第10話 魔法少女からのバトンだよ
「はぁ。はぁ」
「おねえっちゃん!」
「大丈夫、大丈夫だからねっ!」
「待てゴラァっ!」
小学生くらいの女の子を抱えて逃げる咲子の背中は袈裟に深く斬られていた。
血反吐を吐きながらも子供を守るべく必死に走っていた。
「クソっ! 早く止まれぇ!」
追いかける男は能力を使わずに走って追いかけている。
咲子の方が足は速いが相当なダメージを負っている状況に子供を庇っている。
追いつかれるのも時間の問題だろう。
「他人の子を庇う理由なんてねぇだろ! さっさと病院行かねぇと死ぬぞぉ?」
「他人とか関係ないっ! 助けないといけないんだ!」
だが、無情にも地面の凹みに足を取られてドサッと転けてしまう。
子供を庇うように自分を下敷きにしたため背中に深刻な痛みが走る。
「やっと、追いついたぞ」
魔の手が女の子に伸びる中、俺が上空から飛来した。
「ギリギリ間に合った!」
「えっ?」
「せいっ」
俺は顔面を蹴り飛ばして男を吹き飛ばした。
咲子の背中から血が大量に流れ出ている。
「スカーレット⋯⋯さん」
高校生がどうしてこんな事件に巻き込まれないといけないのか。
俺には分からんね。
だが、咲子は女の子を守ろうとしたのは誰にでも分かる。
今度は俺が守る役だ。
「救う事こそ魔法少女の本懐。我が身がある限り救いの手は伸ばすっ!」
「痛いなぁ。なんだテメェ! コスプレイヤーかっ!?」
違うしっ。
「私は魔法少女スカーレット! アナタを倒すっ!」
魔法少女でもないがな。
恥ずかしい言葉の羅列を平然としながら拳を固める。
魔法少女の姿は制御が一番利かない姿となっている。
実際、俺はまだ何も自分の意思で動かしていない。
だけど今回は咲子を助けると言う考えが一致しているため、ツッコミはしないでおこう。
自己宣言とかは恥ずかしので止めて欲しいけどね。
「アホくせぇ。ヒーローでも無い奴に俺が負けるかよ!」
男が腕を斜めに振るった。
空気が揺れるのを超次元の動体視力で捉え、風の斬撃の側面を殴り飛ばした。
電線に作られた蜘蛛の巣がバラバラに切れる。
「は?」
「これが彼女を斬った攻撃か?」
逃げているのに能力を多用しなかったのか?
理由は⋯⋯誘拐予定の女の子を同時に殺さないようにするためか。
相手の攻撃は見切れる。ならば、と俺はスマホを取り出す。
「もしもし。救急車をお願いします。怪人に女子高生が斬られました。かなりの出血をしています⋯⋯」
「そんな余裕があるのかよ!」
風の斬撃を無尽蔵に放って来る。
弾き飛ばすのは周囲を破壊する可能性があるのでもうしてはいけない。
だから、俺が⋯⋯俺とスカーレットが選ぶ選択肢は同じだ。
「はぁあ?」
風の斬撃を叩き砕く。
斬撃の側面を殴り飛ばずのではなく、真正面から殴って破壊する。
全ての斬撃を殴り破壊すると男は目が飛び出さん程に驚愕した。
俺もびっくりだ。
この魔法少女、魔法使わないけどフィジカルがもはや魔法だ。
「良し、少しすれば救急車が来ると思うから、もう少し頑張ってね咲子ちゃん」
「⋯⋯はい」
俺はスマホをしまって男を睨む。
「クソっ! なんだってんだよ! なんなんだよお前!」
「言ったはずよ。私は魔法少女スカーレット。救いの手を差し伸べる者だ!」
地面を蹴って加速する。
もう相手に攻撃はさせない。
「くっ!」
左手を動かそうとしたので、左手首を掴んで阻止する。
「何っ!」
「はあっ!」
力任せに正拳突きを男の腹に決めて、気絶させる。
ひとまずこれで安心だろう。
後はヒーローか警察に連絡すれば終わりである。
俺は女の子と咲子に歩み寄る。
地面に倒れ血を流し続ける咲子の元で屈む。咲子の掠れた目を覗き込む。
「怪人は倒した。安心して良いよ」
俺は優しく微笑んだ。
「⋯⋯良かった」
「お姉ちゃん!」
安心したのか、ぐったりと意識を飛ばす咲子。しがみつく女の子。
このままでは持たないかもしれない。
変身先の衣装では消えてしまう可能性がある。
「ごめんなさい」
俺は咲子の服を破って包帯の代用として傷を塞いでおく。
