第9話:ネタを知ってる男の視点
今回訪れた村は、元ロリ村長ことミルネンが言っていたようにかなりの規模であり、入り口から見える長耳族の数も最初の寂れた村より明らかに多い。
家の造りもかなりしっかりしていて、遠目には家畜の姿も見える。
加えて驚くべき事に、何かしらの品を販売していそうな店もそこには存在していた。
うん。こうなってくるともう人類の村と殆ど変わらなくなって来たな。
というか、このレベルで3番目となると……直近の目的地である長耳族最大の集落という物は、もう街くらいの規模になるのではなかろうか。
──入り口に来て最初に会ったのは2人の門衛。
当然のように長耳族の彼らは、槍を持ってちゃんと『門衛』をしていた。
しかし。
「ミルネン殿……か……? なんだこの集団は……?」
門衛は困惑していた。
うん。まあ客観的に見て、今の僕たち6人組はかなりの面白集団だからね。
なにせただでさえ種族が彼らと違うのに、語ってなかったけど実は先程の狼共との遭遇戦の後にミルネンの提案に従って袋に戦利品を詰め込みまくり、各々その袋を抱えて持ち運んでいる謎軍団になっているからね。
どう考えてもあまりに不審だ。
「お主がそう思うのも無理はないが……ワシの恩人じゃ。通してくれると助かる」
しかし結局彼らは僕たちをロリの顔パスで通してくれた。
まあ、アリスが翻訳魔法を手にした今となっては交渉の余地はあったわけだし、最悪実力行使でどうとでもなっただろうけど、無意味な諍いは避けるべきだからね。
「やはり、ミルネンさんに共に来てもらった事は正解でしたね。少なくとも、長耳族の集落に行く限りはぼくたちには非常にありがたい存在です」
「そうね。魔法も沢山教えて貰っているし……あの悪魔と小鬼を討伐したくらいで得られるなら安上がり。良い事はするものね」
ロリが門衛や村人たちとやり取りするのを見ながらうんうんと頷くダークネスとアリス。
そんな2人を見てカルロスと孫娘は苦笑いをし。
「……こう改めて言うのもなんだが、正義感なんて物は皆無だな……」
「あはは……お役に立てているなら良かったです。でも私は……あまりお役に立てていませんね……」
ずううん……と沈んだ様子を見せる孫娘。
「い、いや。そんな事ねえぞ? エカテリーナのおかげで狼狩りは楽だったし」
「いえ……いいんです。私なんて……魔法はお婆様に遠く及ばないですし、弓の実力も全然ですし……」
孫娘は何やら色々な事を気にしてめちゃくちゃ落ち込んだご様子。
ふむ。意外と面白い姿を見せて来たね。
今まで孫娘には全く興味はなかったけど……こういうキャラで行くなら、100英傑の歩む英雄譚を彩る黒子として悪くないかもしれない。
とはいえ、ミルネンはともかく、孫娘は精々が長耳族最大の集落に着くまでのゲストキャラだと思うけどね。それ以降はパーティから離脱し、恐らくその時点で彼女が僕と関わる事はなくなるだろう。
まあ……もしかしたらカルロスにとっては違うかもしれないけど、そこまでは僕の知った事ではない。
それはともかく。
「では、骨肉店に行こうぞ。持ち運んだ品を換金し、金銭を得るのじゃ」
村人たちとの会話から戻ってきたミルネンが僕たちに店に行くよう促す。遠目に見て、何やら村人たちはミルネンの話を聞いて驚いた様子だったけど……まあ、どうでも良いか。
どうせ此処にも1日しか滞在しないんだし。
──それにしても金銭、ね。
どうやら僕と同じ事を考えたらしいダークネスが頭を抱えながら。
「ミルネンさんからこの話を聞いた時にも思いましたが、金銭が存在しているんですよね……本当に一体何がどうなっているのか」
そうだよね。
金銭が存在しているという事はつまり相応に文化レベルが高いという事を意味しているから。
人類が金銭を使い始めるまでにどれくらいかかったのかは知らないけど……多分1000年とかではないだろうし。
そんなダークネスを見てアリスは頷きながらも。
「確かにおかしな話だけれど……とりあえず、私たちにとって不都合なわけではないし、恩恵を享受しましょう」
「そうですね……パーティの交渉役はぼくですし、役目を果たさないと」
そうして、ダークネスは店に入って行って店員と交渉を始めた。
うーん。やっぱりこれからも彼がパーティの交渉役、かあ。
「やはりダークネスが交渉をするというのは、私からすると極めて驚くべき光景だな」
何度も繰り返して申し訳ないんだけども、本当にあり得ない話なんだ。
まさかあのダークネスが、値段交渉なんて行動をするだなんて。
旧世界においては絶対に起きない光景が今の僕の眼前で繰り広げられていて、それはもう言葉では言い表せないくらいに凄い話だと感じている。
そんな僕をアリスは見つめてから。
「……そういえば、私の過去はあれだけ好き放題に語ってくれたのに、ダークネスとカルロスの過去については何も言っていないわね? まあ、あなたの発言から理由は察したけれど……」
理由を察した?
