過去編④
今日は俺の通っている学校での伝統行事、「皆読皆話」という行事だ。
この皆読皆話では、各学年から代表の人が、教科書に載っている物語を朗読して、みんなで聞き、感想を発表する。
そして、講評の先生が感想を発表したり、年に何度か来る元アナウンサーの人が講評したりすることはある。
そして、各学年の代表の人が自分で作った話を朗読することもある。この話は自分の家で飼っている、ペットの話や、自分の家の兄弟の話、自分がやっている習い事の話、自分が今は待っていることなどの説明文が多い。
前者を皆読、後者を皆話という。これらの代表を各学年から月に一度出し、その人が練習して、みんなの前で話す行事だ。
そして、一年間で、全校の中でのグランプリを決定する。それがBest Speech賞と、Best Recitation賞の二つがある。
俺が狙っているのは皆読のBest Recitation賞ではなく、皆話のBest Speech賞のほうを狙っている。
今回は、内容がすごくよく仕上がったので、いや、すごくよく仕上げてもらったので、Best Speech賞は狙うことができるだろうと思っている。
明日、俺は会話の代表が当たっているので、家族と考えた家族について書いた話を読むことになっている。
朝、いつも通りママが作った目玉焼きと、白飯、味噌汁を食べて最終調整に入った。最終調整に入ってからは自分の中で集中していたのだが、まだあの夢を思い出してしまった。
それは、夢の中で見た母親がほかの男と仲良くしているところだった。その男の顔までは見えなかったのだが、自分の夢の中での妄想とはいえ、頭の中で引っかかる内容ではある。
自分のスマホを開いてパスワードを打とうとしたのだが、先ほど使ったお覚えはないのだが、スマホは開いた。
そして、自分の原稿の画像が入っている、フォトを開いたのだが、原稿の画像のようなものは見つからなかった。
多分、フォトのアプリが弟のアカウントで入ったままになっているのだろう。弟に叱る必要があるとも考えながら、フォトが開けないということはメッセージアプリに残されていると考えられる、原稿を探した。
しかし、自分の内容ではないようなメッセージばかり並んでいたので、流石に違和感を覚えると、先ほどのフォトアプリに戻り、誰のアカウントなのかを確認した。
そこにはママの名前が書いてあった。そして、そのままフォトアプリをスクロールしていったのだが、何も見つからなかった。いつも、小言ばかり行ってくるのにはもううんざりしているから、何か不倫の証拠のようなものでもないかと冗談半分で思っていた。
しかし、そこに今日の夢の内容が重なると、冗談とは思うことができなくなって、スクロールする手が固まった時、ラインの音が鳴った。
そこにはサッカーコーチからのメッセージの通知が書いてあり、
「今夜は?」と書いてあった。この内容には震撼したのだが、冗談と思うことができないと半分考えていたことから、少し驚きは緩和されていた。
その時、スマホは手から滑り落ちたのだが、ちょうど座っていたソファのひじ掛けのところに落ちたので、音はしなかった。
そして、何もなかったようにして、自分のスマホを取り戻し、自分の原稿を見つけた。
学校では、いつも通り何もなかったのだが、学校では、今日から始まるゲームのイベントを早く帰ってプレイしたいと思っているはずだった。
しかし、そんな風なことは思うことができなかった。5年生にもなれば、あのメッセージに隠された真の意味についても理解することができてしまう。
しかも俺は、4年生の時に怪奇な経験をした可能性がある。いまだにあの経験が本物だったのか、それとも自分の妄想だったのだが、判別することはできなかった。
それから、俺は自分の記憶に疑問を持つようになった。記憶がおかしいことには気づいていたのだが、それは、現実と夢との区別がつかないというような異変にも顕著に表れていた。
この時間は国語の時間だった。読み取りをしていてふいに先生が
「そうだ、明日は皆読皆話があるじゃないか。今回の代表は陽介さんだろう?今からでも練習しようか、体育館は…」と言って、今日の全学年の授業の予定を見ている。そして、
「空いてるから、みんなで移動して練習しよう」と言い出した。しかし、俺はそのことをあまり好ましく思っていなかった。
なぜなら、Best Speech賞を取るためには、まず、生徒たちの感想が先生に対して、良い印象を与えるようなものではないといけない。
生徒の感想は、自分と同じ学年から一人、高学年から一人、低学年から一人話される。
そして、先生の講評も大きく影響する。普通の先生の講評はマイナスの幅も、プラスの幅も大きくはない。つまり、無難なことしか言わない。
しかし、アナウンサーの人の意見は大きく影響する。アナウンサーの人の意見はマイナスの幅も、プラスの幅も大きくてマイナスの幅も大きい。
この人の意見を聞かされて、あまりに酷いことを言われたために泣いている人も見たことがある。
そして今回はラッキーなことに、アナウンサーの人が講評の先生となっている。俺の前の人でいうと、6年生の人がよい評価をもらっていた。
アナウンサーの黒縁眼鏡をつけた硬い顔をした男の人は
