お師匠様は渡しません!
紫糸ケイト
Day 1 五月雨王朝の二人の回収師 上
私がお師匠様から教わった最初の事は、平和はタダじゃないって事でした。
自分の身は自分で守る、それが出来ないのならお金を払って守ってもらうか、運良く生き残るかどうかのギャンブルをするかの二択しかない。
そう言われた事を今でも鮮明に覚えています。
私の両親が悪魔に殺されたのは弱かったから。
悪魔の襲撃でいろいろな人が苦しんで、死んでいくのも弱いから。
弱いのは、それだけで死に値する罪なんです。
それはここ、第六大陸"五月雨王朝"であっても変わりません。
外の海と呼ばれる人体に悪影響があり、神やお師匠様レベルで無いと倒せない魔物がわんさかいる場所を越えた先からやってきた悪魔は、最前線だった第四大陸"アメア・ローフィン"を飛び越え出没し、今やどの大陸でも悪魔と戦う事を強制されています。
ですが、強くなれない人もいるでしょう。
弱き罪と向き合わない代わりに、お金を出して免罪符を手に入れる方法は決して悪い物ではありません。
だからこそ、私達のようなビジネスが流行るのだと理解しています。
依頼主と契約し、共に行動して主を守る傭兵。
未開の地の開拓や悪魔の拠点攻略、悪魔の討伐を依頼でこなすハンター。
どちらも人気の職業です。
ですが実力が無いとすぐに死ぬ職業であり、腕も依頼達成率もピンキリになります。
お金があればいい人を雇えますが、あなたにはもっといい選択肢があります。
それは私達、回収師と契約するという素晴らしい選択肢があるんです。
さて、お客様は回収師はご存知ですか?
回収師を簡単に説明するなら、契約者が危機的状況になったら必ず現れる傭兵です。
常に行動を共にする傭兵はお金を支払って契約しますが、裏切るかもしれませんよね?
ハンターは、虚偽の依頼達成報告をしてきたり、望んだ成果を得られないかもしれませんよね?
ですが、回収師は違います。
お客様が本当に必要な時に必ず現れ、お客様を守り、自宅まで送り届けます。
さらに私達の店は確実な命の保証付き!
さらにさらに、行方不明やダンジョンに出発してしまった人の連れ戻しも対応可能です!
料金はお客様の出発5日前契約で30%引き!
当日不安になった方も大丈夫、当日契約も対応します!
ダンジョンに行った恋人や子供を連れ戻すなら、出発後契約を是非ご利用ください!
(出発後契約は時価となります)
自分の命、大切な人の命。
その本当の価値を理解している賢きお客様は、是非当店をご利用下さい!
さて、お客様を助ける優秀な回収師を紹介しましょう。
まずこの文を書いている私の名前はラタ・ルリラ、回収師です。
しかもつよつよクール系の美少女です!
お師匠様と第六大陸にやってきた見習い魔術師ですが、上位悪魔を何度も倒している優秀な回収師です!
趣味はお師匠様を愛でる事とお師匠様から雑に扱われる事とお師匠様の下着を……。
「こんな怪文書を表に出せませんわ!」
私が文書を書いていると、机をひっくり返された。
「ちょっと! まだ書いてる途中なんだけど!」
「いいですか、ラタの書いた文書、これは使い物になりませんわ! まず他の職業を見下す文書にしない、次に最初の自分語りはいらない、最後に自分を美化しない!」
私の前で騒いでいる金髪エセお嬢様は私と同じ回収師のルサンチマン。
私の唯一の友達で、泥棒猫リストナンバー2。
コイツはお師匠様との距離感が違う、適度に距離を保っているように見えるけど、目を離すとすぐにいい雰囲気になってたりもする。
油断できない女です。
「でも集客用の文書を書けって言ったのはルサンチマンじゃん、広告に載せるから頑張って書いてたのに!」
「まともな物を書きなさい! まともな人が読んでも大丈夫な物を書いて下さいな!」
「そもそもこんな宣伝文は元々お店に無かったじゃん! 何で書かなきゃいけないのさ」
「第四大陸の頃はタリラさんの」
「タリラ様!」
コイツまた……お師匠様と自分の距離のアピールを……ぐぬぬ。
「はいはい……えっとですね、タリラ様の名声だけで人々は安心して依頼をしてきていましたがここではそうは行きません」
それは確かにそうだけど……この文でダメだったら……。
「お師匠様以外に興味無いし、書くこと無いよ」
「そのお師匠様が居ないからわたくし達でこの店を守らないといけないんですの! それなのに未だ客はゼロ! 潰れますわよ! 明日の食費も怪しいんですのよ! お金が無いんですのよーッ!」
机をバンバン叩きながらキーキー騒がないでよ、うざい。
まぁでも、言ってる事は間違ってません。
第四大陸でお店をやっていた時は、"あの"タリラ様の店だと評判があって、客はお師匠様の事を信用して来てくれていましたが、今は私とルサンチマンしかいません。
さらにさらに、ここは第六大陸。
お師匠様の名声は広まっておらず、回収師という職業もほとんど知られていません。
このままでは本当に潰れてしまいます。
「お師匠様が居てくれたらなぁ」
私のお師匠様、タリラ・ルリラ様は今ここには居ません。
あの嫌そうな顔で、私を雑な扱いをしてくれません。
……寂しいです。
「師匠が居ないのは貴女だけではなくってよ、わたくしの師匠のセクションさんも居ません、寂しいのは分かりますが」
「寂しいけどそれだけじゃない! 考えてみてよ、お師匠様とセクションさんが二人で仕事してるんだよ!?」
お師匠様とルサンチマンの師匠のセクションさんはこの第六大陸の五月雨王朝に呼ばれて仕事をしている。
ついて行きたかったけど、あのお師匠様の目を見たらそんな事言えなかったし、こっそりついて行く事も出来なかった。
それに……。
『お前じゃ足手まといなんだよ、私の為を思うなら着いてくるな』
そう言われてしまったら……従うしかありませんでした。
でも、これがもしセクションさんの策略なら話は変わってきます。
そう、
『タリラ、ここならあの子達は居ない、いいわよね?』
『やめろ……お前にはルサンチマンが居るし、私にはラタが』
『師匠なら弟子をリードしないといけない、だからアタシがアンタにいろんな事教えてあげるわ』
『……ダメだ、裏切りになっちまう』
『大丈夫、これは練習よ、だから……気持ちよくなっても裏切りじゃない』
『ラタ……ごめん……』
「みたいな事になってるかもしれない!」
「あるかーッ!」
ルサンチマンがまた机をひっくり返した。
「セクションさんもタリラ様も同性! ありえませんわ!」
「でも同性だからって油断したら……お師匠様があぶない!」
今日の定時連絡はまだだけど、とりあえず確認しないと!
