炎蒸と過冷却W密室事件part.14 結果
「……だ、大丈夫か? 本当にそれで……それでまたアイツに何か言われたら……いや、お前の選択にケチを付けようって訳じゃないんだけどな……でもな」
礼太郎の言葉に僕は力強い意識で頷いた。
「分かってる。心配する気持ちもよく分かってる。だけど」
そこで秋風さんが礼太郎の肩に触れて、菜月さんが背伸びをしてぽんと頭に手を置いていく。
「そのために私達がいるんでしょうが! もし一人の選択が間違ってたとしても、一緒にやってきた私達のミス! 一緒に責められようじゃん!」
「で、下らないこと言ってきたら、それこそあたしがガツンと言うし。最悪、友継が回転アタックを食らわせればいいだけどだけど!」
「ぼ、暴力はやめとこっか。てか、友継くんに何をやらせるつもりなの?」
ともかく、問題はない。皆がいるから心強い。
たぶん学園喫茶になったのは、探偵部だけでは出会えない仲間を見つけるためのものではないだろうか。
設立した秋風さんは口ではそう言わないとは思うが。探偵部以外でも色々な人を見つけて、礼太郎の狭い視野をぶち壊そうとしたのではないか。
自分の全てを、青春への思い込みを打ち壊された僕はそう思うのだ。
何とか、僕達は歩き出す。
「で、結局どうなったんですか? この夢は追った方がいいんですかね……?」
緊張が走る。先程まで食べていた賄いのうどんの味も忘れてしまう程。
彼が真実を伝えてどのように反応するのかが全く分からないから。自分達がどのように動けばいいか分からず、
期待を目に込めた依頼人の前に座るは、礼太郎。
彼は僕達の後押しのせいか、「自分でやる。一応、俺の噂を聞いて助けを求めに来たんだ。俺が責任を取らないとな」と。
本当に怖かった。
礼太郎がいて、成り立つここの学園喫茶。今日だって色々うどんの出汁を作ってみるなど学園喫茶というよりかはレストランっぽい仕事ではあったのだが。
醤油やみそ、カレーなど色々試して、それが時々不味くて。それでも皆で笑っている時間が楽しかった。
また礼太郎の心が壊れたら。礼太郎のぶっ飛んだアイデアなんて出なくなる。きっと笑っている余裕も無くなってしまう。
そんなのは嫌だ。嫌だけれども。今の礼太郎が向き合う問題を何とかできれば。
停滞していたものが進んでいく。道が切り開かれている。僕の中の天使が悪魔みたいにそう囁いてくるのだ。
皆が見守っている中で礼太郎が話を進めていく。
隣で聞いている秋風さんの唾のごくりという音が聞こえてきた。
「で……君の憧れていた先輩はカードに臭いを付けて、勝っていた可能性があるんだ。カードゲームで勝負していた訳じゃない……反則負けなんだ」
反則負け。重い言葉。
依頼人はそれを自分自身に言われた訳ではないのに。黙っていた。腕を組んで、眼を閉じている。
何を言われるか。僕はその口をいざとなったら、塞ごうかと心の準備までしていた次第だ。
ただ、だ。
「ううん、それで一応つじつまは合うんですよね?」
「ああ……絶対とは言えないが。カードゲームの勝率からしても、その可能性は高い。疑惑がある以上、それを憧れてっていうのはあまり勧めた話ではないな。それでも、というのなら止めはしないが」
その言葉の返答は……。
「……やっぱりですかー」
「えっ?」
笑っていた。笑いながら、話していた。
「やっぱりそうなんですねー! いやぁ、すみません。憧れてはみたんですが、時折何か違うなぁ、なんとは思ってたんですよ。先輩も怪しい先輩だなぁとは思ってたんですけど。でも、なんか凄いし、賞賛してる人もいるから、自分も流行りに乗っておかなければなぁなんて思ったんですよ」
菜月さんは「別に流行りに乗ればいいって問題じゃないわよ」と。一番流行に乗って、きゃっきゃぴっぴしそうな人だったが。
秋風さんも雪平も哀れな、感じで見つめている。
それでも気付かず、依頼人は告げる。
「親の反対もあながちと言うか、全く間違ってませんでしたね。すみません。ちゃんと論理的に説明してくれて、やっと納得できたところもありますんで、凄い助かりました! って、あれどうしたんです?」
気付けば雪平が大きな体で依頼人に近づいている。そこで何だか慌て始める依頼人。
「えっ、ちょっ!? ちょっ!? 何々!? 何、この威圧感ってか! 何でカウンセラーの方もなんか……泣きそうになってるんですか!? あれ? あれ? このまま激辛カレーとか食わされるパターンですか」
「そんなことはしない……ただ……」
「ただ、何をするつもりなんでしょうか!」
「取り敢えず、鍋の具になってもらうか……」
あまりにもふざけた話だったためか。そのために礼太郎や僕達は酷く重い悩まされていたのか。
「ちょっ! 夜にやってると思ったら、まさかそういう……! あっ、今話題の七不思議、夜の校舎を全速力で追いかけっこする人体模型と爆弾で対抗する骸骨に加えて、こっちもですかー!? 一人一人人が消えてく学園喫茶、まさか実在していたとは……!?」
たぶん、その人体模型と骸骨は僕と秋風さんではなかろうか。誰か見ていたのだろうか。
最中、泣きそうだった礼太郎が笑い出す。
「まぁ、まぁ、まぁ、良かったじゃねえか。悩みが解決できてさ!」
礼太郎の様子を雪平が確かめていく。
「いいのか?」
「ああ。別に、な。悩みが解決できて。俺達のおかげで何とかなったんなら、そりゃあ良かったってことだ! 別にこれ以上、ああだこうだする必要もねぇ! さっ、他に悩み事はないのか?」
「あっ、他の悩み事も相談していいですかっ! それならそれなら! 学校の七不思議について調べてほしくて!」
「おう! 任せておけっ!」
礼太郎が元気になったのはいいが。その調査は僕達も一緒にやらされるのではなかろうか。
秋風さんは片付けを素早く終わらせている。そして菜月さんはコソッと帰っていた。
「なっ、コノハ……あれ? カレンも消えてる? 友継も?」
残っているのは僕だけだ。逃げ遅れてしまった。
「じゃあ、この悩ませている人体模型の話を」
「おうよ! 調べてまた次までに教えてやるから、待ってな!」
僕は礼太郎に振り回されることとなるのだ。ほんの少しだけ思ってしまうこともある。「安請け合いしようとする性格は変わってないんだなぁ」と。
お悩み相談も場合によっては有料にした方がいいのではないか、と提案したくなるのをグッと堪えるのであった。
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