第4話
遺跡から戻ったわたくしは、さっそく領地内の整備に取り掛かることにいたしましたの。まずは拠点となる屋敷の地下を改造し、簡易な指令室を設けますわ。
もちろん、古代遺跡の魔導中枢とのリンクも完了済みです。これにより、わたくしの魔力は距離を問わず、あの遺跡に残された魔導兵器群へと指示を飛ばすことが可能になりましたのよ。
「リゼ、この空間には作業台を設置いたしましょう。あと、魔力変換炉も。既に古代式のコアを移設しておりますので、適合率は98%ですわ」
「えっと、その……屋敷が、全部、研究所になってしまいそうな……」
「当然ですわ。貴族の屋敷など、見せかけの社交場に過ぎませんもの。わたくしにとっては、“何ができるか”こそが価値でしてよ」
リゼは、もはや何も言わず、黙って設置作業を手伝ってくれましたわ。こういう従順なところがまた、実にかわいらしい。
さて、次に手をつけるのは、村の人々の生活環境の整備ですわね。
この辺境の村は、農地も壊滅寸前、井戸水は濁っており、簡単な病気でも命に関わる始末。医術も魔法もまともに扱える者など皆無。かといって、王都からの援助は永遠に来ません。
「でしたら、わたくしがやるしかございませんわね。ええ、すべて。わたくしの手で」
早速、井戸の魔素濾過装置を作成いたしましたわ。これは地下からくみ上げた水を魔法陣で浄化し、同時に抗菌処理も施すという優れもの。魔力量は微量で済み、メンテナンスも自動化。どんな村でも、これひとつで衛生状態は劇的に改善しますのよ。
村人たちは最初、わたくしのことを“変わったお嬢様”と遠巻きに見ておりましたが、この井戸の水を飲んだ瞬間、その態度はがらりと変わりましたの。
「な、なんだこの水……!」
「胃が……痛くない……! 腹も、温かい……!」
そう、今まで彼らが“当たり前”と思っていた不調が、ただの“汚染された水”によるものであったと、初めて気づいたのでしょうね。哀れでございますわ。
村長らしき老人が、恐る恐るわたくしに近づいてまいりました。
「あ、あの……お嬢様。あんた……神様の使いか、何かですかい?」
「いいえ、ただの落ちこぼれ令嬢でございますわ。おほほほほ」
その笑いに、老人はぽかんとして、それから……泣きました。
まるで何十年も押し殺していた希望を、ようやく取り戻したかのように。
ええ、それでこそ、わたくしが来た甲斐があるというものですわね。
次は畑の再生ですわ。あまりにも土壌が死にすぎておりまして、魔法では限界があると思いましたの。そこでわたくしは、古代遺跡から抽出した“地脈触媒”を少量使用し、土壌の魔素バランスを調整。さらに、魔具式播種機と成長促進装置を合わせて配備。
村人たちは言葉も出ないほど驚いておりましたが、いいのです。それで。
「わたくしのやることは、常に“時代の三歩先”でしてよ。理解されるのは、いつだってあとから」
ただ、こうして黙って称賛してくれるモブたちの存在……悪くありませんわね。わたくしの成果に、心からの「すごい」をぶつけてくれる者たち。偽りなく、純粋に。そう、これこそがわたくしの“研究成果”に対する、最高の報酬でございますわ。
あとは、防衛体制の構築。魔物の侵入を防ぐには、遺跡から運び出した魔導兵器たちの配置を見直し、村全体を“見えない結界”で包む必要がありましたの。
「これより、エリア
作業は半日で終わりましたわ。自動で展開される結界によって、村の周囲は安全地帯となり、以後、魔物の接近は一切報告されなくなりました。
結果として、村の中には水が流れ、作物が芽吹き、魔物の影が消えたのですわ。
「これで、ようやく“最低限”の基盤が整いましたわね。さあて……次は、もっと面白いことに取り組みますわよ」
そのとき、地平線の向こうから、一頭の使い魔が飛んできましたの。
王都印の緊急便――すなわち、王都から何らかの“事態”が起きたという証でございますわ。
「……あら。早くも、わたくしの噂が広まってしまいましたのね?」
ふふふ。いいでしょう。来るなら来なさいませ。今度こそ、王都の無能どもに思い知らせて差し上げますわ。
わたくしが“遊び”で世界を変えていることを。
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