第39話 仕事に没頭する日々


離婚に向けて解決の兆しが見えないまま、月日だけが流れ、エレナも仲居として働き出して、早2ヶ月が経とうとしていました。


職場では、みなみがしょっちゅう体調を崩しては、欠勤を繰り返していた為、その埋め合わせをするかのように、エレナはほぼ毎日シフトに入っていましたが、この時のエレナは「仕事してる方が余計なことを考えなくてもいいし、その分稼げるし、働いてる方が気が紛れるから、かえって好都合かも」と思い、仕事に没頭するかのように、ほぼフル出勤していました。



そんな中、憲保と遭遇し、


憲保:やぁ、ねーちゃん。元気にしてるか?

なんかいい話なーい? ねーちゃんもこんなところで働いてないで、早く結婚しろ。なんなら、俺お金持ちの知り合いがいるから、紹介してあげようか? そしたら、ねーちゃんも働かなくて済むぞ!


と説教していました。



実を言うと、憲保がエレナに対して説教じみたことを言ってくるのは、この時が初めてではなく、また憲保は、エレナが結婚してることを知らない為、すれ違う度にエレナに「結婚しろ」って何度か言ってきたことがありました。


ただ、エレナはあえて憲保には結婚してることを言いませんでした。仮に言ったとしたら、憲保のことだから、「なんで結婚してるお嬢さんが、こんなところで働いてるんだ。旦那に養ってもらえ」って言ってきそうな気がしたからです。


これまで憲保からこのように言われても、エレナは「またその話か。このおじいさんは、それしか言うことがないのかな」って感じで聞き流していましたが、離婚の件でモヤモヤしてたエレナは、この時ばかりは聞き流すことはできず、憲保に対して


エレナ:そうやって誘惑を誘うようなことを言うの辞めてもらえます? しばらく経ったら、どうせネガティブになるようなことを言うんでしょ。私には生涯のパートナーなんて必要ないんで。


とヒステリックになってしまいました。



現実から目を背けるように、エレナは仕事に没頭していましたが、離婚のことで空回りしていたせいか、この時のエレナは仕事でちょっとしたミスを連発していました。


例えば洗ったお皿を何度か割ってしまったり、お客さんに提供するはずのお料理をお客さんの前で溢してしまっては、お客さんに迷惑をかけてしまったりということを何度か繰り返しては、「また迷惑をかけるようなことをしてしまった」と反省していました。



そんなエレナの仕事ぶりを知子は怒ることはありませんでしたが、普段ならちゃんとやるエレナが普通ではないように見え、ある日の仕事終わりにバックヤードにエレナを呼び出し、


知子:エレナちゃん、最近どうしちゃったの?

もし悩んでることがあるなら、相談に乗るよ!


とエレナに問いかけました。



これまでのエレナは、身近な人ほど相談できず、悩みがあっても1人で抱え込みがちでしたが、もうこれ以上抱えきれなくなってきたので、「この人に言ってダメなら、諦めるしかないかな」と思い、最終手段として、知子に日向のことを打ち明けることにしました。


エレナ:知子さんはご存知の通り、私結婚してて、今は離婚を前提に旦那と別居してるんですが、その理由が、旦那と結婚してから、私自身、旦那から経済的暴力を受けてきて、散々な目に遭ってきたんです。完全にヒモにされてたというか、お金を当てにされてたというか、、、

私だってそんなに持ってるワケじゃないし、返済能力がないクセに、いつも「返すから」って脅すように言ってきては、言い訳を重ねて返さないことがほとんどで、そのせいでツケがどんどん溜まってきて、、、まるで粗大ゴミと一緒に暮らしてるような感覚でした。生活費もいつも私持ちで、それを当然のように思われてて、、、 別居する時も婚姻費用を払うって約束してたのに、払ってくれるどころか、私との連絡をわざとシャットアウトされ、結局婚姻費用ももらえないまま、月日だけがどんどん流れていって、、、今に至る感じです。 

こんなんじゃ、婚姻関係を続けている意味もないし、そもそも好きで結婚した相手ではなかったから、これならいっそのこと、離婚した方がいいんじゃないかと思って、ここで働き出してから、いろんな弁護士事務所に問い合わせたこともありましたが、「お金がない人は承れない」ってつっかえされたり、なんならまるで、旦那を一方的に擁護するような言い方をしてきたクズ弁護士もいて、「そんな目に遭うお前も悪い」とか「所詮、あなた達は夫婦なんだから、そんなことで泣き寝入りするな」とか、理不尽なことを散々言われて、、、こんな人生を望んでたワケじゃないのに、こんな思いをするくらいなら、結婚なんてしなければよかったって心の底から後悔しました。



知子に話してるうちに、悲しい涙が溢れてきたエレナでしたが、知子はエレナの胸の内を最後まで黙って聞いてくれました。エレナの話を聞いた知子はエレナに同情するかのように


知子:あらーっ、そんな辛い思いしてきたの?

早く相談してくれたら良かったのに! 

そういえばこないだ、憲さんにヒステリックにキレてるところを偶然見かけたから、エレナちゃんらしくないなとは思ってたけど、そういうことだったのね!


エレナ:はいっ、憲保さんの説教が、あの時ばかりはどうしても聞き流せなくて…


知子:そっか、早く気づいてあげられなくてごめんね。これまで1人で抱え込んできて辛かったよね。


エレナはこくりと頷きました。


そこで、知子は何かを考え込み、意を決してエレナに


知子:あのね、これはあえて誰にも打ち明けてないんだけど、私の旦那さん、元ヤクザの組長でね、この街はもちろん、エレナちゃんの旦那さんが住んでる街も仕切ってるはずだからさ、聞いてる話だと、もしかしたら、うちの人に相談したら、何とかしてくれるかもしれない。うちの人、義理と人情に厚くて、困ってる人を放って置けない性分だからさ。ちょっとうちの人にも相談してみてもいい? あっ、元ヤクザだったとはいえ、エレナちゃんに身を及ぼすことはしないから安心して!


それを聞いたエレナは恐怖を感じるどころか、逆に「そういう人がいてくれると心強いな」と感じ、「分かりました」と知子の提案に賭けてみることにしたのでした。

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