幽霊空城
ʚ傷心なうɞ
Part1
黒雲より注ぐ雨粒が土壌を濡らし、その中を駆けるように稲妻を描いて音を轟かせる
その上には、何人かの乗船員が確認できた。先端に立ってコンパスと地図を交互に見返す船長らしき者、内部機構の破損を恐れて整備をしていたのか、船体内部から甲板に上がるエンジニアらしき者。その他外を眺めて不安げな表情を浮かべる者など、大した特徴の無い光景がそこにあった。
それに忍び寄るように、もう一隻の飛空挺が背後に突然浮上していた。
それはかなり小型な船体で、この荒天の中では、エンジンの音もプロペラの音も外部に響くことは無かった。それが故に、小さな飛空挺は認識されることも無く船体の後部横にぴったりと張り付いた。
そこから、3人の男女が飛空挺に乗り込んで来た。
「なっ……誰だ!お前ら――」
1人の船員は、言葉を最後まで紡ぐことすら許されずに刺殺された。喉元と腹部から
「ぐっ……がっ……!離せッ……こン……の…………」
先頭に立って舵を取っていた船長は、背後から首を掴まれていた。片手で易々と人間を持ち上げているにも関わらず汗ひとつ浮かべていない様子の女は、船長の必死の声明には耳ひとつ貸さずに、絶命を確認してから地上へ無慈悲に死体を投げ捨てた。そのような光景が、甲板と船内を問わず起こっていた。
そのまま、数分の内に蹂躙は終わった。勿論、全ての船員の死亡という形で。
「アタシは死体捨てとくよ。2人で中見といて」
そう言って甲板の上にいくつか並んだ死体を持ち上げていたのは、腰ほどまで伸ばした金髪が印象的な少女。〈ネフィア〉という名のその人こそ、この強盗団の
「やっぱりこの規模だと多そうだな……俺はこっちの方探す」
船体後方のハッチを開き、梯子を降りた先の倉庫で、短い銀髪を揺らす少年が言った。その髪色に違わぬ〈シルハ〉という名の彼は、共にここへ降りた少女に先の言葉を投げると、大量の荷物の中へ消えるのだった。
「こっちらへんは……あ〜、食料か……」
残された少女は、自身の近辺を捜索していた。白銀のツインテールを持つ彼女は、その辺に雑に積まれた箱を一つ一つ開けていくが、そこにあったのは食料のみ。果物やら缶詰やら、調理をせずとも食せるものばかりなのは、飛空挺では常識であった。相当な規模でないと調理室を搭載できず、搭載できたとしてもその使用にはかなりの費用がかかるからだ。
して、少女は早々に見切りをつけて別の箇所の捜索にあたった。この船体の内部はほぼ全てが倉庫として用いられているようで、梯子がかけられた壁の向こうにエンジンルームがあるのみだった。
「イリス、何か収穫あった?」
〈イリス〉、先の少女はそう呼ばれた。その声の主は、ネフィアであった。
「いやぁ……この辺は大体食料ばっかで……今シルハが別のところ探してるんだけど、そっちに協力してあげた方がいいかも」
イリスはネフィアにそう助言すると、影へ消える金髪を見送って、再び近辺の捜索を始めた。
数十分後、3人はもといた飛空挺に戻っていた。
先程と比べてかなり寂しさを感じさせる小ささの甲板の上には、いくつかの物資が並べられていた。箱に詰められた食料や、あの飛空挺の船員が身につけていたアクセサリーなど。それ以外には、獣の牙や毛皮があった。
どうやらあの飛空挺は商人のもののようであり、彼女らもそれを理解して襲撃していたのだった。
「それじゃ、そいつらは中にしまっといてくれ。アタシは舵を取っとくよ」
ネフィアはそう言うと、甲板の先端に向かった。船体の舵を回し、大きな飛空挺から剥がれるように距離をとる。十分に間隔が空いた後にプロペラをフル稼働させ、ひとまずこの嵐を抜けようと、コンパスに従って舵を切るのだった。
これが、彼女らの日常だった。飛空強盗団……なんて呼ばれ方もするこれは、彼女らのような社会不適合者が生きていくためには最も効率の良いものなのだ。今回のように食料を集められもするし、貴族や冒険者が乗るものを襲えば、一発で億万長者も夢では無い。ある程度実力をつければ反抗されることもないし、神というのは案外バランス調整が下手なんだな、とすら彼女達は考えていた。
しかし、どうやら今日の神は不機嫌らしかった。
「……?」
ネフィアは、瞬きをした。
1秒にも見たぬ暗幕の後、眼前には城が浮かんでいた。
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