Last Breath Online ─ ただの病弱白髪な少女が、 "死神" と呼ばれるまで

雨宮 来栖 (Khos)

第一章 死神と呼ばれた少女

死神と呼ばれた少女が生まれた日





  2055年、世界はAI技術や XクロスRリアリティ技術の進歩により、都市化が進んでいた。



  製造業、医療分野、その他様々な場面でこの技術は使われており、普段の日常生活に置いて、切っても切れない関係性にあった。



  そして近年、日本の大手ゲーム会社である『Whiteホワイト Lightライト』社から、最新の技術とAIを用いたとあるゲームが販売されようとしていた。



  そのゲームの名前は、 "Last Breath Online" 。通称、 "LBO" 。人間の五感を完全再現し、ゲーム内に登場するNPCは最新の学習型AIによって、独自の感情、考えを持ち、NPC1人1人が本当にその世界で生きているかの様に遊べる、フルダイブ型VRMMORPGだった。



  世間はこのゲームの発表が知らされると、SNSやネットの掲示板等でとてつもない反響を呼んだ。



  日が経ち、いざLBOのネット抽選が始まると、その応募数は日本国内で400万人を超えており、異例の数を記録した。



  そんな魔境とも言えるLBOのネット抽選に、本当にたまたま当たった14歳の少女が居た。



  その少女の名は、 "真白ひなた" 。『Whiteホワイト Lightライト』社の社長で、LBOの父とも言える『真白龍之介』の娘であり、約8年間、不治の病によって入院生活を繰り返している少女だった──





 ■






 「今日で退院、かぁ……。」



  病院のベッドの上で、外を見ながら私はそう零した。



 「長かったような、短かったような……。まぁ、病気はまだ治ってないけど……」



  私は今から8年前、良く分からない病気に罹ってしまった。どれだけ調べても原因は不明で、お医者さんが言うには、私が世界で初めて患った病気かも知れないとのこと。今でも、お医者さんから貰っている薬を飲んで、少しの間だけ症状を落ち着かせる事しか出来ていない。



 「う〜ん、折角お父さんの作った新しいゲームの抽選?って言うのに当たったのに、遊べないんじゃ意味が無いよ〜。」



 自分の首に着けているXクロスLリンゲージDデバイスが表示している画面をまじまじと見ながら、 私はベッドの上でだらーんと身体を寝転がした。



 「はぁ…、やってみたかったなぁ、LBO……。」


 