「この人の発表は、自分のことを詳細にまた論理的に話すことができていて非常に良いですね。特に前半部分のエピソード部分が最後の主張の部分に繋がっているという構成は論理的に非常に素晴らしいです。さらに話し方の部分でも大きく工夫が見られました。前半部分のエピソード部分は淡々と話していたものの、後半部分の主張の部分は熱く語っている姿勢を見せるなど、強弱での強調・脚色の部分で完璧な発表でした。しかし、唯一改善点を挙げるとしたならば、前半のエピソード部分をもっと時系列順にわかりやすい順で話したほうが良いと思います。なぜなら、文章は活字とは異なって流れるようにして、どんどんと消えて行ってしまう、そのため、その流れを時系列の流れのようにして、その流れに身を任せるようにして、文章の順番を改善してみると、より良い文章になると思います。以上です。」と言っていたのを明確に覚えている。
俺はこの先生が難しい言葉を使いすぎていて、もちろん本人もそして、それを聞いている低学年はもっと、一文字も理解できていないというような顔をしていたという事実に気付いていないという先生に驚いていた。
書いてきた文章には大きな自信がある。こういうコンテストのようなものは最後にエントリーした人のほうが賞を受賞するのに有利ではある。
その理由は大きく分けて二つだ。
一つ目は評価する人はあとの人のことのほうがより大きく印象を受けるからだ。得点をつける場合などは最初に得点をつける人を基準としていくので、後に続く人は先ほどの理由から大きな得点をつけられやすい。
二つ目は評価する人の評価を生かしてより良いものの創作に努めることができるからだ。すぐに作ったものの変更はできないものの、今回のようなものなら作り始める前なのでその評価は確実に自分の創作物に生かすことができる。
そのように考えて、俺は最後のほうにこの話を読めるようにこの話をブラッシュアップして今回にかけてきた。
俺が乗り気ではなかったから、結局練習することにはならなかった。国語の授業はどんどんと進んでいき、今学習している物語の内容も読み取りがクライマックスのところまできた。
心は全く別のところにあったのだが、頭ではなぜかクライマックスの語源のことを考えていた。
クライマックスとはあの「Cry」+「Max」=泣くように感情が最高潮になるところという意味なのだろうかと考えていた。
しかし、この話では全く「泣くように感動する」シーンではないし最高潮というのも何かおかしく感じるような物語(・・)だった。
「では、これで授業は終わります。今日の授業の内容は明日も続きで行うので、今日のノートの内容はタブレットで送らなくてもよいです。それでは終わります。」そうして授業は終了した。
この心をどこかに追いやろうとしていたのだが、精神的な問題でこの心がどこかへと行くことはないと思ったので、自分のスマートフォンから「Delete」のボタンを押した。
その画面には新しく見えるような最新技術のように見えていた。
その画面では、丸いものがくるくると渦巻いていた。しかし、それとは反対に自分の心の中で渦巻いていたクルクルは徐々にはっきりと明瞭に整理されてきた。
そして、その画面の真ん中には「Succeed」と書かれ、また「Loading」とも書かれていた。
それが終わった時、ちょうどチャイムが鳴った。先生は大きな声で
「中休みだから遊びに行ってもいいよ」といった。しかし、それとは裏腹に小さな声で
「ちょっと、陽介さんこっちに来てくれない?」といっていた。その声には少し翳りが含まれていたから、心は少し怯えで大きく跳ねた。
なぜなら、スマートフォンを持ってきてはいけないのに、持ってきてしまっているからだ。スマートフォンを持ってきていることがばれれば、どうなるのだろうか。今まで同じことをやっている人は一人もいなかったからわからない。
こんな小さな学校でそんな話が発覚してしまったら、瞬く間にみんなに知れ渡ってしまうだろうと思い、どんどん怯えへの沼へはまっていくように感じた。
「陽介さん、皆読皆話の練習うまくいってる?」と聞かれた。
「あ、はい、そこそこにはうまくいってます」とあどけなく答えると
「そう、ふふ、Best Speech賞に向かって、頑張ってね」と応援してくれた。この女の先生は俺の目標が分かったうえで応援してくれているのだ。ありがとうございます、と言ってから、その場を後にして、友達を誘って遊びに行った。
今日はちょうどサッカーでテストがある。それが二人組で行われるリフティングのパスだ。これを二人で、30往復させなければいけないという難問だ。
俺はすでに同じ学校に通っている人とペアを組むことに決めている。その相手、裕太と最後の調整をすることにしている。
裕太を誘って練習をしていると、なぜか頭が痛くなってきた。先ほど「Delete」を行った副作用だろうかと思って、片付けることにした。このような頭痛がすることはいつもと同じなので、痛みを特別感じるというわけではなく、裕太との練習も続行していた。
裕太は早々に俺の体調を疑い、心配してくれていたようだったが、俺はなんてことはないと誤魔化して練習に励んでいたのだが、難問なだけあってこんな体調ではできないということが早々にわかった。
この調子のまま最終調整を終えたことに裕太と俺の間では微妙な空気が流れたのだが、子供なので
「次の授業なんだっけ?」
「国語だったことない?二時間連続で」
「え?二時間連続で?珍しっ」
「次あの、聞くやつでしょ、聞くテストみたいな」
「ああ、あんなの高校入試とか今後のテストで一切ないようなやつでしょ」
「えっ、どうでもいいってこと?」
「いや、まあ」
何というような会話を経て、普通に話すようになっていった。
