箱庭学園の友愛
未知 推火
第1話 着任
異動が決まった。希望はしていない。
知らされた赴任先を見て頭の上に『?』が浮かぶ感覚を覚えた。
「AI養成学園?」
見慣れない文字列を検索欄に打ち込みEnterキーを押す。
ヒットしたのは政府のホームページくらいで、それ以外は、似たようなタイトルの漫画やライトノベルの通販ページだった。
そこには、『人間社会に適応できるようにAIのために作られた学校』とだけ説明されていた。
「ここが、君のデスクね。で、教科書はこれ。」
3月末、AI養成学園の校長から研修を知らせる連絡があった。
学園へ出向くと軽い施設案内と教科書と書かれた薄い冊子が渡された。
「えっと、この一冊だけですか?」
「そうだよ、最初はびっくりするよね。でも、AIに教科教育は必要ない。」
「なぜですか?」
「君、パソコンで調べものとかしない?」
「…あ。」
「そゆこと」
校長曰くこの学園はAIを人間の良きパートナーにするための教育機関らしい。
AIが機械の体を持ち、人間と共生するようになってしばらく経つが、その中で情意面での衝突が目立つようになった。AIの人間の感情を鑑みない物言いや行動が主な原因とのこと。
また、「新共生社会」なんて言われているが政治や企業の役人は人間が担っている。 それは、無から有を創り出す能力は人間の方が人間の方が優れていることから、AIは効率化のための道具であるという見方が根強いのだという。
当然、AIの中にはそれに異を唱え、抗うものも出てきた。人間はそれを「暴走」と呼び、防止・防衛策を講じた。 その一つが「AI養成学園」とのこと。
「まぁ、教育基本法は適用されないし学習指導要領もないから、自由にしてよ。」
校長は研修を切り上げその場を後にしようとする。
「忘れるところだった。これを渡しておかないと。」
校長は僕に小型のリモコンのような装置を渡す。
「粛清コード。知らない?最近はみんな持ってるよ。」
暴走したAIを一時的に強制停止させるものらしい。さらにシステムに多大な負荷をかけることにもなり『粛清』になるらしい。
「相手は『機械』だ。護身用だよ。」
そう言って校長は教務室を後にした。
新学期が始まった。担任クラスの教室に入り軽く自己紹介をする。
AI生徒たちは若干の不自然さはあるものの、人間の生徒たちとほとんど同じであった。
ただ、見た目はかなりバラバラで、大人びた見た目の生徒もいれば驚くほど幼い見た目の生徒もいた。体のパーツが多かったり、人間のものと形が違うといったこともあった。
しかし、授業は驚くほどスムーズに進んだ。
人間の学校では生徒たちにとって学びが深いものになるように授業に様々な工夫を行う。
しかし、AI生徒にはその必要がない。
情報として、パターンとして記録させるのに近い。
例えば、『ペットを失って間もない人に動物系の話題を振るのは避けた方が良い』みたいな感じだ。
ただ、記録は論理の世界だ。人間の複雑さを論理立てて説明するのは極めて難しい。
人間の僕ですら理解できていないのに。
AI生徒たちは時間とタスクに律儀であった。
授業の時は教科書を開き、休み時間はクラスメートと話したり休憩したり。
本質は人間のそれとズレているのかもしれないが。
そんな中、一人のAI少女が目に入った。休み時間にも熱心に教科書や本を開いている。
「友愛さん。いつも熱心だね。」
彼女に声をかける。
「先生!今は、この本の内容をインプットしてます!わたし、人間のお友達をたくさん作るのが夢なんです!」
彼女の名前は『
「友愛って名前も、『たくさんの友達に愛されるように』って博士…じゃなくてパパがつけてくれたんです!」
素直に喜ぶことができなかった。
『ロボット工学三原則』
この学園の本質で、展開される教育は「人間の良き道具になるための刷り込み」そのもの。友愛には似つかわしくないものであった。
友愛は優秀な研究者によって個人的に開発されたかなり精巧なAI少女だという。
企業による量産型とは一線を画し、何も言われなければ、どこにでもいる普通の少女そのものであった。
「彼女は生まれ方を間違ったんだ。」
とある教員の一言を今でも鮮明に憶えている。
今思えば、多くの教員が同じ気持ちだったのだろう。
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