銀の月亭での語らい

森を抜けると、活気ある町が見えてきた。碁盤の目のように整然と並ぶ家々と、中央に建つ大きな噴水が特徴的な町だった。


「ここはクレスト町。商人たちが行き交う交易の要所だ」


ハーバート卿が説明する。町に入ると、さまざまな商品を売る露店が並び、人々が活気に満ちた様子で行き交っていた。


レンは初めて見る町の景色に目を輝かせた。ソラニア村とは違い、ヴァルディア大陸の様々な地方から来た人々が集まっている。珍しい商品や、聞いたこともない言葉を使う商人たち。すべてが新鮮だった。


「宿はあそこだ」


団長が指差した先には「銀の月亭」という看板の宿屋があった。


「中に入ろう。今夜はここで休むぞ」


宿の中は暖かく、木の香りがした。暖炉の火が心地よい光を放っている。


「お前は初めての旅だろう?」


アルバート団長がレンの隣に座り、麦酒を一杯差し出した。レンは恐る恐るそれを受け取る。


「はい。村の外に出たのは今回が初めてです」


「そうか。大変だろうが、これも勇者の宿命だ」


「勇者なんて…まだ信じられません」


レンは護符を握りしめた。


「信じるも信じないも、お前の護符が光ったのは事実だ。そして魔王の脅威も現実だ」


団長は深刻な表情で続けた。


「ルナリア王国が陥落してから、魔物の数が増えている。我が国の国境でも、度々大きな集団が見られるようになった」


その時、外から突然悲鳴が聞こえた。

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