 肩をがくんと落としながら、何をしようか迷っていると、コンコンと病室のドアがノックされ、開いた。



 「ひ、ひなたちゃん、迎えに来ましたよぉ?」

 「……あ、日野森さん!」

 「んぇあっ!?おおお落ち着いて下さいひなたちゃんっ…。ひなたちゃんは、病気のせいで身体が弱いんですから、あまりはしゃがないようにして下さいねぇ…?」



  私がバッと体を起き上がらせると、スーツを着た高身長で綺麗な女性、日野森さんは、焦った顔で私を静止させた。



 「あぅ…、ごめんなさい、日野森さん…。お父さんとお母さんの代わりに、折角お迎えに来てくれたのに……。」

 「だ、大丈夫ですよぉ…?で、ですから、そんなに落ち込まないで下さいぃ…。ほ、ほら、飴ちゃんあげますよぉ…?」



  そう言いながら、日野森さんはポケットの中から小さな袋を取り出し、私に差し出した。



 「あ、ありがとうございます、日野森さんっ…。」

 「は、はいぃ、喜んで貰えて、良かったですぅ…。」



  お互いにオドオドとしながら、日野森さんは安心した様な顔で、私の顔を改めて見た。



 「え、えっと、ひなたちゃん。改めて、退院おめでとうございますぅ…。今日は、私の運転で、真白社長の所へ行きましょうかぁ…?」

 「は、はい…。あ、えと、日野森さん。今日は、お母さんにも会えそうですか?」

 「い、いえぇ…、夜宵さんは、先日からまた出張に行かれましたぁ……。なので、数週間くらいは会えないかとぉ…。」

 「うーん……、そっかぁ…。またお母さんに会えないの、残念だなぁ……。」



 お母さんに会えないのは残念だけれど、お父さんには久しぶりに会えるので、私はすぐに気持ちを切り替えた。



 「夜宵さんは、いつも忙しそうにしてるので、会えないのは仕方無いですねぇ…。特に最近は、OWオーバーワーク気味でしたしぃ…。」

 「…?日野森さん、おーばーわーくって、なんです?」

 「あぁいえっ、何でも無いですぅ…。ひなたちゃん、立てますかぁ…?大丈夫そうだったら、私の車の所に、行きましょっかぁ…?」

 「んー…?分かりました…?」



  日野森さんの言葉にはてなマークが浮かびながら、私はゆっくりと立ち上がり、日野森さんと一緒に車へと向かった。





 ■






 「しゃ、社長ぉ…、ひなたちゃん、連れてきましたよぉ…?」



  日野森さんが私の手を優しく握りながら、椅子に座っている人にそう言葉を放った。



 「ん?あぁ。ひなたのお迎えを、私達の代わりにありがとうございます、日野森さん。」

 「い、いえぇ、これくらいの事だったら、お任せ下さいぃ…。」

 「頼もしい限りですね、本当に。戻ってきて早々で悪いのですが、そろそろLBOのサービス開始時刻ですので、日野森さんが担当している箇所の最終確認をお願いします。」

 「は、はいぃ、すぐに確認しますぅっ…!」



  日野森さんはそう言うと、すぐに移動してパソコンの前に座り、色々とキーボードをカタカタと入力し始めた。



 「暫く連絡も出来なくてごめんなさいね、ひなた。お見舞いにも充分にいけず、本当に親として失格です…。」

 「ううん、気にしてないから大丈夫だよ、お父さん。お母さんも、お仕事でずっと忙しかったんだよね?」

 「はい…。ひなたには寂しい思いをさせてばかりで、夜宵さんも、出張に行くまでひなたのことをずっと気にしていましたねぇ…。」

 「あはは…。ちゃんと、お医者さんから貰ってるお薬も飲んでるから大丈夫だよって言ったのになぁ…。」

 「自分の子供の心配をしない親なんて居ませんよ、ひなた。特に、夜宵さんはとても心配症ですし、優しい人ですからね。」



 お父さんはそう言いながら、椅子から立ち上がり私の前まで歩いてきた。



 「まだひなたの病気は治ってはいませんが、ひなたの退院祝いにプレゼントがあるんです。」

 「え、そうなの?お父さん。」

 「はい。ひなたが喜ぶかは分かりませんが、夜宵さんと私、あそこにいる日野森さんとその他大勢のスタッフで頑張って作りました。」

 「んぇ、お父さん達が私の為に…?」

 「はい、そうです。」



 『一緒に手を繋いで行きましょうか。』とお父さんは私の手を優しく握ってくれ、私はそのままお父さんに着いていく形で歩いた。





 歩き始めてから数分ほどで、お父さんは歩く足を止めた。



 「着きましたよ、ひなた。」



  お父さんにそう言われ、私は目の前にある色々な機械と繋がっているカプセル?の様なものをまじまじと見た。



 「カプセル…?」

 「はい。このカプセルは、私達の会社の持つ技術全てを使った最高傑作ですね。」

 「へえぇ、そうなんだ…。」



 何も詳しいことが分からない私でも、このカプセルは物凄い物なんだなぁと感じれた。私がカプセルの透明の部分から中身を見ていると、お父さんが何かを思い出すかのように話し出した。



 「前にひなたが、自分のお友達と私の作ったゲームで遊びたいと言ったのを、覚えてますか?」

 「…?うん、ちゃんと覚えてるよ?でも、あの時かられんくんとはるかちゃんにはずっと心配されてちゃってるけどね…。」



 私がこの病気に罹ってからすぐの頃、私の幼馴染である蓮くんと遥ちゃんが私の病室に来て、一緒にゲームをやろうと誘ってくれた。そのゲームのボスを3人で倒した時、私は嬉しさで気持ちが昂り興奮したのだが、その時に体調が急激に悪くなってしまったことがあった。それ以降、二人はそれを心配してか、私にゲームを誘ってくれる事が無くなり、同時に私も、ゲームを触る事が無くなってしまったのだ。