裕太の言っていたように二時間連続となるように三時間目は国語の授業で、また、それは聞くテストだった。
聞くテストは得意だ。なぜなら俺は聞いたことを脳内で文章化して、文字を映像化することができるので、このテストは余裕だった。
聞くテストの紙が配られたときに同級生は全員、否定的な発言をしていたのでそれに合わせて自分も否定的な発言をしたのだが、心は裏腹だった。
聞くテストでは、問題文を見ずにメモを取り、そのメモと自らの記憶をもとにテストに答えるという形式だった。
まずは、問題文が流れる。だから、俺はそれをいつものように文字化していった。
長い文章だったのだが、脳内で文章化することができたので簡単な文章だった。問題に出てくるようなところは決まっている。
まず、一問目の設問。屋久島がユネスコ世界自然遺産に登録されたのは何年ですか。という問題だ。
答えはもちろん1993年だ。初めて知るような説明文はどんどんと知識が増えていくから面白い。これもまた一つメモリーに追加されていく。
次、二問目の設問。屋久島にある屋久杉は樹齢が何年ですか。という問題だ。ここも重要なところである。
答えは7200年。以上は7200年の後に付け足されるような形で書けるように印刷してあるので、7200年と書けばよい。
最後の選択問題の設問。次の中で音声中で述べられていなかった内容はどれか。という問題だ。
こういう問題は間違った内容があるところに、線を引き選択肢に×を打ち、消去法で解いていけばよい。
述べられていなかった。のところにはわざわざ波線まで引いてある。こんな問題でも間違える人はいるのだろうかと思いながらも、答えを導き出した。
最後の設問は記述式だった。屋久島の文章を読んで、身の回りの物を紹介するような文章の中で、屋久島の文章の最後のところに当たるキャッチコピーを考えなさい。という問題だ。少しユニークな奇問の部類に入るようなものだったので、少し驚いたが、
「イエローストーン国立公園は、壮大な地熱現象と豊かな野生動物が共存する大自然の宝庫です。」という、今までに見たことのある文章をそのまま脳内に浮かべて、それを答えに書いておいた。こうしてテストは終了した。
テストが終了しても『見直し』の時間もあるので、見直しの時間は俺の場合、20分くらい余ってしまう。
なので、こういう時間をいつも寝る時間に充てて、時間を有効活用するようにしている。
うとうとと寝てしまいそうになった。しかし寝られなかった。何やら、心の中に靄がかかって気持ち良い睡眠に落ちることはできない、睡眠に落ちても心の靄が広がるだけにはないかと思っていたからかもしれない。
空は青く澄んでいたのだが、西のほうから薄黒い雲が歩むようにして近づいてきていることに気がついた。
そうして、雲に少しずつ覆われた。こんな見直しの時間には空を見て、雲の量を見て、雲量を計測し天気を判断することがある。
先ほどまでの天気は雲量がほとんど0だったので、雲量0~1が含まれる快晴だった。しかし、今は雲量が6くらいなので、雲量から考えると晴れくらいになっているのだろう。
冬の季節としては気圧配置は西高東低になるはずで、東に低気圧があり、西に高気圧がある気圧配置になっている。
そのため等圧線は南から北の南北に日本列島を区切るようにして、狭い間隔になっている。狭い間隔なので当然風は吹く。
そして、西から東に吹く風なので、ここでいうと、日本最大の積雪量を誇ったこともある、あの山からの冷たい風が吹きおろしてくることもある。
なので、西の窓側の最前列にいる俺の席では、左最前列なのでストーブに当たり、温かくなり、ちょうど温かくなったところで風が冷たく吹き付ける。
なんとも心地よい空間なのだが、少し湿っていて、もわっとしている。そして、ストーブから放たれる、燃料が燃えたときに発生しているであろう匂いが吹き付ける。
この不快なのか快適なのか、快適に感じることもあるこの空間は二つの感情で打ち消されるようにして無感覚となり、それで時間を感じていると、1秒間も1時間も同じ時間のように感じる。
そうして、先生の号令で、テストの用紙は回収された。途中で先生ができた人から前に提出してもよいという指示があったのだが、誰と前に行こうとしていなかったので、いや、みんな、同じように誰も前へ行こうとしていないのを見て前へ行かなかったのか、結局前に行く人はいなかったので俺も前へは提出しにはいかなかった。
次の時間は音楽の時間なのだが、音楽の授業の先生はとても面白くないおばあさんの先生なので、授業をさぼりたい思いに駆られた。
授業をさぼるのはばれたら面倒くさいことになるのはわかっていたのだが、音楽についてもう新しい勉強になることはない。
正確に言うと、音楽だけに限らずどの教科でも新しく学ぶような内容は中学校、いや高校ぐらいに行かないと学ばないのかもしれない。
学校での勉強はすでにつまらないものになっているのだが、みんなと話しながら授業を受けるのだけは楽しい。
その中で、音楽の授業はその楽しいところがないので、さぼりたくなるわけだ。さぼる方法は二つある。
一つ目はトイレに行ってさぼる方法だ。これはトイレに引きこもるという最もシンプルで誰ともかかわる必要のない方法なのだが、どこに行ったのかが分からなくなり、探される可能性があるというリスクをはらんでいる。
