこよう。」


「あ…ああ。」


カミバ=ヤシロの仲間、三人のうち二人は呪いに侵され気絶していたところを発見される。のち一人は腹部と喉が裂かれた状態で発見され、すでに死亡していた。全員がトラックに乗り、出発する頃には空の色は元通りになっており、雨も止んでいたがすでに陽は沈んでいた。




───────────────




アカシア王国、魔術部隊管理局まじゅつぶたいかんりきょくにて──


管理局内部は空の異変に騒然とし、国民の安全と不安解消のため人手不足の最中さなか、従業員が右往左往としていた。


「ご報告申し上げます!つい先ほど、何者かが三等星級の呪いを浄化しました!」

そんな異常事態の中でも異例の報告を任され…というよりか、忙しさを盾に全員から押し付けられ、恐る恐る局長に報告をすることに。


「なにぃ!我々の部隊は何をしておる!女王様に報告はしたか?いつ戻ってくる!」

この局長はいつもの通り質問攻めだ。この局長のせいでノイローゼになった同僚が何人も辞めていったのを目の当たりにした。


「い、一度に申されましても…。部隊は無傷、かつ村の捜査を行ったのですが呪殺された死体が幾つか発見されました。兵は今、飛行魔石でこちらに戻っています。女王様のへの報告は局長からしていただけると…。」


「ええい、誰がこんな身勝手を!はッ、聖遺物は無事か?」

きた。その質問をされないよう思考に思考を重ねたが、結局聞かれてしまった。

何故されたくなかったか?答えにくいからだ。聖遺物は政府の規定に基づき、回収し調査、問題がなければ国が管理し、危険性があれば神父の手によって処理されるのだが…


「そ、それが…先に浄化した冒険者が持ち去った可能性が高く…。明日には魔犬捜査官を派遣し厳重な調査を行う予定…でしたが、生憎ここ最近は呪いの被害が甚大で…捜査員がまともに派遣できないのですよ。」


「なんだと…?まァーったく元兵士風情が悩ませおって…。そもそも、兵士大量解雇ってなんだよ!ワシもその余波を受けて事務次官から降格されて…こんなきったねえオフィスで働いてんじゃい!」


落ち着いてください局長、ここで成果を上げれば昇格もあるかもしれません。


「それは局長が癇癪を起こして汚しているからで…」

おっと、心と台詞が逆になってしまった。


「うるさいッッ!とにかく、ワシは女王様に報告するのだけは絶対やだもんね!」


「えぇ…?」

なにこれ、じゃあ俺が報告すんの?大臣は忙しいだろうし…そもそも時間外労働だからね?労基違反でしょ、これ。


(はあ…こんな仕事、早く辞めたい。)





───────────────────





目を覚ました時、知っている天井を見て少しの間、状況を整理する。起き上がり一度顔を洗おうとすると、机に一枚の置き手紙がされていた。要点がよくまとまっている。恐らく団長の字だ。


「今回の仕事、よくやった。敵対勢力はほとんどお前が撃退し、ヤシロの仲間を苦しめた『狼』も無事倒せた。しかし帰還できたのは三人中、二人だけだった。これは誰の責任でもない。冒険者というのはこういうものだ。ヤシロも同じようなことを言って、我々に負い目を感じさせないようにしていた。その強さも冒険者には必要かもしれないな。…オレとナルムは大丈夫だ。ミモは気絶していたが、セスがお前と一緒に回復魔法を施したからおそらく大丈夫だろう。心配するな、ゆっくり休んでくれ。」


なんて几帳面な人なのだろうか。こういった気遣いができるのも、組織のトップたる所以だろうか。素直に尊敬する。


しかし、仲間に何事もなくてよかった。イレギュラーが入り込んだ時はどうなるかと思ったが。…結局、団長が前言ってた通り、運任せの結果になったことには変わりない。


「ああ、ダメだ。ネガティヴになっている。」


一度お風呂に入ることにした。



蛇口を捻ると少しの間、冷たい水が出てくる。日中の太陽光を魔道具で集め、その熱を使い温めているため、初動はどうしても冷たい。


捻った瞬間、シャワーから冷水が放たれ俺の手の甲を濡らした。


「───ッ!!」

嘔吐しそうなほどの不快感が身体中にビリビリと走る。途端、床一面に落ちた冷水が全て鮮やかな赤色に染まる。


【なんで一人にしたの?】【誰か救急車呼べよ!】【お前が死ねばよかったのにな。】【違う、ちがう!】【ダメだ頭が潰れちまってる!】【また何もできない】【おい子どもを優先しろ!】【この木偶の坊が】【憎い…憎い…】【殺す】


【殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す】


「あ、あああ──ッ」


映像が一気に流れてくる頭が割れそうだ。

これは…誰の……お、ぼく…オレ!、?おれ……?