一体僕はどんな深い理由を抱えていたんだ……!?
まあ、それはともかく。
「フッ……君にはかつて世話になったから教えたが……やはり、極力は過去に縛られるべきではないからな」
「そう。まあ過去を知るのはあなたしか居ないのだから、好きにしなさい」
そう言ってからアリスは一瞬目を閉じて。
「……不幸もそうだし……普通に考えたら、親兄弟はほとんど亡くなっているでしょうしね。それを私たちに伝える手段には物申したいけれども」
彼女は僕の事を例によってジト目で軽く睨みながら話を締めた。
うん。察しがあまりにも良すぎるというか、僕が考えもしていなかった裏の意図とやらを読み取ってくれる所、相変わらず助かる。
いやまあ僕の意図とやらはともかく、言っている事自体はその通りだから、やっぱりこの人は本当に凄いなとは思うけど。
凡人ならば、仮に気付いたとしても目を背けたがるような話の1つだろうしね。
僕たちが店の前でそんなやり取りをしているとカルロスとエカテリーナが中から出て来て。
「結構な金になったぜ。あれだけ沢山運んだ甲斐があったってもんだ」
「英雄様、凄い量を運ばれましたからね。本当に素晴らしいお力です」
カルロス、クソデカい袋をめちゃくちゃ沢山運んでいたからね。
アリスやミルネンは魔法を使って袋をふわふわ浮かせて運んでいたんだけど、その2人よりカルロスが運んだ量の方が多かった。
まあ旧世界ならば、アリスは卓越した技術力を以ってして空間魔法を使い、あれくらいの量ならば全部容易に運搬出来たのだけど……
うーん。その辺の便利魔法だけならば教えるのは良いかもだけど、やっぱり暫くは新世界の魔法である長耳族の魔法を習得する事に専念した方が良いだろうし。悩みどころである。
「で、これから何か買うのか?」
「ふむ……そうだな……」
欲しい物か。
生活必需品の補充はするとして、他には……うん。あれだね。
僕はちょうど店から出て来たミルネンに向かって。
「ミルネン、この村には本が売っていたりはしないか? 高いならば諦めるが」
本。
前に言ったように、可能なら魔法について書かれた書籍が欲しい。
或いは、魔法じゃなくても長耳族やこの新世界の歴史、文化が記載された物……いや、いっそ絵本とかでも、それはそれで学びになるからね。
「本か……お主の言うように、本はあるとは言っても非常に高価じゃからな。北の集落に着いたならば、ワシの口添えで書庫に入る事は可能じゃろうから、そこまで待つが良かろう」
「ふむ……道理だな。ならば、私は特に欲しい物はないな」
ミルネンは北の集落の長、つまり長耳族の族長の妹らしいからね。
確かにコネを使えばタダで沢山読めるというならば、そっちの方が絶対に良い。
「本……確かに、手に入るならば、ぼくも本が1番欲しかったですね。流石はフェルナンドさんです」
? なんでダークネスは僕を褒めるのだろうか。
本が欲しいと言っただけなのに。普通に意味がわからない。
「私も特にこれといった欲しい物はないわね。カルロスも希望はないなら、適当に村のお店を回ってみましょうか」
「わかった。結構面白そうな店があるから、楽しみだぜ」
という事で、ダークネスの褒め言葉は謎のままだったけど……とにかく僕たちは各々気になる店に足を運ぶ事にした。
僕が訪れたのは。
「ここが薬屋か。店主、暫し世話になる」
「……わかった。気になる物があるならば言うといい」
薬屋。
つい先程、新世界の謎生物たちの調査のための研究所の必要性を考えたからね。
研究所イコール薬品というのは我ながら短絡的だとは思うけど、さりとて薬は無くてはならない物なのは間違いない。
これから自力で鳥の糞尿やらを集めたりするのは流石にしんどいから、長耳族が既にある程度収集して売っているならばそれを使わせて貰った方が良いからね。
それを抜きにしても、薬は長耳族の生態を知る事に直結する。
僕は薬に詳しくないんだけど、例えば風邪薬なんかが人間のそれと近しいかどうかを見るだけでも僕にとっては興味深いのだ。
後は、新人類となった僕たちは風邪には無縁となったわけだけど……未知なる生物が居るならば、未知なる病原菌も考慮しないといけないし。
「これは……風邪薬か? 私が知る物とほぼ一致しているように見えるな」
「風邪薬など、どこで買おうとも大差はないだろう……」
「フッ……君たちにとっては、それはそうだろうな」
「……お前は一体……いや、一介の薬師でしかない俺が知るべきではないか」
よし。
初対面の見知らぬ店員に対しても意味深ポイントを稼げたぞ。
