2016

アイシングクッキー【美雪】

「ただいまぁ……兄さん? 何してるの?」

「別に」

 雪の降る中、受験勉強の道具を入れた鞄を抱えて帰宅すると、兄の真白がカウンターキッチンに立っていた。

 私は中学三年生、兄も高校三年生。お互い忙しく、夕食以外で顔を合わせるのは久しぶりだ。今日も空模様が怪しくなければ図書館の閉館まで粘るつもりだったし、兄も同じく自室で勉強していると思っていたのだけど。

「料理?」

 いや、お菓子作りか。部屋に甘い匂いがただよっている。そう納得しかけて、カウンターを覗き込んでまた首をひねる。兄が抱えるボウルの中にあるのは白いドロドロしたもので、クッキー生地には見えない。どちらかというとヨーグルトに近い見た目だけど、ヨーグルトを泡立て器でかき混ぜはしないだろう。

「それは?」

「ボウルいっぱいの砂糖に卵白を加えて練ったもの」

「ボウルいっぱいの砂糖……!?」

 カロリーを想像して絶句する。

「それを、どうするの……?」

「クッキーに塗るんだよ」

「クッキーに……!?」

 さらにカロリーが増えた。兄は私のリアクションを馬鹿にするように笑いながら、クリームが角を立てるくらいの固さになったところで手を止めた。天板の上で冷まされていたクッキーを引き寄せ、絞り袋に入れた白いクリームで丁寧に絵を描いていく。続いてクリームを小分けにして食紅で色をつける。食紅と言っても赤のほか青や黄色もあり、混ぜれば紫などにもなるようだ。

「もしかしてそれ、アイシングクッキー? プロじゃなくても作れるのね。なんで突然?」

「まあ、息抜きに……」

 言って、長いため息をつく。だいぶ疲れている様子だ。

 大学受験は高校受験よりずっとハードルが高いのだろう。さらに兄が目指しているのは美術大学で、教科の勉強だけしていればいいものでもないらしい。

 応援したいけど、がんばってる人にがんばれって言うのは失礼かしら。

 出来上がったクッキーは季節外れなハロウィン仕様で、兄は絞り器の先に残った緑色のクリームを指ですくいながら満足げに笑った。

「初めての割には上手くできたな」

「これ、初めてなのね」

 均等な厚みに塗られたクリームで、バランスよくカボチャのキャラのイラストが描かれている。なんだかんだ器用にこなす兄なので、大学受験くらい妹の応援がなくても乗り切りそうだな、とも思う。

「余ったクリームはどうするの?」

「珈琲に入れて飲む」

「すごく変な色の珈琲にならない?」

「全部混ぜれば黒になるだろ」

 兄がクッキーを一枚渡してきたので、まだ固まっていないクリームをこぼさないようにしながらかじる。砂糖の甘さが、勉強疲れの脳にじんと沁みた。


(2016/1)

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