 「このカプセルは、簡単に言ってしまえばひなた専用のシェルターの様な物なんです。」

 「私専用の、シェルター…?」

 「はい。このカプセルの中に入ると、私達が作った新作VRMMORPG、『Last Breath Online』が遊べる様になっているんです。」

 「えっ。ん、え?」



 突然の情報に、私は脳がフリーズしてしまった。



 「長時間プレイしても大丈夫な様に、中は一定の気温と湿度を保ち、極上のふかふかなクッションを入れ、ひなたの好きな花の香りも出るようにもなってるんですよ。」

 「はいぃ…?え、うん?待って待って……?お父さん達、滅茶苦茶凄い物作ってるじゃん…!?」

 「他にも色んな機能が入ってますが、取り敢えずはひなたの為に作った物と認識して貰えれば良いんです。」



  お父さんたちが凄い人と言うことは知っていたが、ここまでとんでもない物を作ってしまうとは思いもしなかった。



 「ひなたが、また元気に遊べて、笑える環境を作ってあげたかったのですが……、私達には、ここまでが限界でした。ごめんなさいね、ひなた。」

 「う、ううん…。充分過ぎるよ、お父さん。お父さん達が、私の為にこんなに凄いものを作ってくれて、本当に嬉しい…。」



  今の日本は物凄く技術が発展していると学校の教科書で見たが、この様な物を作るのは簡単では無い筈なのだ。それを、私の為にと言う理由だけでここまで頑張ってくれたのだから、嬉しくない訳が無い。



 「ありがとう、お父さん…。」

 「……喜んで貰えて、良かったです。」



  私の言葉を聞いたお父さんは嬉しそうにしながら、カプセルに繋がれているパソコンを操作し始めた。




 「あ、そう言えばお父さん…。実は私、この前お父さん達がやってたLBOのネット抽選?って言うのに当たったんだけど、どうすれば良いかな…?」

 「んぇ、そうだったんですか、ひなた? うーん……、ひなたは、蓮君や遥君と一緒に、LBOをプレイして見たいですか?」

 「え?うん…、出来るんだったら、あの二人とやりたいなぁとは思ってるけど……。」

 「でしたら、ひなたの当選結果を蓮くんと遥くんの二人に反映させて、二人にLBOのダウンロードデータをお渡ししましょうか。」

 「えっ。お父さん、そんなこと出来るのっ…!?」

 「はい、開発者ですので。」



  お父さんはふふんとドヤ顔をしながら、そう言った。



 「ひなたが首に着けているXクロスLリンゲージDデバイスで、LBOとのアカウント連携をしたら、LBOにログインしている間でも、私や蓮君達に連絡が出来るようになるので、良かったらやってみて下さい。」

 「うん。ありがとうね、お父さん。」

 「いえいえ、分からないことがあったら、チュートリアルをしてくれるAIさんに聞いて下さいね。」



  お父さんがそう言い終わると、目の前にあるカプセルの蓋が開いた。



 「この中に入って、横になれば良いの?」

 「はい。ひなたが望むのであれば、LBOの世界に入った後でもログアウトせずにそのまま夜を越すことも出来るので、覚えておいて下さいね。」

 「うん、分かった。ねぇお父さん、このカプセルの中に入ったままの状態って、何日まで続けられるの?」

 「うーん……、大体、3ヶ月位ですかね?」

 「え、3ヶ月…!?」



  思ったよりも長い期間だったので、私は思わず驚いてしまった。



 「一応、中には点滴もありますからね。ひなたがこのカプセルの中に入っている間は、着ける様にするので安心して下さい。」

 「………ますます、このカプセルの凄さを思い知らされるなぁ……。」



  私はそう言いながら、カプセルの中へと入った。



 「ひなた。」

 「ん…、お父さん、なぁに?」

 「………行ってらっしゃい。楽しんでくるんだよ。」

 「うん。行ってきます、お父さん。」



  カプセルの蓋はゆっくりと閉まり、私の意識は、そのまま暗闇へと落ちていった。







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