継続戦争その1
第18話 崩れた平和
まるで我々の準備を待っているかのように平和な時が過ぎていった。新兵教育に武器の一新と王立軍は着実にその規模を拡大し、練度も格段に向上していた。東ルーペ駐屯地を襲撃してから約1ヶ月が経過し、軍内部ではきっと戦いは始まらないと思い気が緩み始めていた。
「はあ、なんていい天気なのかしら。少し眠くなってきたわ。ちょっと昼寝でもしようかしら」
ソファーに寝っ転がろうとした瞬間、執務室にシャルロッテが飛び込んできた。
「た、大変よ、アリシア。なにが起きたか聞いた?」
「ま、なによシャルロッテ。そんなに慌てちゃって」
「赤軍が全方面から一斉に侵攻を開始したわ!」
眠りかけていた脳は「侵攻」という言葉に反応して完全に覚醒した。ソファーから飛び上がりそのまま大急ぎでみなの集まる会議室に向かった。
「ちょっと今どうなってるの。状況は?」
「アリシア元帥、報告によりますと現在赤軍は3つの峠から同時に侵攻してきています。そのうちルーペ峠付近にいる部隊が敵の主力かと」
地図の上に置かれた駒を見た。赤軍を示す赤色のポーンはこれ一つで一個連隊を表す。ルーペ峠意外の峠は首都から遠く列車などの輸送ルートがないため一個連隊かそれ未満の規模と推定されるが、肝心のルーペ峠にはポーンが3つ置かれていた。まさか一個師団を用意するとは本気で我々を潰しに来ているようだ。
配備状況と合わせ状況を確認していると、一番重要な彼が登場した。
「参謀総長のマクロンだ。ついに奴らは我々に戦いを仕掛けた。予告通りとも言えるだろう。この戦いは何週間、何ヶ月、いや何年にも及ぶかもしれない。しかし我々はすでに8年間共産主義者の魔の手からここコマールを守り抜いてきたのだ。これからも永遠に守り抜けると信じている」
「ここにいる諸君は直接前線に行って戦うわけではない。しかし軍は前線の兵士だけで成り立っているわけではない。特に兵站なしではどれだけ優秀な兵がいようとも前線は維持できないだろう。後方支援こそが大事だと言っても過言ではないのだ」
マクロン大将の演説が終わると建物中から拍手が沸き上がった。
「それでは各自持ち場に戻れ」
戻れの命令とともに参謀たちは大慌てで作戦を実行するため行動を開始した。私はシャルロッテにベルニスを探しに行かせ、マクロン大将のところに向かった。
「私達はこれからルーペ峠防衛隊の応援に向かうわ。まあ作戦立てたときからずっと言ってるからわかっているとは思うけど」
「ええ、そうですね。作戦通りです。ですが本当にいかれるのですか?その万が一アリシア様になにかあられますと・・・」
マクロン大将は私の身を心配しているようだった。しかし私から言わすと心配するべき相手が違うとしか言いようがない。
「なにを心配しているのよ。私は魔王を討伐した勇者なのよ?こんな相手にやられるわけないわ。心配するべきなのは新兵たちじゃない?」
「確かにそうかもしれないな。実戦経験もないし、いざ敵を前にしたらしりごみしてしまうかもしれないな。それでも彼らは一通りの戦い方は覚えているはずだからあとは信じるしかないだろう」
信じる、か。そうだな、信じるしかない。信じなければ何も始まらないはずだ。
「そういえば考えてなかったけど、私って元帥、つまり総司令官じゃない。みんなの前から総司令官様がいなくなったら困るかしら?」
「一応ほとんどは私の裁量権で決められますし、それに辺境伯様もいますからどうにかなるはず・・・だと思います」
まあそのために軍務省やらなんやら組織を用意したわけだからな。他所の国も国王が軍のすべてを仕切っているわけないだろうし当然か。
「まあ最高司令官というけど私はただのお飾りだものね。そうでしょ?」
「そ、そんなことはない・・・はずです?」
はずですってそこはきっぱりと言い切ってくれよ。
「じゃああとは頼んだわよ、マクロン参謀総長」
参謀総長室を離れ、エルマのところに向かった。
「いたいたエルマ。準備は万全のようね。ベルニスがどこにいるか知らない?今シャルロッテに探させてるところなんだけど全然見つからないっていうのよ。それにさっきからテレパシー送ってるのに全然反応しないし」
「し、知らないですよ。僕が最後にベルニスを見たのは朝ご飯食べてたときですし・・・」
エルマも知らないとなると・・・困ったな。参謀本部内にいるのか、それとも演習場にいるのか、はたまた別の場所か、皆目見当もつかない。とりあえずシャルロッテと合流し、何とか彼女が行きそうな場所を考えていると、ふとシャルロッテがなにか思い出したようだった。
「そういえば朝、ベルニスはなにか魔法を研究をするって言ってたわね」
ベルニスが人目を見られずに魔法の研究ができる場所といえば・・・家の地下室か。
「なんでそれをもっと早く思い出せなかったのよ。あーもう時間の無駄じゃない」
参謀本部と私の家はそう遠くなく、徒歩数分圏内にある。だがそもそも参謀本部がどこにあるかわからないと立地がいまいち想像がつかないだろう。王立軍の参謀本部兼軍務省の本庁舎はもともと郊外にある旧コマール騎士団の本部を使っていたが、人員が増えるにつれ手狭になったのと、単純に利便性の問題から市内中心部にある市庁舎とその周辺にある建物をつなげた施設を使っている。
つまりわたしたちの家はコマールの一等地にあるということだ。
「ベルニスどこにいるのー」
返事がない、ということは本当に地下室にいるのだろう。隠し扉を開け、地下室に向かうとそこには謎の呪文を唱えながら毒々しい色の液体を創造しているしているベルニスを見つけた
「・・・ベルニス、本当に何してるの?」
話しかけても気づかないので耳元で大声を出した。
「えーみんないつのまに来てたの?ごめんごめん、気づかなかったよー。それで何しに来たのー?」
「ベルニス、呑気に魔法の研究なんてして外で何が起きたかわかってる・・・わけないか。えっとね簡単に言うと戦争が勃発しそう・・・というかもう始まってるの。早くいかないと味方が大軍にのまれてボコボコになってしまうわ」
「えーなになにー、戦争が始まったって本当?ってことは魔法打ち放題ってことだよね?やったー」
戦争が始まったというのに喜ぶなんてこの子はどれだけイカれてるんだ。手綱を握っておかないとどうなるのやら。
「ベルニス、あんたの魔法は味方にも被害を及ぼすのよ。この前だってそうだし、そもそも魔王軍と戦ってるときだってさんざん私達に被害を与えたじゃない」
「そ、そうかなー。シャルロッテがいるから別によくなーい?」
「それってあたしがいなかったらだめってことじゃない。とりあえずピンポイントで敵だけに被害がでる魔法以外は全部禁止よ」
ベルニスはぶーぶー不満を口にしているが、シャルロッテがこんな場所で争っている時間は私達にはない。二人を無理やり外に連れ出し、私は用意していた馬にまたがった。
「なにぼさっとしてるのよ。早く行くわよ!」
「は、はい!」
全速力で一路ルーペ峠へ向かった。軍馬は山道もなんのこれしきと先に出発していた歩兵たちを次々に追い抜き、私達をルーペ峠まで最速で案内してくれた。
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