第3話

「それで、そのスキルを使って」

「わ、消えちゃったよ」

「そしたら、こっちに行って……」


 約束通りに先週俺がやっていたソシャゲをコイツに教えている。

 結局、先週のまたね。は同じ曜日にってことだったみたいで今日まで少しソワソワとしてしまった。

 コイツが友達とずっとつるんでいたので聞くに聞けなかっただけだが。

 そんなことは口にはせず、ゲームのレクチャーを続ける。


「はい。これでステージクリアだな。どうだった”幸せ”だったか?」

「ん~。わかんないや。”幸せ”だったかも?」

「なんだそれ」


 俺は座りながらコイツの感想に文句をつける。


「だって初めてだったんだもん。とにかく画面に色んなことがあってさ」

「そういえば、そんなこと先週言ってたな」

「今度は覚えてるんだね。真面目君だね」

「そんなんじゃ……!」


 否定すればするだけそうだと言っているみたいで俺は途中で話すのを止めた。


「どうしたの?」

「……教えてくれって言ったのはソッチだろ」

「そうだね。でも、やっぱり真面目じゃん」


 コイツは”幸せ”そうに笑う。


「真面目じゃない。人との約束を守るのは常識だ」

「真っ面目~」


 もう何を言っても無駄な気がして、俺は溜息をついて椅子に身を沈めた。


「でも、今日インストールするときに見えたけどゲームって色々あるんだね」

「ソシャゲだけどな。他にも据え置き機とか携帯機とかまだまだある」

「えー! そうなんだ。それもやってるの?」

「まあ、ボチボチ。ただ家じゃあ親の目があるからな」


 ゲームは簡単に成功体験が貰えることもあってか、残幸数が発見されてからはより親からの忌避感は強くなってしまっている。


「じゃあ、そのために居残ってるの?」

「ん-……。それもあるってところだな」


 理由は別だが、それも含まれるといったところだ。


「そっちもそっちで苦労してるんだね」

「まあ、今の御時世どこもこんなもんだろ。俺たちには”幸せ”の自由なんてねぇよ」


 本当に余計なものを発見してくれた。

 自分たちが子供のころには残幸数がなかったから、気にせず遊び惚けていたくせに。

 そのくせ、俺たち学生を可哀そうだの、昔はよかっただの言ってくる。


「ホント、やってらんねぇよ」

「ホントにね。”幸せ”じゃないよね」

「ああ、”幸せ”じゃないな」


 まさに読んで字のごとくだ。

 俺たちは顔を見合わせると、なんだか可笑しくなって息が漏れた。


「プッ、アハハ。なんか一瞬だけ大人な雰囲気じゃなかった?」

「ハッ、そうだったかもな。でも、この会話は子供っぽいぜ」

「確かに!」


 二人でひとしきり笑っていると、学校のチャイムが鳴る。


「はあ、”幸せ”だった……。じゃあまた今度ね」

「……今度っていうのは来週のこの曜日ってことでいいんだよな?」


 今日はちゃんと聞く。これで余計なことで悩む必要もなくなる。


「うん! じゃあね」


 ソイツは頷くといつものように俺より先に教室を出て行った。

 久しぶりに笑った気がする。これは明日は顔が筋肉痛かもしれない。

 軽く顔を揉んで俺も教室を出た。






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