第3話

その3



そう…。

”あれ”は、この年になっても裕一にとっては、ある意味、ウラ青春版の忘れがたきワンシーンとも言えた。


”なにしろ、アイツ、相当落ち込んでたよな。教習所の待合の片隅でシククシく泣いてたわ。それで、ごく自然な流れで声かけて、オレも落っこちちゃったよって…。したら、二人とも4回目だったと…。その場で互いに慰め合いながら、いろいろ身の上話を何十分も重ねて…。それで…”



裕一とミユキは教習所劣等生同士ということで、すんなり打ち解け、タメ年で既婚者同士であることを知ると、俄然、意気投合…。

教習所の長椅子にとなり合い、ペットボトルのウーロン茶を片手に、30超えでの免許ゲットをトライするに至るいきさつも告げあった。



”オレの方は会社の意向で、いやいやってこともあったわ。子供の頃、親戚のおじさんの車に乗って大事故に遭ってるせいもあったか、元来クルマは苦手で高校卒業前にみんなが教習所通いしても、迷わず免許取りは固辞してたわ(苦笑)。でも外回りの多い仕事だったから、あの当時は免許がないことで出世にも支障が及ぶって会社からプレッシャーかけられてだった。でも案の定、運転自体に恐怖心もあって、仮免段階まで規定時間の倍以上を要した…”



裕一はさすがに仮免試験に3回落ちたところで、いよいよ自信を無くし、今度ダメだったらあきらめるということも考えていた。

この話をそのままミユキに告げると、彼女の方からも”告白”があった。



***



”ミユキの旦那は一まわり以上年上で、酒飲んでの運転を繰り返して免許取りけしになったことで…。まあ、現実問題として、必要に迫られてってとこだったんだろう。はは…、だけどミユキは半端なく運動神経が鈍くて…、仮免試験までもオレを上回るハンコをもらっていたよ。で…、彼女も4回目であのザマということで、あきらめモードに入ってた。…もうここまでくると、会って時間はわずかでも、二人が共感しあっちゃったのは皮膚感覚でビシビシだったな。そんで…”



この時、裕一は肩が触れ合うほどの距離で、会ったばかりのタメ年の人妻とかなりコアな部分の話を交わし合ったこともあってか、妙なときめきを覚えるのだった。



”アイツ、いい匂いだったな。上品そうな人妻って雰囲気がプンプンで、いきなり涙顔を見ちまったもんだから、初対面なのに感情も入っちゃよ。ギンギンで(笑)。したら…、すぐに愛おしい気持ちが湧いてきて…、オレの方も惜しみなくさらけ出して、いっそ、一緒にあきらめましょうかって言いのけてさ(苦笑)。したら彼女、笑顔に変わってたよ”



結局二人は、その場で免許ゲットをあきらめる意思を確認し合ったのだった。



”…ありがとうとか、嬉しいとか、助けられたとか…、そんな言葉を相互に掛け合って、話して数十分ながら、目だけで語り合っちゃってたよ、オレたち…。もう、オレはこの時点で彼女に対し、性的なコーフンモードが沸々と湧いてきちゃって…。彼女もオレの目をじっと見つめながらも、ちらっとこっちにそれっぽい…、どこか濃艶な眼を向けていたのをオレは見逃さなかったしな…”



ここで裕一は、ミユキを”誘う”決心に至るのだった…。



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