「ちょっと、何してますの」
「お師匠様の貞操が危ないの!」
「……は?」
「きっとセクションさんに練習だと言われてそのまま……うがぁぁぁぁ!」
「わたくしの話を聞きなさいこのバカ!」
私は優秀な魔術師です。
お師匠様に教えてもらった距離があっても魔術を使って会話をする事が出来ますし、相手の顔も確認できます。
高度な魔術ですが、耳が幸せになる声を聞く為、お師匠様の顔を見る為に死ぬ気で習得しました。
「タリラ様も暇じゃないんですのよ! 第四大陸から避難してくる人々の受け入れをしてもらう為に仕事をして信頼を勝ち取るんだと言っていたのを忘れたのですか!?」
「それは分かってる! でもそれとこれは別! 連絡魔術、ボンド・ルリラ!」
空間に青い光が飛び散って、それから窓と同じぐらい、私が乗り越えて入れるぐらいの大きさの映像を映す。
よし、繋がった!
『まだ定時連絡の時間じゃないぞ、どうした?』
画面の向こうに映る私の、私だけのお師匠様、タリラ様。
クリーム色の髪はツヤツヤで美しい。
凛々しい目つきも最高。
控えめな胸も愛らしい。
全てが……最高。
ハッ、いけません、ちゃんと警告しないと!
「お師匠様! セクションさんに乗せられて変な事したらダメですからね、練習でも浮気です!」
『……ハァ、ルサンチマン、うちのバカが迷惑かけてて悪いな』
「本当に……苦労してますわ」
「今お師匠様と話しているのは私です、なのに何でルサンチマンの名前が出るんですか? 浮気ですよ、浮気するんですか? 目の前で浮気なんですか!?」
『女同士、弟子と師匠でそもそも変な関係にはならない』
むむむ……そうは言うけれど……いつかお師匠様を私の物にしてみせます。
『タリラ、お風呂沸いたわよ』
この声は泥棒猫リストナンバー1の超要注意人物、セクション・フィーラ!
赤い血のような髪は気持ち悪い。
猫みたいな瞳はお師匠様をいやらしい目で見てる、気持ち悪い。
さらにさらに、あの誘惑する為についてる胸!
ダイエットしろと言ってやりたいです。
私よりも少し強いからって……ムカつく!
それに私よりお師匠様との付き合いが長いのかもしれないけど、過ごした時間よりも質のほうが大事だって事を今度こそ……。
「って、お風呂!?」
『あ、今入るよ』
『ならアタシも一緒に入るわ』
『個別に入ればいいだろ、急ぎの仕事も無いし、ゆっくりさせてくれ』
『節約よ節約! お湯張るの結構高いんだからね、ほら、さっさと脱いで』
セクションさんがお師匠様に抱きついてる。
お、おのれセクション。
許しません、絶対に許しません!
『こら! 勝手に脱がそうとするな! もういいな、また明日連絡しろよ!』
「ちょっと、お師匠様!」
連絡魔術が……消えた。
え、セクションさんとお師匠様が一緒にお風呂?
絶対これ……あっ、ダメだ。
脳が破壊される音がする。
「えっと……ラタ?」
無理、今日はやる気しない。
眠ろう、悪い夢です。
「もう今日は仕事しません、眠って回復しないといけない」
「また……ハァ、まぁどうせ今日もお客様なんて」
入口のベルが鳴る。
え、こんなタイミングで客?
「ふぬぬぬーっ!」
ベルは鳴ってる、扉も少し動いてる。
だけど、誰も入ってこない。
「誰?」
「見てきますわ」
ルサンチマンが扉を開けると、そこには黒色の服と羽の……小人がいた。
あれは……小人より小さい、私の顔より小さい……妖精ってやつでしょうか。
お師匠様から聞いてはいましたが、見るのは初めてです。
「ありがとうございました……でもこの扉重いです! もっと妖精にも優しい作りにしてくださいよ!」
お師匠様と私の愛の巣の入口をバカにしたな、このチビ。
「消す」
私は炎で刃を作り、妖精を取り囲んだ。
「あわわわわ」
「待ちなさいラタ! お客様ですわよ、一月ぶりの大切なお客様です! おやめなさい、ラターッ!」
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