不幸を告げる鐘

古窓

第1話

 GWの明けた頃、俺は放課後に教室で一人今日出された課題に手を付けていた。

 別に真面目なわけでもなんでもなく、ただ早く家に帰りたくなくて暇つぶしに課題をやっているだけだ。

 先週は最近読みだしたネット小説を読んでいたし、今日はそんな気分だっただけ。

 その課題もほとんど終わってしまい、時計に目をやる。

 短針が5付近を指しているが長針は10の手前だ。

 時間もいい頃か、残りは家でやればいいだろう。と鞄に課題やらを入れようかと席を立った時、教室の前の扉が開いた。


「あれ? こんな時間に人がいる」


 俺に話しかけたのか、それとも独り言か、分からなかったので俺は特に反応もせずにそのまま帰りの支度を継続した。

 あっちもそれにわざわざ突っかかることもなく、自分の席へ向かい机の中を漁っている。

 忘れ物かと、一人納得していると鞄に入れようとした紙が手からこぼれてソイツの足元へと滑るように飛んで行った。

 それに気づいたソイツは、その紙を凝視して顔を上げると俺の元へ渡しに来た。


「ごめんね。見ちゃった」

「別に……事故でしょ」


 見られて嬉しいものではないが、状況的にはどうしようもない。


「でも、マナー違反じゃん。残幸数を見るのって」


 残幸数。残りの人生の中で感じる”幸せ”の数。

 少し前に、とある人の発見で人は一生のうちに感じる”幸せ”は個人個人で回数が決まっていることが発表された。

 だからと言って、俺たちの生活が大きく変わったなんてことはなく、強いて言えばそれが一つのステータスとして上げられるようになったことくらいだ。

 4月の健康診断時に毎年計測されるようになり、その結果が今日返ってきていた。


「代わりに、私のも見せよっか?」

「いらない。お前のを見ても自分が惨めになるだけだ」


 そう、”幸せ”の回数は個人で違う。俺の残幸数は一般的な数で、見られたとて大した問題はない。

 しかし、目の前のコイツは違う。クラスでも話題になっていたのが嫌でも耳に入る。

 コイツは、俺たちの3倍の残幸数を持っているらしい。

 そんなことを聞いてしまったら見る気も起こらない。

 たぶんコイツは俺たちよりも幸せで、これからも幸せなんだろう。そう思うと腹は立つが、生まれ持ったものだから仕方がない。イケメンを僻んでも仕方がないのと一緒だ。


「みんなそう言うんだよね。私も皆と一緒に結構減った~とか貯めてるんだよね~とかやりたいんだけどね」


 そんな、俺のことを他所に勝手に話し始めた。

 俺もすぐに帰りたくないので、なんとなく聞いてみる。


「3倍なんだろ? 俺たちの。じゃあ、生まれたときの残幸数は何回だったんだよ」

「え~、どうだろう。でも今の大体2倍くらいって聞いてるよ」


 それを聞いて後悔した。生まれたときから十分な差が出来てしまっていたらしい。

 人生は不平等だ。


「さぞ、幸せな人生だったんだろうな。俺たちと違って」


 思わず皮肉を言ってしまう。

 だが、それだけの差があるんだったらこれくらいは許してほしいものだ。


「それも、よく言われるよ。別にそんなでもないんだけどね」


 アハハ、と笑うその笑顔は自嘲気味だが、それでも俺からは幸せを纏っているものに見えた。


「どうだか。家で笑うな! とか、クリスマスにプレゼントを貰えないとか。そう言ったことはなかったんだろ?」

「あったあった。むしろ話だけ聞けばうちの方が厳しかったくらいだよ」

「は? そんだけ残っておいて? まだ、貯めんのかよ。気にしなくてもいいだろ」


 俺たちと同じペースで減っていったとしても、かなりの数が残るはずだ。


「私もそう思うんだけど……」


 キーンコーンカーンコーン

 ソイツの話を切るように学校のチャイムが鳴る。


「わ、もうこんな時間! じゃあね! 見ちゃってごめんね」


 そう言ってソイツは教室から出て行ってしまった。

 いい時間つぶしにはなったか。と思いながら、荷物を閉まった鞄を持って俺も教室を出た。



 ----------

 あとがき

 読んでいただきありがとうございます!

 少しだけ現実とは違う不思議な日常での二人の会話をお楽しみください。


 毎週火曜16時50分に更新予定です。

 5,6話で完結予定なので短いですが1か月ほどお付き合いください。


 このお話が少しでも気に入っていただけたのなら、励みになりますので応援、レビュー等々よろしくお願いします!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る