シャワーから流れる水は徐々にお湯に変わっていく。足元に火傷しそうなほどの熱を感じ、意識が戻ってくる。


「ゔッ…おえええぇぇっ……。」


「…はあっ、はっ、はっ………」

次第に呼吸が荒くなる。

違う、俺は、俺はそうしたかったんじゃない。ただ親父と出かけたかっただけだ。なんでこうなった、なんで、俺はいつもこうなんだ。ずっとわかってたことだったのに。分かりたかったことだったのに、なんで、なんで…。



シャワーの音が心象映像と重なる。


【弱いくせにでしゃばるからだ、屑が。】


誰だ


【俺はお前だ…他の何者でもない。】


「はあっ、はぁっ…」


どういうつもりだ、なんで俺は狼になった?


【俺はフィリス…憤怒を司る悪魔だ。見ていれば、貴様はずっと昔からそうだ。無力なくせに、自分が何かできると勘違いをしている。『自分は特別で、何者かになれる。』、『まだ足掻ける』とな。

甘えるなよクソガキが!】


なんで俺に…力を与えた。


【『与えた』だ?自惚れるなよ…!貴様は産まれてきたこと自体が間違いだったんだよ。…貴様は抱えきれない罪と力に溺れて死ね。】


「おい…!“呪いの地”ってなんなんだよ!答えろクソ悪魔!」


シン…と先ほどの喧騒が嘘のように静まり返る。否、今までずっとシャワーの音のみがこの環境を覆っていたのだ。俺はずっと、頭の中で彷徨っていた事実に混乱し、もはや何が何だかわからなかった。


…やはり、この力を持ってここに居座るのはダメだ。この力のおかげで戦えたのは事実だ。しかし、その矛先がメンバーに向くとなると話は別だ。



俺は…サンドフリーカーを出る。



ガチャ、と風呂の扉が開く。今度はなんだと後ろを振り向くと、バスタオルを持ったミモが入ってきていた。白く透き通った肌に桜色の突起がタオルの隙間から見え隠れしている。


「え?」


「えっ!?あッ、ごめん!入ってたんだ!!」

すぐさま風呂場を出たミモを扉越しで引き止める。


「待って!具合はその…大丈夫?」

引き止められたミモは少し混乱気味で、いつもの調子を取り戻せずにいたが質問には律儀に返答する。


「はえッ!えと、その、大丈夫!グッドグッド!ヒョウリの身体も大丈夫そうで良かった〜!いやいやじっくり見た訳じゃないから!」


「その、顔の傷…」

俺は今の一瞬でミモの顔面の痛々しい傷を目撃してしまう。これは『血染め』にやられたものだろう。俺の判断が間違ってしまったばっかりに、仲間に傷を負わせた…その事実に、脳が蝕まれていく感覚を覚える。


「ああ、これね…。一応、回復魔法かけたから大丈夫。明日、セスにもかけてもらうから。」


「…そうか、悪かった。」

俺の謝罪に対しミモは明るく、全然大丈夫だと返した。その明るさが、俺の影をより一層濃くしていく。


「ヒョウリはセスの魔法を受けたんだよね?その左腕、戻ってよかったよ。」

俺の左腕さわんは確かに『血染め』による打撃で盾ごと破壊されていた。そのことを指摘されるまで忘れていたほど、俺の左腕はいつも通り脈を打っている。


「ああ…おかげさまでな。」

数秒間の沈黙。浴槽に溜まったお湯に、蛇口の水滴が跳ね、反響する。俺はその沈黙を破るかのようにミモを揶揄からかう。


「ミモも身体は特に変わりなさそうでよかった。ハリが良くて…だはは。」


「もう!ばか!すけべ!」

お互いに笑い合い、ミモと風呂を交代する。


こんな日々が、もっと続けば良かったのに。





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