第24話:黒髪ロングオッドアイミニスカ黒セーラー服

「そのサラ……紗羅? とかいう特徴的な発音の女性はどんな人なの?」

 

「ふむ。そうだな……どう言った物か」

 

 アリスの問いに対して、いつものように僕は何やら意味深な雰囲気を作り出しながら考える。

 

「……また思わせぶりな態度……どうせ毎度の如く何かあるのでしょうね」

 

 これまたいつものようにジト目で軽く睨んでくる銀髪に対し、僕はもう少し良い感じの『タメ』を作りながら考えていた。

 

 紗羅がどんな人か、ねえ。

 

 ──まず最初に挙げるならば。

 

 アルカディアにおいて、『新世代の2大天才』と呼ばれていた2人の少女。

 知っての通り、その1人であるルナはアリスとランバートの弟子であり。

 そして、2人目(年齢やアルカディアに来た時期としては彼女の方が早かったりするため2というのは便宜上だが)である紗羅は……

 

 あのアホのフェリシアと何故か僕が受け持つ女の子だった。

 

 

 ────

 

 

 

 

「迷宮の『魔』だ! 『魔』が侵攻してきたぞーっ!!」

 

 その一報により、平和なダルシムの街は一転して地獄と化した。

 

 迷宮の『魔』。

 それは神獣に守られた遺跡の内部に住むと言われる伝説の怪物であり、かの世界最強の生ける伝説たる龍帝の伝記に記された存在。

 

 その凶悪な爪は全てを容易く引き裂き、圧倒的な威力を誇る魔法の前には城壁さえ心許なし。

 そして何より最悪なのは、仮に首を刎ねられようと物ともしない無限の再生能力。

 まさしく伝説に謳われる最悪の化け物だ。

 

 世界の端にも逸れた『魔』が存在していると言われているが……そもそもそんな場所にわざわざ行く理由もないため、誰も確認した事のない眉唾情報でしかない。

 

 ──奴らは百年に一度、人里に降りてくると言われている。

 しかしそんな姿を目撃した者は当然いないため、誰も警戒などしていなかった。

 ダルシムの街は恵まれた地形に胡座をかいていて、付近にある遺跡の事など誰も気にしない平和ボケした街であり、それ故に発展性も乏しい中堅規模の街に過ぎないのだ。

 

「さて、ほんとに居るのかな? 伝説の怪物さんは」

 

 街が絶望に包まれたり、民たちが逃げ出そうとしたり、兵たちが対抗を叫んだりする様子を他所にして。

 白猫族のホープたるニャルメは外壁に設置された物見台へと身を登らせ、件の『魔』を見ようとする。

 すると。

 

「あ〜。ほんとに来てんじゃん……」

 

 彼女が漏らす通り、遠くに見えるのは、距離が離れている以上詳細まではわからないにせよ……どう見ても強大な力を持っていそうな邪悪そのものたる風貌の生物。

 まさしく伝説の通りの『魔』の姿があった。

 つまり伝令の報せは事実であり、そして。

 

「しかも、2匹? ……うん。これは無理だな」

 

 更なる絶望的な情報として、白猫族ニャルメの優れた視力は1匹目の後方に2匹目が控えている事実を発見したのである。

 

 先程も述べたように、遺跡を付近に有し、世界の南西に位置するが故に海に面するダルシムの街は、異種族の侵攻の恐怖にも晒されず、平和ボケの様相を呈する街だ。

 そんな街の戦力で『魔』2匹になど勝てるはずがなく。

 

 ニャルメは近くにいた兵士に向かって。

 

「ねえ。町長に伝えてよ。『2匹居る。この街の戦力じゃ無理』って。……安心しな。逃げる時間は稼いであげるから」

 

「に、2匹……? わ、わかりました!」

 

 兵士は去って行った。

 ──伝令の任務に託けてこの場から逃げられる事を喜びながら。

 

「……まあ、そうだよね。みんな、そんなもんだ」

 

 最早滅びが確定した街の為に、絶対に勝てない怪物に挑んで無駄死にするなんて馬鹿げた話だ。

 白猫族は元来個人主義の性質が他種族より強めの傾向にある種であるが故に、それは尚更の話だった。

 

 まずは自らの命が助かってこそ。

 それは至極真っ当な考えであり、誰しもが最初に考えるであろう生物として極めて自然な生存本能だ。

 

 ならば、自分は? 

