一家心中に置いてかれた僕が聖女を守るんですか?それでいいんですか

リトルアームサークル

第1話 一家心中とガス爆発に女神

「いや〜、まさかこんなことってホントにあるんだなぁ。ドラマか小説だけのことだと思ってたわ」

 先週引っ越して来たばかりのアパートの玄関扉には、【借金返せ】【逃げんじゃねえ】【殺すぞ】【人でなし】【悪魔】【人殺し】と殴り書きされた紙がベタベタと貼られている。

 遠くで、ピーポーピーポーと救急車のサイレンが鳴っている。

「悪魔でもないし、人は殺してないんだけどなぁ」

と呟きながら、僕は貼り紙だらけの扉を開けて家に入った。

 会社経営の父と専業主婦の母の間に生まれて15年間、普通の生活を送っていたのだが、ちょっとした運命の歯車が狂ったせいで天国から地獄へまっしぐらだ。

 それでも僕は別に悲観してはいない。

 まだ幼く可愛い妹もいるのに、親の借金くらいで人生を諦めることなど出来はしないのだ。

「ただいま〜」

 在宅を勘づかれないために電気がついていないリビングに入ると、テーブルの上に1枚のメモ紙が置かれていた。

 何気につまみ上げると、

【このアパートも借金取りに見つかった。もう生きているのが辛すぎる。母さんと美麗みれいは連れて行く。智久は強いから1人でも生きて行けると思う。不甲斐ない父より】

と書き置かれていた。

「はぁ〜?」

 僕は思わず変な声を上げると、追いかけるために外に飛び出す。

 ちなみに僕が推す妹の名前が美麗ちゃんだ。

 アパートの外廊下で踵を靴に押し込んでいると隣の部屋の扉が突然吹っ飛び、真っ赤で巨大な炎の渦に呑まれたところで僕の意識は途絶えた。


 眠りから覚めるように瞼を開くと、柔らかい胸に抱かれていた。

「あら眼を覚ましたのね」

 頭上から慈愛に満ちた声が舞い降りて来る。

「女神様…?」

 僕はあまりの神々しさに、いるはずのない存在を思わず呟いてしまった。

「当たりよ」

 当たっちゃったか〜

「私は女神アマルナ、初めまして秋野智久あきのともひささん」

「初めまして…女神様って実在していたんですね」

「そこなのよね…私への信仰心が薄らいで、認知度が低いのよ。地上波TVのドラマ視聴率並みに低くなっているの。これは由々しき事態だと思うでしょ!」

 女神様の食いつきが半端ない。

「はぁ〜そうなんでしょうね。ところで女神様の腕の中ってことは僕は死んだんですか?」

「隣の部屋のおじいちゃんがね、ガス漏れに気づかずにタバコに火を付けちゃって…アパート1棟丸ごと吹っ飛ばしちゃったのよ」

「そりゃ死にますね」

「うん、残念ながら今の世界ではね」

「もしかして、異世界転生のパターンですか?」

「ピンポーン、本日の当たり2発目です」

 やたらとノリのいい女神様だ。

「一家心中に置いてけぼりを食らった上に、隣のおじいちゃんのうっかりに巻き込まれてゲームオーバーなんて可哀想過ぎるじゃない」

 女神様が、透き通る様な薔薇色の眼から溢れる涙をハンカチで拭いながら力説する。

「一家心中…妹の美麗ちゃんもですか?」

「残念ながらね…だから異世界で新たな人生を送らせてあげましょう。この女神アマルナの名において」

「いいんですか、代わりに魂寄越せとか?」

「それじゃあ、悪魔じゃない…わ、た、し、女神よ。め、が、み、さ、ま」

「代償なしで人生やり直せるんですね。やったー」

「んん…そこはちょっと、女神のお願いも聞いて欲しいかな」

「何です…魔王討伐とか?ドラゴン退治とか?」

「割と難易度高めのミッションをグイグイ行くのね」

 異世界定番を口にしたら、女神様にちょっと引かれた。

「亡くなった妹の美麗ちゃんを、聖女候補として異世界に転生させるから守ってあげて欲しいのよ」

「聖女じゃなくて候補?」

「うん、私への信仰心が低いって言ったじゃない。だから信仰の象徴となる聖女になれそうな候補をあちこちに派遣しているんだけど、聖女を婚活の道具にしか考えない様な打算女ばっかりで本物の聖女が育たないのよ」

「世知辛いですね。女神様の人選も完璧とはいかないのか」

「残念ながら素質があっても、どんな風に育つかなんて出たとこ勝負だからね」

 アマルナ女神様への信仰心が低いのは、そのギャンブラー体質にあるんじゃないだろうか。


 聞くと妹の美麗は聖女候補としてかなり有望らしく、女神直属の使徒に守らせていたエリアを開放して転生させるとのこと。

 ただ、辺境の土地のため危険な魔物もいるので、守り人を付けてあげたいらしい。

 その守り人に選ばれたのが兄の僕という訳だ。

「守り人としての任務を全う出来るように、特殊スキルを女神の加護として授けるわね。借金で苦しんだから今度は貸す方がいいわね…ついでに私の認知度も上げてくれると嬉しいかも」

 女神様がそう言うと、僕の意識はまた薄らいで行った。



 

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