第2話

 屋敷の修復はわたくしの《応急構築魔具》ひとつで、半日足らずで完了いたしましたわ。


 ふふ、民間技術というものはどうしてこうも進化が遅いのかしら。王都の建築職人など、これを見たら鼻で笑ってくださるでしょうね。いえ、笑う暇すらないほど驚愕するに違いありませんわ。


「お嬢様、本当に……全部、ひとりで?」


「ひとりで、ではなく“魔具”で、ですわよ、リゼ。わたくしは設計しただけでしてよ」


 そう答えながら、わたくしは外に向き直る。まず最初に調査すべきは、あの黒い丘。


 村の外れに、奇妙なまでに草木が生えていない小高い丘がございますの。どこかで見たような構造……ええ、これは典型的な“沈下型遺跡”の兆候。地表から露出した石材と、極端な土壌の酸化、そして地脈干渉による魔素の過剰反応。すべてが一致しておりましてよ。


「リゼ、準備なさい。わたくし、あの丘を掘り起こしますわ」


「ええっ!? また、いきなり……!」


「常識では測れないのが、わたくしですもの。むしろ、いきなりでなければ意味がございませんわ」


 ふふふ。胸が高鳴るというのは、このような瞬間を言うのでしょうね。子供のころ、初めて魔導書の構造式を解読できたときと同じ、あの脳を震わせる感覚。未知と知識の狭間に立つ快感。これは、貴族の舞踏会ごときでは到底味わえない悦びですわ。


 リゼと共に、簡易魔導スコップを手に現地へ赴く。表層の土を削ると、すぐに硬質の石板が露出した。案の定、古代魔文明様式。しかも、この配置は――


「……間違いありませんわ。地下式の魔導貯蔵庫。上層防壁は、既に損壊済みのようですわね」


「じ、地下? じゃあ、下に……建物があるんですか?」


「ええ。それも、規模はかなり大きいものと見受けられますわ」


 わたくしは魔具用の解析レンズを取り出し、石板の表面をなぞる。文字が浮かび上がる――古代魔語。そのまま読めるということは、やはりわたくしの推測は正しかったのですわね。


 ──“第四格納区画・封印指定区画・鍵保持者以外の開封を禁ず”。


 封印指定? あらあら、ますます興味をそそられますわ。


「リゼ、立っていてくださる? これから、開けますわよ」


「……お、お嬢様、せめて少しは調査してからに……」


「“調査”とは、すなわち“開封”ですわ。わたくしにとっては」


 慎重なリゼの忠告もそこそこに、わたくしは腰に下げていた多機能魔具ミゼリ・デバイスの中央部をひねり、古代式魔力鍵の波長に切り替える。


 封印部に魔力を注ぎ込むと、ぎい、と古びた音が地面の下から響いた。


 その瞬間、丘の中心部がずるりと崩れ、空洞が姿を現す。


「ほぉ……これはまた、大変に良い反応ですわ」


 眼下に広がるのは、石で組まれた円形の空間。中央に不思議な装置らしきものが鎮座しており、あたりには……無数の小型魔導機が、崩れた状態で転がっておりましたわ。


「これは……魔導兵器!? しかも、未確認型……!」


 たまらず、わたくしは飛び降りました。衝撃を魔具で相殺し、装置の元へ駆け寄る。ああ、この形状、このエネルギー構造……もしや、これは伝説級の“自己成長型魔具中枢核”──!


 手を触れた瞬間、装置が淡く光を放ち、わたくしの魔力に呼応するかのように脈打ちました。


「うふふ……! わたくしの時代、始まりましたわね」


 この時点では、まだ誰も知らない。王国史に名を刻む大改革者が、いままさに地底の遺跡で“目覚めた”ということを。


 けれど――わたくしはもう確信しておりましたのよ。この地で、わたくしは自由に世界を創り変えてゆくのだと。


 そしてまずは、この装置を“動かす”ところから始めましょう。動けば使える。使えるなら、わたくしの領地は、既に勝利したも同然でしてよ。

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