二つ目は保健室に行くという方法だ。これは誰でもやったことがあると思っている。女子たちも保健室に行って体調が悪いフリ、本当に体調が悪い可能性もあるのだが授業を休んでいることもある。この方法の良いところは一つ目のトイレに行ってさぼる方法とは異なり、どこに行っているのかを把握されており、探される可能性がない代わりに、保健室の先生と話して関わらなければいけない。
三つめは外に逃亡するという方法だ。これは誰もやったことがないのではないか。でも自分は2回やったことがある。この方法の良いところはサバイバル感があってとにかく楽しいということだ。やった二階ではどちらも一度家に帰り、自転車に乗ってコンビニに行きアイスを買ったりしてから、学校に戻って来るという作戦を成功させている。この方法の良くないところは何といってもそのリスクの高さだ。外に出ていくときに地域の人に会ってしまい先生に通報されてしまったらその瞬間に終わりだ。そしてトイレの時と同様に先生に探されたときにどこにもいないというところから、外にいるという結論から外を探されてしまう可能性もはらんでいる。
このすべての方法もメリットとデメリットがある。今回はトイレに逃亡することにする。トイレに行くときには事前に友達に伝えておけば、リスクを低くすることができる。
このように考えていて新たに気がついたデメリットがあった。それはトイレでは時間を多く稼げないということだ。
だから、今回はトイレに逃亡して、誰かが来た時にトイレから保健室に移ればいいのではないかという最終結論に至った。
女の友達、中でも先生から信頼されている女子にお願いしておくことにした。そしてトイレへ逃げ込んだ。トイレは少し匂うことがあるのだが、この時は全くにおわなかったので、俺の心配は杞憂に終わった。トイレの中の個室の中でも最もきれいな個室は一番手前側の個室だ。
理由は単純だ。
個室の中のトイレが故障してしまいそれを直すときにトイレを一新したためである。トイレをするつもりはなかったのだが、やはりトイレに入ってくるとトイレをしたくなる気持ちになるような気がする。
便座に座る前にズボンを下ろし、トイレを済ませたまま、スマホを取り出しゲームを始めたのだが、やがて寒くなり、肌に夥しい数の蟻のような鳥肌が露出していた。
そして、ズボンをもとに戻して、便座に座りなおした。
スマホを操作して日記のアプリに入った。日記にはすべての情報が入っていた。
スマホの中の情報が俺の知識のすべてかもしれない。なぜならスマホの情報と俺の脳の情報は直接つながっているからだ。
それは俺の勝手な妄想に過ぎないかもしれないのだが、妄想にしてもおかしいと考えられるような現象は今までに何度も起こっている。
専門家に相談することになるのだろうから、専門家に直接相談しようと考えたのだった。そして、相談した専門家があの企業ABMの人だったのだ。
ABMの研究所のところに電話して、最も優秀な人に変わってほしいと伝えたところ、変わってきたのが、東京大学理科Ⅲ類卒業の研究者だった。研究者のイメージを覆すような社交的な人だった。
その人に脳の精密検査をしてもらったところ、脳のCTには何の以上もなかった。
しかし脳波には少しばかりの異常があったことに気がついたそうだ。今現在、その人は俺の脳波を使って研究を進めているようだ。現在はいいところまで進んでいるようで。もう少しで研究が完成するところまで進んでいるそうだ。
その人は大森信也という人だった。
信也さんは会社の話を打ち明けるように俺にしてくれた。
信也さんは研究者としては優秀なのだろうか、その容姿もあいまって配偶者などはいないようだ。
それでいて、ずいぶん寂しそうに見えていろんな話をしてくれる。信也さんからすると俺は唯一の語り合える相手、話し相手だと思っているのだろう。
ある時信也さんはこういった。
「これ、本当に言っちゃだめなことだと思うんだけど、」
「え、?なに?教えて」
「うちの会社でも、簡単な仕事の、所謂事務員さんのような形で発達に障害のある人を雇用する制度があるんだよ、大企業だからさ、そうして国とかからの補助金を得たりクリーンな体制を見せたりしているんだろうけど、そういう人たちを住まわせる会社の寮のようなところがあるんだよ。そこに住み込みで働かせて、家族をかかわらせなくすることで給料を偽っている、っていう話を聞いたんだよね。ほら、これみて。右が銀行の通帳で、左が給与明細書ね、同僚の友達がそういう人たちと話したりしてるんだけど、」
そう言って、見せられた画像には給与明細書に書かれた金額月376000円に対して、銀行の通帳に入ってきている金額10000円だ。
こんな話を同僚にすることがあるのかとも思ったのだが、これだけ金額が違っていれば気付くこともあるのだろう。
いや、気付くことしかないのだろう。
そんな不正を含めて、障碍者の中で雇用されている人にはパワハラをされている人や虐待を受けている人もいるそうだ。
信也さんの同僚が今証拠を集めているようで、信也さんはそれを手伝っているようだ。
それを上層部が指示したという証拠が欲しいそうなのだが、信也さんの技術では防犯カメラの映像を抜き取ることができなかったので、ハッキングの技術を持っている俺に相談を持ち掛けてくることになった次第だというのだった。
そして俺はマルウェアに引っ掛ける方法を提案した。マルウェアというのはコンピューターやネットワークに悪意のあるソフトウェアをインストールし、データを盗んだり、システムを破壊したりすることで、それをDDoS攻撃、多くのコンピューターを利用して一つのサーバーに大量のトラフィックを送り、サービスを停止させるものに見せかけるものだ。
この会社の中にはいくつか業務用アプリケーションを社員が作りそれを会社の中で使えるようにする機会があるのだが、それを利用してマルウェアを仕掛けようとするものだ。
しかし、それを信也さんの作ったソフトに仕掛けてしまうと信也さんが面倒ごとに巻き込まれることになりかねない。
そのため、信也さんにはリンクだけを教えてほかの人が作った内容のソフトに作り変えるというものだ。
そのためにはほかの人に成りすますためにまず、その人のユーザIDとパスワードが必要になる。
それらさえを取ってしまえばこの作戦は完全に終了したと言っても過言ではない。
この作戦をこれほど大掛かりに行う必要は本来ない。この作戦にはほかの自分のための作戦を込めて作っている。
信也さんとのメッセージのやり取りの中では特殊な暗号を使用した。
英語の文章を二つ作成し、それらを間に挟むという方法だ。例えば
「私は小森陽介です。サッカーが好きです」は
「I’ImlKoovmeosroicYcoesru.ke」となる。この文章を見たときに、一見なにかはわからないのだが、これを特殊なソフトに通すと
「I’m Komori Yosuke. I love soccer.」という文章に直せるようにしている。もちろん逆の文章も作れるようにしている。
この文章で交信を始めて5回目の内容の時についに社内にマルウェアを仕掛けることに成功した、という旨の連絡があった。
そして、その更新から2日たった時にマスコミがこの内容をかぎつけた。世の中の人間はこの状況で、個人情報などが漏洩されていないのかという内容に注目が集まったために、この会社の株価は大暴落した。
そして、情報を得ることができたので、それをフリーライターとしてニュース記事を書きネットに流すと、それは大きく注目を浴びさらにABM社の株価は下落した。
そうして、インサーダー取引に手を染め、巨額の利益を得た。もちろん最初の80万円から投資しただけではない。
信也さんの名義で借りた事業目的での金、複数の金融機関からの35億円をかけたところおよそ二倍の71億円になって帰ってきたために、利子を完済する分の金をとっておいてさらに二人で等分して10億円ほどを手に入れた。
このようにして、簡単に巨額の利益をあげることに成功したのである。しかし、ここまでの道のりは簡単ではなかったかもしれない。
なぜなら、まず初めにこのようなIT企業でなければ株価が下がらなかったから信用取引でもここまで利益を得ることはできなかったと思う。
そして、IT企業、中でも今勢いに乗っている、急激に株価が上がっていた会社だったからこそ、株価が大幅に下がったのだろう。
そして、このようなIT企業の内部情報をハッキングでえることは簡単ではない。なぜならこのような会社のセキュリティ対策は、専門家たちが何人も協力して構築した内容で会うことが多いからだ。
一般的にセキュリティを構築する人と、セキュリティを侵略する人の技術が同じくらいだった場合、もちろん勝つのはセキュリティを構築する側の人間だ。
そして、この差をひっくり返すには相当の技量差が必要になってくる。
つまり今回はIT企業のセキュリティを構築する人の技量を俺の技量が大きく上回っていたということがわかる。
そんな風に自分の技量に浸っていた。
そ最新技術の血中に微小な分子を漂わせることで、そこから発せられる微弱な電流の種類で記憶を読み取り、記憶を読み取られた分子はまた新たに記憶の内容を読み取り微弱な電流を発するようにする。
この技術はABM社の後身、というか株価が下落したときのために例の方法で作っておいたへそくりの分を使って作った、BMB社が開発した技術だったはずだ。
ABM社の情報を抜き取り、インサイダー取引に成功し、巨額の利益を得た後、ABM社に近づきABM社の話題から世間の目をそらす代わりに内部情報を流させ、また、ABM社の復活に資金援助し、BMB社に資金を流させBMB社に社の実質を移させた。
そうしてABM社が初めに手中に落ちた。
ABM社の内容は全て入ってくるはずなのだが、ある時、株主総会で話し合われるはずだった内容が俺の耳に入ってきていないということがあったのだ。
その内容はABM社が開発事業をITに拡大することについてだった。このことについては俺は重要性が感じられなかったのだが、この内容を聞くことができなかったということには小さな重要性を感じた。
第一、企業としての重要性はこのABM社には残されていない。なぜなら似たようなことをしている企業、ガリメゾンがあるからだ。
深い考えから目覚めてトイレから出ようとしたとき、スマホの時刻は授業の時間をすぎて、休み時間に入っていた。
早くトイレから出ようとして、水道で手を洗っているとき、大きな通知音が鳴った。こんな通知音を聞いたことはなかったのだが、トイレの中から怪しげな通知音がしたら、先生たちが聞いたら、と思うと通知音を早く下げなければいけないと焦っていた。
濡れたままは触りたくないから、早く洗って手を拭くと今度はほかの人が入ってきたので、そのまま個室に戻った。
個室でスマホを操作すると、メールに着信があった。
着信を聞いたことがなかったのは、メールをあまり使わないからだろう。メールの着信のところにはGER研究所と書いてあった。GER研究所というのはガリメゾンの研究所だ。
ガリメゾンの研究所からのメールは件名なしになっていた。
メールには研究結果についてという文面続いて
血液中には記憶メモリ分子が確認された。
この記憶メモリ分子からは微弱な電流が確認され、スマートフォンについても調べてみると、スマートフォンのアプリ、BMB‘Sが、外部に設置された小型の電波検知器で検出した内容を転送して解析していた。
というのだ。自分の予想に沿っていた結果だったので、驚くような内容ではなかったのだが、どこでそんなものを仕掛けられたのかという疑問に襲われた。
しかし、そんな疑問も考えるべき難題ではないということに気がつく。
なぜなら、この異常が発生する前と後の境には、日常生活の範疇から大きくはみ出た出来事があったからだ。
そうして、トイレから出た。
この時、時間は休み時間に入っていた。この休み時間は給食の前の短い時間だったのだ。給食の時間はあと3分で始まりそうだった。
今日の給食は何だったか。給食の内容を考えることが、知ってしまった真実を上塗りするような唯一の方法だった。
しかし、上塗りすることもできず、給食の内容を考えることは知ってしまった真実という厄介な相手にはじかれるようにして上塗りをすることはできていなかった。
給食の表を見ているときに、同級生の女子に話しかけられた。この子は、1か月くらい前に、俺のことを好きだと言っていた相手だったはずだ。
そう、俺の隣の家に住んでいる女子が言っていた。今はどうなのかはわからないが、一瞬意識してしまいそうになった。
もっとも、こんな田舎以外はもっとかわいい子が町中を歩いているし、この子は俺のタイプではなかった。
「大丈夫だった?おなか痛かったんでしょ?」と聞いてきたので
「いや、音楽やりたくなくて、ずる休みしただけだから、何にも異常はないよ?」というと
「なんだ、やっぱりずる休みか」と言ってきたので、やっぱりってなんだよって言って、二人で笑いあっていた。
給食はキムチご飯だった。キムチご飯と言ってもほとんどキムチはそんなに辛くないから、みんなから人気のあるメニューだった。
俺の予想通り、給食の時間になり、先生がお替わりを募集したとき俺が並んでいる前には4人くらい並んでいた。
俺の同級生は7人しかいないので、ほとんどが並んでいることになる。同級生と上の学年で連立学級のようなものを組んでいるので正確には7人ではない。
7人に、上級生3人を足して、10人だ。
その中に外国人、ブラジル人が二人いる。
給食を食べ終わってからも、朝の疑惑とトイレの中で気づいてしまったくらい真実は消えることはなかったのだが、外は晴れてきたので、裕太を誘って外でサッカーをした。
サッカーをして、午後の授業をこなしてから下校して、帰ったらママがいた。ママはなぜ帰ってきていたのかはわからないのだが、暗い顔をしていたのか、俺の顔を見かねて
「私が帰ってきてるのに喜ばないの?」と笑って言ってくれたので
「なんにもないよ?大丈夫」と笑って答えた。答えになってなくない?とは思ったが、手洗ってきなさいよと言われたので、手を洗いに行き、おやつとして出されたチップス系の菓子を食べてそのまま、勉強を済ませてからゲームをし始めた。
なぜか気付く瞬間というものはある。サッカーのコーチは何かおかしい。
救世主③
兄の行動にはいつも目を見張っていた。
目を見張っていたはずだった。しかし、兄の用心深さについていけるほどの俺の能力もなかった。
兄の用心深さはいつも隙を見せない。
あの政界へのコネクションについてはもう調査は済んでいる。壮太さんは、お仲間の李明さんを呼んでいる。
そのため、李明さんと二人で俺の説明を聞く。
「まず、兄のやったこと。」というと李明さんは
「不要叫我哥哥」と言い、それを機会が
「兄という呼び方はやめなさい」と翻訳した。この翻訳の仕方は明らかにかしいような気がする。
なぜなら、李明さんの目つきははじめから厳しいものがあったし、これを言うときの声の大きさからも、命令文だからと言ってやめろだったようにも感じる。
すこし、雰囲気に気圧されながらも説明を続けた。
「陽介氏は、政界へのコネクションというテーマで最近動きを強めています。弟が会計をしている剱田を、その会計をしている神邉から、帳簿についての情報を抜き出す作戦を考えた。彼が考えた方法はこうだ。まず、剱田をパーティから誘って色で落とす。剱田から政治的な不正の金のと流れがあることをつかんだら、あとは、剱田を捨てて神邉に移る。神邉は剱田の金の流れをつかんでいるから神邉も色で落とす。」
ここまで言ったとき、
「日本人はどうしてそんなにわけのわからない言葉を使うんだ?言い回しが分かりにくい、とくに「色」っていうのはどういういみだ」と翻訳機が淡白に話したのは
「为什么日本人会用这种难以理解的词语呢? 很难理解这个措辞,尤其是 “色” 的含义」と言っているときの李明さんとは全く違う様子だった。
「色っていうのは女性の雰囲気のようなものだね」と言ったときの壮太さんは
「颜色就像女人的心情」という翻訳機の冷静さと同じようにまた、いつも通り落ち着いていた。理解したような表情を見せたのを確認して
「神邉は、陽介たちの動きを悟っていたのだが、陽介たちは強硬策に出て、神邉の殺人を実行するのだが、神邉の殺人は医療ミスとして処理されるんだよ。ほら、G&K病院で医療ミスがあった事件があっただろ。それが神邉の殺人に繋がってたんだよ。」