 ──ニャルメは首を横に振り、周囲を見渡す。

 

 すると、ほとんどいなくなった一般兵とは異なり、戦準備をする魔法使いが複数名いる様子が見えた。

 

「ふーん? 魔法使いは幾らか残ったんだ。まあ遠くから打てるだけ打って逃げるなら死にはしないって算段か。……いくら積まれたんだか」

 

 白猫族がこうした行動を取る時は、いつだって大きな金が動く時。

 金のために戦う事自体は否定しないが……あまりにも彼らは見通しが甘い。

 彼らの作戦は『魔』の足が遅かったり遠距離攻撃手段を持たなかったりする事が前提だ。

 

 ニャルメは昔から疑問に思っていたのだが、なぜ皆は近接が強い奴は鈍重だったり魔法が使えなかったりするみたいな謎の思い込みをするのか。

 

「まあ、いいよ。戦力がいるに越した事はないしね。それに……」

 

 彼女は戦いの日々を生きる中、いくら強かろうと見通しが甘かったり注意が足りなかったり警戒が薄かったりする奴は早死にするという姿を沢山見てきた。

 力だけの馬鹿が好き勝手にして生き残れるほど世界は甘くないのだ。

 

 しかし、彼女は『魔』のあまりに強大かつ邪悪極まる姿を遠くに見ながら。

 

「あたしも、同じか」

 

 早死にする愚か者とは、まさしく今から勝てないとわかりきった戦いに臨む自分の事でしかなかったから。

 

 

 ──そうして、戦準備を終えて暫く。

 

 伝令による、『魔』が外壁に到達したと叫び声が聞こえた直後。

 

 ドガアアアァァ!! 

 

 凄まじい轟音が響き、外壁から煙が上がる。

 どう考えてもそれは腕力によるものではなく。

 

「……魔法か。やっぱり使えるんだ」

 

『魔』が凶悪な威力を持つ魔法を操る事が明らかになった。

 先程述べたようにニャルメとしては予想内の話ではあったのだが。

 

 ゴガアアアン!! 

 

「外壁が保たない! 逃げろおおおお!!」

 

『魔』の攻撃のあまりの威力に今更恐れをなした大半はそう叫び逃げ出す。

 ……だけならまだしも。

 

「ひ、ひいぃ……」

 

 恐怖のあまり逃げ出す事すら出来ない者も居た。

 ニャルメは一瞬その方向に目だけ向けるが、とはいえ流石にこの状況下でそんな足手纏いに構ってはいられない。

 

 なぜなら。

 

『グオオオオ!!』

 

 ニャルメはこれから壁を打ち破ってきた『魔』と面と向かって地獄の時間稼ぎを演じるつもりだったから。

 

 とはいえ、まずはニャルメが出る前に魔法使いたちによる第一陣。

 

「『炎の矢』!」

 

「『氷の礫』!!」

 

 などなど、様々な魔法が『魔』に降り注ぐ。

 すると。

 

『ガ……ガオオオオ!!』

 

「効いてる! 少しだが効いてるぞ!!」

 

 1発1発の効果は薄いとはいえ、こう何発も受けると流石の『魔』も傷ついている様子が見えた。

 皮膚は爛れ、煙が上がっている痛々しい姿を晒す『魔』。

 

 それを見て魔法使いの1人が歓喜の声を上げる。

 このまま行けば勝てそうだと。

 

 しかし。

 

「ダメだ! すぐに再生しやがるっ!!」

 

「う、うわああああ!!」

 

 即座に再生し、何でもない様子を見せる化け物。

 恐れを成した魔法使いの幾人かは逃げ出したが。

 

「まだだっ! 『炎の矢』っ!!」

 

 幾らかはまだ粘って魔法を撃っていた。

 だが、ニャルメはそんな彼らを見て。

 

「馬鹿、逃げろって!!」

 

『グオオオオ!!』

 

 ニャルメの叫びと同時に『魔』も叫び声を上げて、そして……

 

 轟音と共に魔法が放たれ、辺りは地獄と化した。

 

 

 ──死屍累々。

 まさしくその表現こそが相応しい惨状。

 

 ニャルメはそれに眼を向け、一瞬悼むような表情をするが。

 

「さてと。じゃあ行きますかね!」

 

 彼女はそう言って勇む。

 

 魔法部隊は最早壊滅した。

 衛兵は逃げ出し、前線を担える存在は彼女1人。

 

 そうして、唯一残った自らを見つめる『魔』に向かっていく直前。

 ふと、ニャルメは自分の自慢の爪を見る。

 

「……なんて頼りない爪」

 

 これまで冒険者や傭兵などをする中で、数々の敵を引き裂いてきた自慢の相棒。

 ……奴が有する凶悪な爪と比較して、なんと貧相な事か。

 

 関係ない。

 

 彼女は自らに成せる最速を以て『魔』に近づき、一閃。

『魔』は彼女の突然の不意打ちに対応出来ず、まともに爪を受ける事になった。

 

 その結果。

 

「攻撃して勝つのは無理か〜。まあわかってたけどね」

 

 全く攻撃は通用していなかった。

 正確には、若干の切り傷は与えたが、先程見たようにそんな物は全くの無意味。

 

 仮に目などの柔らかい部分に爪による攻撃が通ったとして、伝説の通りならば奴には皮などだけでなく欠損部位すら元通りにする程の再生能力もある。

 加えて言うならば『魔』は1匹だけでなく、背後で何もせず見ているだけのもう1匹まで存在している。

 勝ち目はどう考えても0だった。

 

『グオオオオ!』

 

 自らに若干のダメージを与えてきた弱き者に対して怒った『魔』が腕を振るって八つ裂きにせんとする。

 しかし。

 

「それくらいなら躱せるねっ!」

 

