決意と出発

翌朝、レンは家族と別れの挨拶をした。


「帰ってきたら、また一緒に畑を耕そうな」


父親はにっこりと笑った。


「気をつけて行っておいで、すぐに帰ってくるんだよ」


母親は涙をこらえながらレンを抱きしめた。


「お兄ちゃん、かっこいいところ見せてね!」


妹のエマは明るく笑った。


レンは頷き、最後に一度だけ振り返った。いつも見ていた景色。しかしこれからは何もかもが変わるのだろう。


村の入口では、ハーバート卿と騎士団の一行が待っていた。そして、レンと同世代の村の青年たちも見送りに来ていた。


「レン、俺たちは、お前の勇気を見せてもらった。当面の間は俺たちで村を守るから。安心して行って来いよ」


「お前にしかできない事があるんだろ?頑張ってこい」


青年たちの温かい言葉に、レンは胸が熱くなった。


「皆…ありがとう」


「準備はいいか?」


アルバート団長が問いかける。レンは肩にかけた袋を確かめ、護符の存在を確認してから頷いた。


「行きましょう」


レンの声には迷いがなかった。恐れはあるが、それでも前に進む。それが本当の勇気だと父は言った。


一行は村を後にし、王都への道を進み始めた。歩きながら、レンは不思議な感覚を覚えていた。どこか遠い場所で、自分を必要としている誰かがいる——そんな気がしてならなかった。

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