夢を忘れた少女と死者の王国ネバーランド I 焔に眠るジャンヌ・ダルク

ばりーさん

プロローグ

——燃えている。


炎が、肌を裂く。

髪が焦げ、骨の奥まで焼けていく。


誰かの名を叫ぶ声が、遠くで響いていた。


「神よ……この命を、あなたに返します」


焔のなかで、少女はひとり、祈りと共に立ち尽くしていた。


それが“ジャンヌ・ダルク”という名前だと、私はあとになって知る。


でもそのときの私は、ただその痛みと絶望を、他人事ではなく“自分のこと”として感じていた。


——これは夢なんかじゃない。

そう思った。



目が覚めたとき、私はその夢のことをほとんど覚えていなかった。


焼け焦げる匂い、肌の痛み、祈るような誰かの声。

断片的な感覚だけが、胸の奥に引っかかっていた。


けれど、どうしても思い出せなかった。


夢だったのか。現実だったのか。

それとも、そのどちらでもなかったのか。



「夢は未来の地図よ」


子どもの頃、祖母はよくそう言って私の頭を撫でてくれた。


歴史が好きだった。

年表の隙間に埋もれた名前を拾いあげて、その人が“どんな風に死んだのか”を考えるのが好きだった。


でも今の私は、夢を信じなくなった。

見ていたとしても、目が覚めたとたんに手放してしまう。

それが“夢を見ない”ということなのだと、今なら分かる。


亡くなった祖母の屋敷で、埃をかぶった箱を開けたあの日——

私は、“そこ”へ連れていかれた。


——空を飛ぶ少年。

——焔に焼かれる少女。

——名前を失った死者たちの島、ネバーランド。


歴史の中で非業の死を遂げた英雄たちは、

夢の終わりでまだ、誰かに名を呼ばれるのを待っている。


これは、夢を忘れた私が、忘れられた魂たちと出会い、

彼らの物語を“解放”していく旅のはじまり——

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