夢を忘れた少女と死者の王国ネバーランド I 焔に眠るジャンヌ・ダルク
ばりーさん
プロローグ
——燃えている。
炎が、肌を裂く。
髪が焦げ、骨の奥まで焼けていく。
誰かの名を叫ぶ声が、遠くで響いていた。
「神よ……この命を、あなたに返します」
焔のなかで、少女はひとり、祈りと共に立ち尽くしていた。
それが“ジャンヌ・ダルク”という名前だと、私はあとになって知る。
でもそのときの私は、ただその痛みと絶望を、他人事ではなく“自分のこと”として感じていた。
——これは夢なんかじゃない。
そう思った。
*
目が覚めたとき、私はその夢のことをほとんど覚えていなかった。
焼け焦げる匂い、肌の痛み、祈るような誰かの声。
断片的な感覚だけが、胸の奥に引っかかっていた。
けれど、どうしても思い出せなかった。
夢だったのか。現実だったのか。
それとも、そのどちらでもなかったのか。
*
「夢は未来の地図よ」
子どもの頃、祖母はよくそう言って私の頭を撫でてくれた。
歴史が好きだった。
年表の隙間に埋もれた名前を拾いあげて、その人が“どんな風に死んだのか”を考えるのが好きだった。
でも今の私は、夢を信じなくなった。
見ていたとしても、目が覚めたとたんに手放してしまう。
それが“夢を見ない”ということなのだと、今なら分かる。
亡くなった祖母の屋敷で、埃をかぶった箱を開けたあの日——
私は、“そこ”へ連れていかれた。
——空を飛ぶ少年。
——焔に焼かれる少女。
——名前を失った死者たちの島、ネバーランド。
歴史の中で非業の死を遂げた英雄たちは、
夢の終わりでまだ、誰かに名を呼ばれるのを待っている。
これは、夢を忘れた私が、忘れられた魂たちと出会い、
彼らの物語を“解放”していく旅のはじまり——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます