第4話
タクシーから降りてフロントに預けていた鍵を受け取り、自分のホテルの部屋へと戻った。
携帯が戻ったらやるべきことを、鍵を口で咥えながら、手帳にペンで書き出している。
傍から見ると、美しいドレス姿の彼女がそうするものだから、とんでもない姿に見えただろう。
エレベーターが五階につき、扉が開く。
「そうだわ、すぐに空港に連絡とんなきゃ……、ああもう……携帯が無いと何にも出来やしない……」
手帳を脇に挟み鍵を口から取って、そんな風にぼやきながら前を向くと。
自分の部屋の前に、カジノ場にいた茶髪男が、壁に寄り掛かって立っていた。
アリアは立ち止まる。
男は気づき、アリアに向かって「よっ」と軽く手を上げ笑った。
彼は凭れかかっていた壁から身体を放し、近づいて来る。
「おねーさん俺のこと探してたでしょ。なんか用だった?」
アリアは見上げる。
やはり印象として、シザ・ファルネジアよりも更に背は高い気がした。
同じくらいだが、細身のシザよりは体格は勝ってる感じか。
目立つ男だ。背だけではない。
(纏う雰囲気?)
歩き方や、佇まいだ。
「用っていうか……」
男の登場で、やらねばならなかったはずの大半が、やる必要の無いことになった。
「あんた、アポクリファでしょう」
「そーだけど? 今のご時世、そんな追いかけてくるほどアポクリファが珍しかった?」
「その逆よ」
「逆?」
アリアは鞄を探った。自分の名刺を差し出す。
男は受け取った。
「【グレーター・アルテミス】?
【ゾディアックユニオン司法局情報統制管理室室長】?
【アポクリファ・リーグ総責任者】?
【バビロニアチャンネルチーフプロデューサー】?
……。チャンネルプロデューサーっつうことは……おねーさんテレビ業界の人?」
「【グレーター・アルテミス】は分かるでしょ?」
「ああ、全員住んでる奴アポクリファなんだろ」
「そうよ。私はそこで、街のメディアを牛耳ってる【バビロニアチャンネル】ってメディア会社の職員。上の方の肩書の方が威力はあるけど、今は重要なのはこっちの方」
「なるほどその肩書のお仕事で来てるってわけね。
メディア牛耳ってるっていうその言い方いいねぇ。
金持ってそうな感じ」
アリア・グラーツは腕組みをする。
「ねぇ、唐突なんだけど、貴方の名前は?」
「ライル」
「そ。ライルね。貴方をスカウトしたいんだけど」
「スカウト?」
ライルは目を丸くしてから、盛大に吹き出した。
「なんだ、そういう話? 悪いけど、俺役者はやんねーよ。演技出来ねえし」
「演技なんてする必要ないわ。貴方はその素がいい」
アリアの顔を見下ろしてライルはフッ、と笑った。
「へぇ~。そういうナンパの仕方されんのは初めて」
「違うわよ、ねぇ。仕事の話をしたいのよ。話だけでも聞いてくれない? 部屋で話すわ」
アリアが部屋を指し示す。
「なに? それってエッチな話?」
女が顔を顰めた。
「違うっての」
ライルはけらけらと笑った。
「んじゃ、今日はパス。悪いけど予定詰まってんだよ。お守りしなきゃなんねえお姫様が二人もいるからもう帰んねえと」
「ちょっと待ってよ! じゃあ、私が貴方の所に行くわ! 絶対悪い話にはしないし」
「ごめんね。今夜のお姫様嫉妬深いから。おねーさんみたいな肉感的な女連れ帰ったら部屋から追い出されちゃうし」
「ライル!」
アリアが抗議のような声を上げる。
「仕事の話なら、悪いけどここ通してくれる?」
ライルは胸元から取り出した名刺をアリアに向かって放った。
片目を瞑って笑みを浮かべると、彼はエレベーターに乗り込む。
「時間があったら、必ず私に連絡して!」
アリアが叫ぶと、「おねーさん声デカいよ」と笑い声がして、エレベーターは去って行った。そこに落ちていた名刺を拾う。
「……オルトロス・プロテクション・エージェント……?」
裏返す。
「ライル・ガードナー……」
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