 ニャルメの言う通り、その攻撃は威力は絶大だが、速度はまだどうにかなる程度であり、何より予備動作が非常にわかりやすい1撃だった。

 故に、彼女の速さがあれば避けるのは十二分に可能。

 

『グオオ!』

 

 次から次へと『魔』は攻撃をするが、ニャルメは全て避ける。

 

 ──さりとて『魔』からすれば、弱者にこうして全ての攻撃を長々と避けられ続けると。

 

『グオオオオォ!!』

 

 怒りのままに腕をぶんぶん振り回す。

 それはまるで子供の癇癪だった。

 

 普通に考えて、街のホープと呼ばれる程の実力者たるニャルメからすれば造作もない攻撃の筈だ。

 

 しかし……1発1発が絶死の威力を誇るならば話は変わる。

 

 冷や汗を流しながら攻撃を避け続けるニャルメは悟る。

 絶対的強者からすれば。

 白猫族の工夫だの警戒だの見通しがどうだの……そんな物なぞカス以下だと死の淵に立たされ心の底から実感する。

 

 

 ──客観的に見るならば。

 現時点で判明しているだけでも『魔』には多くの弱点がある。

 

 例えば。

 魔法の威力は凄まじいとはいえ溜めが必要であり、外皮は硬いとはいえ爪が通じるくらい。魔法さえ使わせなければリーチもそこまで長くない。そして技も稚拙の一言。

 

 それならば。

 槍兵を複数用意し、ひたすら足を狙ったり魔法の妨害に努めたりし、そして遠隔攻撃で援護する。

 複数体居るならば話は変わるが、1体だけを相手する場合はこれだけでも十二分な成果を得られるだろう。

 

 しかし神の視点における机上論と、こうして命を賭けた戦いにおいて目の前にするのは違う。

 

 今の状況下で、ニャルメの視点から見るならば……奴は完全無欠の強敵にしか思えなかった。

 

「ほんっっとに、強すぎるんだよっ!!」

 

 ──ニャルメは、この街にそこまでの恩を感じてなどいなかった。

 両親は既に亡く、唯一の肉親たる弟は『こんな田舎で一生過ごすんじゃなく都会に出るんだ!』などと言い、長耳族という世界南部に存在する種の中で最も優れた種族の成す街へと旅立った。

 

 無論、ただの白猫族に過ぎない弟によるそんな無謀な挑戦が成功する筈がない。

 すぐに帰って来るのだろうと考えていたが、数年経過しても戻る事はなく。

 

 心配に思ったニャルメが、南側最大の大都会たる長耳族の街ティル・ナ・ノーグに訪れたところ。

 彼女の前には、小さいながらも立派な宿を経営する弟の姿があった。

 数人の長耳族の従業員を雇い、ダルシムにいた頃と比較して明らかに生き生きとして仕事に励む弟。

 

 その光景を見た瞬間にニャルメは悟ったのだ。

 自らの果たすべき役目は終わったのだ、と。

 

 それからは自由に、好きなように生きた。

 彼女は元々実力者だったが、荷を下ろしてから更に実力を引き上げ、そして若くして街の頂点にまで到達した。

 

『グオオオオ!!』

 

 ──何故、自分はあの時に弟の誘いを断ってダルシムに戻った? 

 当時は今ほどの実力ではなかったにせよ、さりとてティル・ナ・ノーグでも十分やって行く事はできたはずだ。

 客観的に見て、あの街と比べるとダルシムに優れた点などないはずだ。

 

「……知った事じゃないっ!!」

 

『魔』に勝てない事など最初からわかっていた。

 けれど、街の人々が時間稼ぎに努める事は出来る。

 

 この調子で少しでも長く……

 

 しかし。

 

「……!?」

 

 急に自らの膝がガクッとする。

 

 当たり前の話だった。

 これまで彼女は、ずっと生命のやり取りを……近い将来における死を確信した戦いをしている。

 

 1発でも『魔』からの攻撃が当たれば終わり。

 こちらの攻撃は一切通用しない。

 自分はそのうち確実に死ぬ。

 

 ──その状況下で、疲労が普段より早く蓄積するのは自明の理でしかない。

 ニャルメは限界をとうに超えてしまっていたのだ。

 

 勿論、奴がそんな絶好の隙を逃す筈もなく。

 

『グオオオオ!!』

 

 彼女は諦めた表情をしながら、『魔』の咆哮と共に腕が振るわれるのを見る。

 

(……これで終わり、か。時間は稼いだんだから、精々上手く逃げなよ)

 

 そうして、避けられない死の訪れを覚悟して……

 

 次の瞬間。

 

 突如として何かが超高速で通り過ぎる気配と。

 

『ガ……』

 

 その一瞬で細切れに切り裂かれた『魔』の姿。

 そして。

 

「やはり、この武器も違いますね……」

 

 自らの剣を眺めながら不満気に呟く、丈は膝上20cm程度のこれまで見た事のない奇抜な服装をしており。

 美しく長い黒髪に、妖しい光を放つ赤い瞳と金の瞳を併せ持つ。

 ──見た事がない程に美しい少女の姿を見た。

 

 

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