『しずかな耳亭へ、ようこそ!!──褐色エルフメイド・ユーフィナの塔内奮闘録』
門東 青史
第1話《ユーフィナの朝──グランドオープンの日》
「よーし、今日は……絶対噛まない!『いらっしゃいませ』も、『本日のおすすめはこちらです』も、百点満点で言ってみせますっ!」
鏡の前で小さくガッツポーズ。
胸がどきどきして、ちょっと手もふるえてますけど、それはたぶん、緊張のせい。
でも、半分は――ううん、たぶん半分以上は、楽しみで仕方ないからなんです。
だって、今日はついに!【王都最大の
その名は《アルシェ・インフィニタ》。
アルシェは「始まり」や「箱舟」を意味して、インフィニタは無限を想起させる。
地上百階、地下百五十階、階層ごとに異なる風土と文化を抱き、帝都の縮図であり、未来の見本でもある。
けれど人々は、親しみを込めてこう呼ぶ。
「AI(エーアイ)異世界デパート」と。
地上百階から地下百五十階まで。
階ごとに異なる世界が広がっていて、魔法書専門の古書街や、空中回廊を歩きながら楽しめるスイーツフロアがあるとか……。
もう、聞くだけでお腹が減っちゃいそうなんですけど、それよりも――その一角に、わたしの働くエルフメイドカフェ《しずかな耳亭》も、お店を構えるっていうのが……本当に、夢みたいです。
……あ、そうだ。
ポケットのなかには、いまもあの布のお守りが入ってます。
森の村を出る朝、弟のリルと妹のナナが、夜なべしてこっそり作ってくれたもの。
中には、「ユーフィ姉が、けがしませんように」って、可愛い字で書かれた紙が一枚。
わたしが王都に来たのは、たしかに夢もあったけど――
一番の理由は、あの子たちに、ちゃんとごはんを食べさせてあげたいから。
だから今日も、がんばるのです。
紅茶の名前、まだ覚えきれてないけど……笑顔は、負けません!
ちなみに、わたしの働くカフェ《しずかな耳亭》は、地下三階と四階のあいだにある『静音区』というフロアのすみっこにあって、「ここだけ時間がゆっくり流れてる」って評判らしいんです。
たしかに空気が、森よりも静かで澄んでいて。深呼吸すると、朝露みたいな匂いがするんですよ。不思議。
王都に出てきてから、ほんとに毎日バタバタでした。
訛りは出るし、お盆を持つ手は震えるし、紅茶の種類は多すぎるし……
でもそのたびに、店長――ルグ婆が浮かび上がっては、
「余の若い頃など、茶葉が自己主張してくる時代じゃった」
とか言いながら教えてくれて。その人(あっ、見た目はお子さまですけど)は、「千年の紅茶使い」「杯読みの賢者」「漂泊の淹れ手」──そんなふうに呼ばれているらしいですが……わたしにとっては、『ちょっとこわくて、でもすごくやさしくてかわいい小さなおばあちゃん』です。
そんなルグ婆のお店が、今日ついに、お客さまを迎える。
王都のいろんな人が、この塔の中に集まってくるはずです。
魔術師も、貴族も、冒険者も、もしかしたら他のエルフも……。どんな人に出会えるんだろう。
どんな紅茶を淹れられるんだろう。
わたしの笑顔、ちゃんと伝わるといいな。――よし、いこう!
今日からわたしは、地下三階と四階のあいだにある、《しずかな耳亭》で、いちばん大きな声で笑顔を届けるメイドになるのですっ!
「いらっしゃいませっ! ……あっ、まだ開店まで10分あった!」
……でも、この『うっかり』が、わたしらしさってことで――ね?
💫エルフメイドカフェ《しずかな耳亭》、本日開店!!💫
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