「为什么我被迫帮忙解决这个问题? 壮太的计划会成功吗?」と李明が言っていたのだが、翻訳機も内容を拾うことができず、壮太さんも俺も中国語はできないので、意味が分からなさそうにして、首を傾げよとしていたところを見て李明は何でもなかったかのようにして首を二回横に振った。
「神邉の医療ミスについては薬物の禁忌の組み合わせで亡くならせてしまったことにして、その責任を直接負わさせられた、担当職員は多額の退職金と、陽介とつながりのある企業BBMでの再就職を斡旋してもらったようだ。最終的な処理については陽介が手を下したそうだから、真相は闇の中にあるのかもしれないのだが、多分あの秘薬を使ったのだろうという見方を持っている職員もいるようだ。」
「谈谈理由」というときの声は初めて聴くくらいの李明の落ち着いた声だったのだが
「根拠について話せ」といった時の翻訳機の声のほうが少し熱が入っているような気がして少し驚いた。
「根拠は、いくつもある。でも、再就職先を斡旋してもらった職員からの証言と、その職員のつながりからのBBMの調査資料を見てしまった。そして、陽介の記憶が電子化されてデータとしてBBM社に保存されているということも確認済みになっている。そのデータからの証拠というものが一番のものだ。」
そのデータは映像化ソフトというのが現在開発中だそうだ。
映像化ソフトの開発が進んだら、すべてがわかることになるそうだ。
壮太さんはBBM社に深いつながりを持っている。それでいて、BBM社の弱みも握っているそうだから、陽介に匹敵するほどの力、いやもしかしたら、それ以上なのだろう、そんな力を持っている。
この技術のことを英語のProcess、処理するからきて、プロセッサーというそうだ。脳の処理能力を高めることになっているのか、どうかは装着したことがないのでわからない。
なんで、兄がこの能力を手に入れることになったのか、おれは、兄がしたことにしか目を向けて来ず、なぜこうなったのかという本質的な問題から目を背けていた。
その本質的な問題もこの目の前の問題が解決することによってわかるのではないか。そう思うことで、この問題から逃げようとしていることも、俺は自覚している。
李明が壮太さんに
「你打算告诉他你在这里听到的吗?」
「ここで聞いたことはあの人には伝えるのか?」
「もちろん、彼に伝えなければやっている意味はない」
「当然,如果你不告诉他,这样做就没有意义」
会話は全て筒抜けになっているので、会話が聞こえていないわけではないのだが、会話を聞いていたところで、ところどころ濁されるので、完璧に理解することはできない。
もっとも、完璧に理解できていないということは、会話を理解しているとは当然言えない。全く理解していないという方が近いとさえ感じる。
過去編⑤
サッカーコーチとの真実が割れてから、サッカーをもっと辞めたくなってしまった。サッカーをしていてもその考えがちらついてしまうのは、サッカーを楽しくなくしていったし、驚きが多少あったことも原因だ。
驚きとはいっても、少し感情的になった程度で、「へえ」と変わらない程度だ。予想できていた内容だったし、証拠だけがなくて論理はすでに完成していたので、そこに証拠が加わっただけで与えられる驚きはないのだ。
結局サッカーをやめることはなかった。なぜなら新しいサッカーのコーチができたからだ。アイキコーチから、西山コーチという元日本代表のコーチを紹介してもらったからだ。
アイキコーチと西山コーチは10年ほど前にサッカーチームで一緒になっていたんだそうだ。
西山コーチはA代表としての試合経験もあり、U21の日本代表として試合に出た際にはU21のワールドカップで3位の成績に輝いた時のFWとして、チーム得点王に輝いたようだ。
高校時代の成績も輝いている。
高校時代はJユースの中でも名高い名門チームのFWとして、高円宮杯に出場し、3位の成績を残した上に得点王まで取ったようだ。
そのコーチはすこぶる3という数字に好かれているんだな。
しかし、背番号は24だ。そこに込められている願いは全くわからない。レベルアップするために、そこで、スキルや知識などを磨くというのがコーチが紹介された目的だ。
コーチの教え方は、ほめるときは全体の3割くらいの割合だが、7割くらいで怒るときもちゃんと指導のために怒っているような気がするし、3割の時は指導としてのほめ方と、感情的に働きかけるようなほめ方が混ざっている。
アイキコーチの場合、ほめるときは全くなく、怒っているときもただ感情的に起こりたいから怒っているようにも感じる。
このコーチに引かれた理由は最初はその経歴に惹かれていたのだが、次第にコーチの人間性や指導方法についても惹かれていくようになった。
コーチのことを考えているときは、とても楽な気持ちになれるようなことも自覚していた。
コーチのことにつてこんなうわさがあることも知っている。そして、その噂を確かめようとしていない自分が、コーチのことについて悲しみたくないという現実もある。
それはその事実を認めていることになる。しかし、自分で調べることさえなければ、自分がその真実を目のあたりにすることはない。
コーチが、中学生の高円宮杯でU15全国3位に導いたという経験があるということ。それは、コーチが監督を務めていたチーム、F.C.sufletでの実績だ。
F.C.sufletのsufletというのはルーマニア語で魂という意味の言葉だ。なぜ、ルーマニア語なのか。
コーチはルーマニアでもサッカーをしていたことがあり、高校からそのチームに、推薦を受けて移った後、けがで選手人生を閉じることになったそうだ。
