学校一美少女の志音さんは異世界から転生した勇者様らしい
近藤玲司
第1話 志音さんは異世界の勇者らしい
「……ねぇ晴翔くん。もし私が異世界から転生してきた勇者って言ったら、晴翔くんは信じる?」
放課後の教室で、机に座りながら、いつもと違うような笑みを浮かべてその人は……如月志音さんは俺に聞いてきた。
ここは、とある地方にある学校の藤川公立高等学校。
この藤川公立高等学校にも学園の才女と呼ばれる人が存在している。それも同級生にだ。
今、目の前にいる如月志音さんだ。
成績は全てトップクラス。証拠に模試の判定でも日本の名門大学でSをもぎ取っている。また、運動神経も抜群、誰とでも関われるコミュニケーションの高さと、どこを見ても隙が見えないような完璧な人だ。
また、学校の中でも美女と言われる部類に含まれており、何十……何百の人の告白を受けて、玉砕してきたとか。
そんな如月さんは今、俺を見てニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。
「ほらほら。何か答えたらどうなんだー?それとも、私の言っていることが分からないのかな?」
「……すみません。少しだけぼーっとしていました」
……えっと、なんだっけ?如月さんが異世界から来た勇者だっけ?
この言葉を聞くだけでも、誰も信じないような内容だ。きっとこれを学校中に言えば、頭がおかしくなったと思われるほどに。
「……信じますよ」
そんな非現実的な言葉に対して、俺は躊躇いもなく頷いた。
すると、如月さんは驚いたように表情を固めて、目だけをパチリパチリと瞬きしていた。一応あなたが聞いてきたことなんだけど……。
「……私の言うことを信じるの?」
「うーん……確かに信じ難いお話ですが、如月さんが嘘をつくとは思えません」
「……もしかしたら嘘をついてるかもしれないよ?」
「その時はその時です」
一年間、彼女のことを見てきた俺だから分かる。如月さんは嘘をついていないと。
……まぁ俺の特技の人間観察というものだ。そこまで特別なものではない。
「……ぷふっ」
「?」
「あ、ごめん。私の言葉を信じる人っているんだと思って……ふふっ。あーおかしい」
すると、よほど先ほどの言葉が嬉しかったのか如月さんは吹き出したように笑い出した。
たまに見る彼女の寂しそうな表情とは対照的に今の彼女の笑顔はとても眩しく見えてしまった。
「やっぱり、晴翔くんっておかしな人だよね?少し変わってる」
「よく言われます」
「自覚してるんだ。でも……ふふっ、私の言葉を聞いて信じてくれたのは晴翔くんが初めて」
そう言いながら、如月さんは机から飛び降りてこちらに近づいていき、俺の手をおもちゃのようににぎにぎと握ってきた。
「じゃあ、信じてね?私の言葉。嘘じゃないから」
「……本当に勇者なんです?」
「あー!そうやって疑うー!よくないよ晴翔くん!上げて下げるなんて最低行為だよー!」
と、まるで子供っぽくいつもと違う姿を見せて如月さんは俺を揶揄うように言ってきた。
そんな如月さんの姿を見て、俺は困惑してしまう。何をしたらいいんだ……?
「……まぁいいや。あ、晴翔くんの家って私の近くでしょ?一緒に帰ろうよ」
「え?は、はぁ……てかなんで知ってるんですか?」
「勇者ですからね。なんでも知ってるんですよ。えへん!」
「勇者って言葉ならなんでも許されると思っているんですか?」
「……バレちゃった?」
そんな如月さんに振り回されながら、結局俺たちは今日一緒に家に帰るのであった。
……初めて話したのに、やけに話しやすかったのは内緒だ。やっぱりコミュ力の高い人って凄いと思いながらも、俺は橙色に染まった空を見上げた。
◇
(……やっぱり、思った通りだ)
如月志音は夕日を見上げる同級生、晴翔の姿を見る。
自分が今まで隠してきた秘密をなんの躊躇いもなく信じると言い切ったその男の子を見て、彼女の心はどこか温かいものに包まれていた。
(私の目は、やっぱり見間違いじゃなかった……あなたなら信じてくれるって思ってた。あはは、なんだか嬉しいなぁ……)
この日、彼女は自分の言葉を唯一信じてくれる運命の人を見つけた。
バカみたいで非現実的な、幻想と思われる……そんな物語を信じてくれた人が。
これからの日々を考えながら、彼女はこの世界で生まれて初めて何者にも囚われることなく、心から笑みを浮かべたのであった。
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