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隣に座るミーナは二言三言、言葉を交わした後、黙り込んでしまった。
バイトが忙しくてログインできずにいたが、ようやく時間が出来た日曜の夜。
日曜なだけあって、多くの人がログインしており、ミーナを見つけてもコミュニティの人と話していて、二人になるタイミングが掴めなかった。困り果てていると、ミーナから声を掛けてきてくれたのだった。
ミーナから声を掛けてきたということは、話したいことがあるんじゃないかと、緊張する。もし、カミングアウトされるなら今だ。
「ニッシー、最近ログインしてなかったけど、どうしたの?」
緊張している西野に比べると、ミーナは普段通りだった。
「バイトが忙しくてさ。ミーナはずっといたの?」
「うん。毎日来てるよ。ニッシーがいなくて寂しかった」
こちらを見て微笑むミーナは天使のようだった。実際、天使の輪のアイテムを身につけている。課金して手に入れたらしい。
「話したいことがあるんじゃないの?」
「え?」ミーナは困り顔を浮かべている。どんな顔でも可愛い。
「いや、二人きりになったのは、そういう理由じゃないかと思って」
ミーナは首を傾げる。
「お砂糖になったんだから、二人きりになりたいと思うのはおかしい?」
俺は両手を振った。勢いよく手を出したから、机に軽く手をぶつける。そもそも、フルトラを使ってないので、アバターに反映されない。
「いやいや、おかしくない。嬉しいよ。二人で話せて」
やっぱり、南じゃないのかもしれない。こんなに可愛い子が南だなんて、信じられない。いや、でも、と頭に疑念が浮かぶ。
「良かった。私も嬉しい」ミーナは微笑んで、俺の手を握る。感触はないのに暖かい。
「ミーナってさ、ボイチェンは使ってるの?」
思いついたことが、そのまま口から出た。これは南じゃない、確信が欲しくて、ついストレートな聞き方になってしまった。
「ボイチェン?使ってないよ」ミーナは不思議そうな顔でこちらを見ている。
「どうしたの急に?さては!私がおっさんかもしれないとか思ってるんだ」
「いやいや、違う違う。可愛い声だから、ボイチェンでも使ってるとしか思えなくてさ」
使っていない、一瞬、ぬか喜びしたが、嘘かもしれないと頭に浮かぶ。しかし、それが伝わったかのようにミーナが言う。
「そんなに気になるなら、スマートフォンで話してみる?」
「スマホで?」
「だって、パソコンに繋いだマイク音声しか加工できないでしょ?スマートフォンで話せば、ボイチェンは機能しないから、証明できるんじゃない?」
ミーナの案は名案だと思った。これなら、ボイチェンの疑惑は晴らせる。なにより、この提案自体、ミーナがボイチェンを使ってないからこそではないか。
ミーナはどう?と言いたげに、こちらを見つめてくる。
「通話してみたい」
「オッケー。今、送るIDに電話掛けてみて」
ミーナがそう言うと、チャットメッセージにIDが送られてきた。普段使いのメッセージアプリのIDらしい、西野も使用しているアプリだ。アプリをスマートフォンで起動して、IDを打ち込むと、「ミーナ」というアカウントが表示された。名前もプロフィール写真も間違いなくミーナだった。緊張しながら、通話画面を表示させ、通話をタップした。コール音がなっている間、ミーナ専用のアカウントがあるんだなと思う。
[もしも~し。ニッシー?聞こえる~?]声を聞くと、ホッとした。ミーナの声だ。
[聞こえる。ちゃんとミーナだ]
[ボイチェンなんて使ってない。地声とは言わないけどさ、少なくともおじ声ではないでしょ?]
[うん、なんかごめん]
[謝らなくてもいいよ。あのね、ニッシーに言っておきたかったことがあるんだ]
[言っておきたかったこと?]なんだろうか、考えるが内容は思い浮かばない。
[ニッシー、私のことをさ]
ミーナはそこで言葉を切った。なに、と聞こうと口を開いたと同時にミーナは言う。
[見つけてみてよ]
[どういうこと?]
[そのままの意味。今日はこのまま落ちるね、バイバイ]
ミーナはそう言って通話を切り、VRChatもログアウトしていた。静かになった部屋で俺はニーナのプロフィール写真を眺めていた。
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