それでも焼け石に水。気休め程度だ。
「後は彼女の気の強さと医者に任せるしかない。⋯⋯お話を聞かせて貰える?」
救急車のサイレンを聴きながら質問する。
俺は咲子が守った女の子に話を聞くべく声をかけた。
女の子は最初ビクッと恐怖したが、咲子の事は信じているのか咲子が助けを求めた俺に口を開く。
「い、いきなり⋯⋯あの人が、襲って来て」
予想通りか。
なら次は。
「アナタの能力を教えて欲しいな」
「わ、私の能力は⋯⋯ひ、人の気配にび、敏感になる能力です⋯⋯だいたい、20メートルくらいの、気配が、分かります」
「⋯⋯そう。そろそろ救急車に乗ってお医者さんが来ると思う。今の時代回復系の能力者が絶対に乗っているから咲子ちゃんは絶対に助かる。傍にいてあげて欲しいな」
「⋯⋯はい。えと、魔法少女のお姉ちゃんは?」
「私? 私はそこの悪者を正しい場所に連れて行く。危険だからね。咲子ちゃんをお願い」
「⋯⋯うん!」
「良い返事だ」
ニコッと笑うスカーレット。
こんな感じのムーブは心にも優しいのでこのままでいて欲しいね。
さて、と。
俺に操作権が移ったので男を片手で持ち上げ、人気の無い場所まで移動する。
よく分からない建物の屋上にやって来た。
「さて、正直反吐が出そうだけどやるしかないわね」
俺はリリスの姿となって男の顔面を平手で叩いた。
パチンっと良い音が響き、ゆっくりと男の目が開く。
「な、なんだお前!」
お前のような奴なら耐性は低いだろう。
もう色々とやけくそだ。よーく見ておけ!
ボロンっと俺は胸を露出させた。
クソがっ。なんとでも言え!
「話を聞かせなさい」
「⋯⋯はい」
男の方がチョロくて良いね、とは思わねぇーからな。
俺は急いで服を元に戻す。
「⋯⋯単刀直入に聞くわ。アナタはグリーダーの一員かしら?」
「はい」
「目的は? 誘拐した能力者は無事なの!」
俺は無意識に声を荒らげていた。
「今の目的は索敵系の能力者を集めて無能力者にそれらの能力を与えてヒーローから逃げる事です。能力には適正があって元の能力よりも効果が下がったり、そもそも発現しない事がほとんどです」
今の目的は⋯⋯か。
「目標は誰にも手出し出来ない能力者組織を作る事です」
一体何のために⋯⋯。
早急に潰したいと思うのは俺だけでは無いだろうな。
「誘拐した能力者は全員無事だと思います。奪った能力者の源となった人の精神崩壊、及び死亡により略奪した能力が消えるからです」
「ふーん。その組織にはボス以外全員元無能力者なのかしら?」
「武闘派の攻撃系の能力者は純粋な能力者の割合が高いです。攻撃系の能力の適正がある無能力者は限りなく少ないので」
「つまりアナタは自分の意思でそんな腐った組織に入ったと言う事ね」
「肯定します」
俺はその後、場所と構成員の数と能力など、男の知る限りの情報を聞き出した。
「今ずくに自首しなさい。自分の犯した罪を素直に吐き出しなさい。そして私の事は完全に忘れなさい」
「はい」
屋上から飛び降りた。⋯⋯大丈夫かそれ?
ま、良いや。犯罪者の身の安全なんて知るか。
俺は元の俺に戻る。
春夏へと電話をかける。
「ハル?」
『どうしたのリン? こっちはまだビラ配りしてるよ』
「ハル、もう大丈夫だ。止めて良い」
『はぁ? 何言ってるの!』
怒りの言葉が飛んで来る。
そりゃそうだ。
「ナナは無事だ。そしてもうすぐ助けが入る」
『どうしてそんな事がリンに分かるの!』
「たまたまその情報を手に入れたからだ。俺は暫くしてから家に帰る。今日も一緒にご飯食べよう」
『そんな状況じゃないんだよ! 分かってるの!』
「ハル、詳しくは言っちゃダメな約束なんだ。⋯⋯ハル、俺を信じてくれ」
『⋯⋯もしもナナが助かっていなかったら⋯⋯許さないからね』
「ああ。当然だ」
春夏との電話を切り、俺は姿を変える。
「ナナと利冴を助けに行くのじゃ」
この事件、根っこから終わらせに行こう。
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