高校でユースの中でプレーしてた時から、選手生活を嘱望されていたような選手が怪我で早くに選手生命を閉じることになってしまう。
これは、よくあることなのだ。
選手生命を閉じる原因となったのは、大きな負荷をかけるような過重ともいえるような練習だったともいわれている。
そのため、西山コーチ、通称西コーチは選手生命を終えたときに大きな解放感を覚えて、それが過ぎ去った時に自分に対する怒りが芽生えていったそうで、その怒りが自分、つまり西コーチの次の人生、サッカーコーチとしての人生につなげたようだ。
サッカーコーチで、サッカーコーチだけで生きていこうと思ったら不可能、とまではいわないが、不可能だ。
理由は、金銭面が大きく、いや、金銭面しかない。
スペインなどでは、サッカーコーチをしている人を応援するという文化があるそうだ。
サッカーコーチをしている人が夕方で仕事を終え、サッカーを教えてくるということに人々は不信感を持ったりはしないし、逆にサッカーをしている人もサッカーにかかわらない人も、町全体がサッカーのことが好きで、サッカーのことを応援しているそうだ。
日本ではそういう制度はない。
韓国では、アイドルや美容を国の事業として推進している。しかし、日本にはそのような制度もない。
日本には、国を復活させるためのビジョンなど何もなく、そのうえで危機感を覚えているというような言葉を並べているだけだった。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、いつものネガティブシンキングが発現してしまった。
そのネガティブシンキングは西コーチの闇の部分へとつながっていってしまった。
西コーチがしたこと。それは、強豪チームを構成するために必要なことなのだろうか。体罰が行われているチームは名門であることもある。
名門の伝統という名のもとに体罰が行われているというケースだ。
体罰によって、物理的にも精神的にも尻を叩かれることによって、上手にならなければならないという向上心に火がつくのだ。
これも、5年で、最強チームの称号に近づいたチームの代償だったのだろうか。
こんなネガティブシンキングに陥っていることにはもうすでに自覚していたのだがそれを断ち切ろうとしなかったことを思い出し、その思想を断ち切るようにして首を二回横に振った。
そうして、サッカーを続けることになったのだが、明後日と明々後日に西コーチの練習があることにまた楽しみを覚えていた。
ゲームは最近していない。
あのゲームも三週目のアカウントを作り始めたところで、同じようなことを何度もやらさせられていることに怒りと煩わしさを覚えていたし、すでに知っていることをチュートリアルというな名前のもとでやらさせられることも同様だった。
だから、今はサッカーに打ち込むようないい環境ができている。
今日は何もないのだが、なにもない日の時間の使い方が非常にむずかしい。何もない日というのは何をすればいいのかわからなくなってしまうからだ。
そんな時は、昔は勉強に打ち込んでいたのだが、今は興味のあることがないのでピアノをやっていることが唯一の楽しみだ。
今練習しているのはショパンの幻想即興曲だ。この曲は連続した音符の数が半端ない。1小節の中に16個の音符が入っている。
これに対して左手の音は一小節に12個入っている。このずれがなんとも難しい。
1拍は1分で120拍くらいで1小節の中には4拍分入っているので、1分で30小節分くらいになる。右手は1分間に480個の音符があるが、左手には360個の音符があるため、1秒当たり8個の右手と1秒当たり6個の左手で、1個当たり0.125秒の右手と1個当たり0.167秒のとで、0.042秒の違いがある。
この差は感じ取ることが難しいものなので、感覚で覚えていくしかないような内容だといえる。今は何度も聞いて練習している。
何をイメージしているかと言っても何もイメージしていないのかもしれない。次卯木に音が生まれてくるような感じがしていて、弾いていてとても楽しい。
練習を終えてから、ネットサーフィンを始めた。何か当てがあるようなネットサーフィンではないのだが、ネットサーフィンを続けている。
一つ気になるような記事を見つけた。その記事の中では世界最高ともいえる大学、サンブリッジ大学で教授を務めていた、中村隆一氏が日本最高の大学、帝都大学と協力して研究をして、分子ハサミとiPS細胞細胞の技術を合わせた技術を開発したそうだ。この技術に情報を加えることで、体の中を自由に調整することができるかもしれない。
もっとも、このようにしてニュースにはなったものの、「かもしれない」といわれたままでおわってしまう、技術も多くある。
この技術が俺の脳に埋め込まれているのは間違いないのだろう。しかし、その内容はこの記事には載っていないので、この記事の内容を超過した内容であるのだろう。なにかメールを思い出せと呼んでいるのは天使だった。天国にいそうな輪っかを頭の上に着けていたのだが、少しそのリングは重そうで、首が辛そうだ。
CMでやっているあの塗り薬を紹介してやりたい。
多くの考えが頭をかすめたものの、正しい考えと確定させられるようなものはなかったので、ネットサーフィンはやめた。そして自分の考えは、好奇心は切れた。
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