最弱スキルと全力勘違い女騎士





「は、はわっ!? ま、待ちなさーいっ!!」


王都アルトリウムの大通りを、銀髪の女騎士が全力疾走していた。鎧を着ているにも関わらず、なぜかやたらと軽やかに跳ねるその動きに、通行人が一斉に道をあける。


「おのれスリめぇえええ!! このアリエル=エルステリア=フォン=マジェスティアの眼をごまかせると思ったかぁ!!」


「名前、長っ!?」


背後から聞こえる長ったらしい自己紹介に驚いたのは、道端でぼーっとしていた主人公――つまり俺だった。


(俺の異世界生活、始まったばっかなんだけど!? 今、何!? この人、何!?)


状況が飲み込めないまま、ドゴォン!とものすごい勢いで目の前の角を女騎士が曲がってきた――と思ったら、タイミング悪くその場に立っていた俺と見事に激突した。


「ぐえぇっ!?」


「きゃふっ!?」


ゴロンゴロンと転がる二人。そして、尻もちをついた俺の目の前に倒れ込むようにして、女騎士が覆いかぶさる。


顔が近い。めっちゃ近い。騎士なのにいい匂いがする。ていうか、胸が……!


「……っ!? き、貴様、今、我の胸を見ただろう!?」


「違う! これは事故です! 異世界あるあるの初期イベントみたいなやつです!!」


「ぬぅ……変態かと思ったが、弁明が早いな。ふむ、よし、無罪!」


「はやっ!?」


その場で納得するあたり、ちょっとポンコツの匂いがした。


「名乗れ、変態未遂者よ。名を聞かねば始まらぬ」


「えーと……俺は、神崎タクミ。ただの日本人です。異世界転移してきたっぽいです」


「異世界人!? なんと……! なるほど、あの転移魔方陣の発動音、貴様であったか!」


なぜか納得したように腕を組む女騎士。情報処理早いのか遅いのかわからない。


「我が名はアリエル! アリエル=エルステリア=フォン=マジェスティア! 王国騎士団第三部隊、通称“くじ引き部隊”の隊長を務めておる!」


「くじ引き部隊ってなんか不安なんだけど!?」


「安心せよ、今月の当たりは我だ!」


「え、やっぱり不安!」


そう、こうして――


異世界で最弱スキル《他力本願》を授かった俺と、ポンコツ気味な真面目女騎士アリエルとの、世界を巻き込む(かもしれない)珍道中が、始まってしまったのだった。

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