英傑たち相手に意味深ムーブをするよりは気持ちよさは劣るけど、たまにはこういう感じのデザート感覚でつまみ食いをしなくちゃね。
余は満足であるぞ。
──こんな感じでひとしきり物色し終えてから、僕たちは村長の家に迎え入れられた。
気になる情報としては、僕たちの目的地である集落の近くには神獣とか呼ばれる存在が住み着いているとか聞いたけど……とりあえず、今対応すべきなのは目の前の話からだろう。
僕たちの目の前に居るのは、男性のエルフもとい長耳族。
彼はミルネンと違ってロリではなく、30代前半くらいに見える。
村長にしてはかなり若めだとは思うけど……ここには我らがロリ婆が居るからね。
そんな男村長は僕たちの姿を見て。
「ミルネン殿、久しいな。遂に覚悟を決めたと耳にした。他の者は……そうか。例の異邦人と同じ……わかった。貴殿らを歓迎しよう」
何やら納得したように頷く村長。
そんな彼に対し我らがロリが。
「ジャムラン殿。例の異邦人とは?」
「今朝の話になるが、翻訳魔法を介さねば会話が出来ぬ、記憶を失ったと語る異邦の者が北に旅立っていった。貴殿らも似たような物なのだろう」
ふむ、なるほど。
この付近となると、該当するのはやっぱり。
「村長殿。その人物とは、水色の髪をした女性で合っているか?」
「ああ、そうだが……貴殿は彼女と知り合いなのか?」
合っていたようだ。
それにしても、僕と彼女が知り合いか……。
うーん。まあ、知り合いでいいか。
僕はあんまりあの人の事、良く知らないけど……彼女の顔と名前くらいは知っているし、何より彼女の身内の事はかなり見知っているからね。
「ふむ。まあ、そうとも言えるな」
「……知り合いではないのか?」
怪訝な顔をする男村長もといジャムランさん。
アリスは僕の事をジト目で軽く睨みながら。
「そこは素直に知り合いでいいのよ。……この人、いつもこんな感じだから」
「事情を知っているぼくたちは良いですが、知らない人から見るとフェルナンドさんのこれ、意味深以外の何でもないですね……」
おお。
ダークネス君。わかっているじゃないか。
──その水色の髪をした女性というのは、旧世界最後の国における最強の騎士団の副団長だった英傑だ。
でも、うーん。あの人……というかその周りにネタバレ要素が多すぎて、あんまり語りたくないんだよねえ。
彼女自身はそこまで有名な人物ではなかった。
いや、騎士団の副団長だったから、有名じゃないわけじゃないんだけど……それ以上に、彼女の弟があまりにも強すぎて、有名すぎた。
副団長の弟は旧世界であれば誰もが知っているくらいの英雄で、そんな弟を持つ彼女は、どちらかと言うと副団長としてではなく彼の姉として扱われる事が多かったと聞いている。
だからこそ、彼女自身の力は過小評価されがちだったんだけど……とはいえ100英傑に選ばれるくらいには強い魔法騎士だった。
と、それだけでも結構な話なんだけど、更なるネタバレ要素として、彼女の騎士団の団長がね……
どういう事かというと。
最後の騎士団の団長にして、偉大なる英雄『紅騎士』は当然のように100英傑の1人で、なんなら10番以内──10傑と呼ばれる、アリスや『神殺し』を例とした100英傑の中でも最上位と称される英雄の1人だった。
……のだけど……極めて惜しい事に道半ばで死んでしまったから、彼の代役を立てる必要があった。
そこで白羽の矢が立った『紅騎士』の補欠にして『100人目の男』は、未だ英雄的な活躍など何一つとして成していないただの見習い騎士であり『紅騎士』カーレスの息子である男。
──カルロスだったという話である。
ね? とんでもないネタバレでしょ?
だからこそカルロスは将来期待枠であり、親譲りの優れた肉体は持つものの、既に最上位の英雄であるアリスやダークネスに比べたら遥かに劣る実力だったりしているし、見習い騎士に過ぎない彼がみんなを助けたいみたいな英雄的な発言をしたのが僕としては実に興味深かったりしたんだよね。
そして、この通りカルロスってもの凄い主人公っぽい背景を持つ人物だから、それを知る僕としてはかなり期待大なのである。
でもこの話、もう少し溜めておきたいんだよなあ……
だってこれ、物語終盤で判明して、実はそうだったのか! みたいになる感じの話だからね。
副団長の話をしようと思ったら、どうしても騎士団ひいては団長の話になってしまうし……騎士団以外の話をしようと思ったら、その団長より遥かに強かった弟の話がどうしても出てしまうし……
うーん。どうしようかな……
◾️お願い◾️
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