第11話 海風の誘いと冒険の序章

 早暁の王宮埠頭。穏やかな波音が桟橋をくすぐり、淡い朝霧の向こうに帆船のシルエットが浮かんでいる。美咲は正式に結成された“光の海洋探検隊”の旗艦前に立ち、並ぶ隊員たちを見渡した。彼らは学舎の教師、海洋学者、そして王国海軍の精鋭から構成されている。


「皆さん、本当にありがとうございます。これより我が国初の大海原航海が始まります。未知の地図を拓き、新たな交易路を開くのは――まさに我らの使命です」

 美咲の声に、隊員たちから熱い拍手がわき起こった。


 ――大陸の果て、還らずの海と呼ばれる未知の海域。そこには新たな友好国の可能性も、未発見の資源も眠っている。一歩踏み出す勇気が、王国の未来をさらに広げる。


 その傍らで、レオンは誇らしげに改良型の航海帽をかぶっている。小さな手には双眼鏡と航海用の星図を握りしめ、瞳は生まれ持つ「光属性魔法」による夜間航行支援を想像して輝いている。


「継母様、海の星座も教えてくれる?」

「もちろん。北極星だけでなく、航海の目印となる航海三角も覚えましょう」


 美咲は微笑みながらレオンの隣へ寄り添い、共に星図を広げた。

 帆船の甲板では、甲板員が帆を慎重に広げ、やがて大きな帆が風を捉える準備を整えている。


 午前八時、隊長である老海将の号令で出帆。帆はゆっくりと膨らみ、一行を乗せた船は王宮埠頭を滑り出した。岸辺には、村長や学舎の生徒たち、そして城下町の人々が集まり、別れを惜しんで手を振る。


「気をつけて行ってらっしゃい!」

「必ず新たな光を見つけてきます!」


 船首で美咲は凛とした表情を保ち、やがて振り返って王都を見つめた。

 そこには、穏やかな青空の下に広がる城壁と、市井の人々の小さな家々が望める。


 ――この国を守るという誓いは、海を越えても変わらない。王子もまた、その使命を胸に刻んでいるはず。


 船は穏やかな海原へと漕ぎ出し、やがて水平線に吸い込まれていく。レオンは甲板上で小走りに動きながら、集めた海水標本を顕微鏡にかける実験を思案している。


「僕、ちゃんと航海日誌をつけるよ! 新しい生き物や植物、全部記録するんだ」

「素晴らしいわ。あなたならきっと、この航海を彩る素敵な発見をしてくれる」


 美咲は優しく手を翳し、顔を見据えた。その瞳には、次なる世代への深い信頼と期待が込められている。


 夕刻。船上から眺める夕焼けは、波間に茜色の道を描き出している。甲板の最前列で、美咲とレオンは肩を寄せ合い、風に舞う塩の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


「未知の大海は、時に嵐を呼びます。けれど、どんな困難も――あなたとなら乗り越えられる」

「はい、継母様。僕は継母様と、この船の仲間を守ります」


 二人の言葉が静かに重なり、帆船は新たな冒険の黎明を迎えた。

 遠くに輝く星々も、二人を祝福するかのように一斉に瞬いている。


 ――ここから始まる大航海。家族と民を想う光の令嬢と、小さな王子の絆はますます強く、深く。彼らの物語は、まだまだ続いていく。

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