第11話 無謀な一騎打ち






闇が深まった夜。少し城下の町が騒がしかったがすぐに落ち着いた。


恐らく…アウトサイダー達の喧騒は陽動…。彼らはこちらが敵意を向けるとすぐに逃げた。立ち向かう者も中にはいたが、それは力のない者を逃がす時間稼ぎ。


目的は別にある。

暗喩あんず部隊部隊長…ミリステアは鳥籠でぐっすり眠るグリを見た。目的…そんなの一つしかないではないか。



「まさか、本当に誰にも見つからずここまで来るとは…。

人払いをして正解でした。アナタがこのグリフォンの飼い主ですか?」



カタカタカタ…と二つの足音が空中庭園の階段を上がる音が聞こえた。

もう逃げ回るのは諦めたらしい。仕方のない事だ。目的のグリフォンの子はミステリアの目の前にいるのだから。



「退きなさい、お父さんだ。そこを通してもらおう。」



堂々とした物言いからさぞ、大物で明敏な者が現れると思っていたミステリアは目を見張った。

その者は背は高いもののお世辞にも体格がいいとは言えず非戦闘員に思える。


かと言って魔力があるようにも見えず、その質素な格好やモヤシの様なヒョロヒョロな貧相な体格のシズカを見て彼は吹き出した。



「フッ…フハハハハ!まさか…!

ワーキング如きに我々の衛兵や暗喩部隊が翻弄されていたとは思ってもいなかったぞ!

貴様…本当にコイツの親だって言っているのか?」



「ああ。そうだ。」



共にいる震えるフォンの肩をギュッと包んでシズカはミステリアを見据えた。



「俺は…この子達の親だ。

誰がなんと言おうと…例えそれが上流階級の方々が相手だろうと…この子達の幸せを一番に願う者だ。」



本当にこの場面に来てしまったとシズカはガタガタと震える足を叱咤した。


本当は誰にも見つからずグリを救出するはずが、まさかの暗喩部隊長が待ち伏せているとは思わなかった。


いや…本当は少しだけその可能性は考えていた。

このまま目の前の強者を出し抜かなくてはグリを助け出すことは不可能だ。



「う、う〜ん…?シズカぁ…?」



シズカの声に反応したのかずっと寝ていたグリが目を覚ました。


まだ寝ぼけているのか状況が飲み込めていなさそうだが、シズカとフォンの姿を見て一気に目を覚ます。



「あ!シズカ!フォン!!」



その嬉しそうな声と笑顔でグリはどうやら大事には至ってないと安心したが、彼は翼を広げ二人の元に向かおうとすると、すぐに顔しかめて翼を地面に付けた。



「いっだあ…。何コレ…?」



ヨウがこの前話していた通り、グリの翼は魔法で焼き焦げたように大きな穴が開いていた。これでは上手く飛ぶ事など出来ない。


ここでようやく、状況を飲み込んで自分が捕まっていると気付いたグリは咄嗟に鳥籠を無理矢理破壊しようとツメを突き立てるが……ビクともしない。



「一度、グリフォンと相対した私達がその力を知らぬはずないだろう。

万全にしてある。抜かりはない。」



それを聞いてヘタリとグリはその場に座り込む。目には大粒の涙を溜めているが、シズカ達を見て気を持ち直す。


そんな彼に気付いたシズカはグリにいつものように笑いかけ、ガッツポーズを決める。



「グリ。大丈夫だ!今、助けてやるからな!

世界中、冒険したいんだろ?こんな所で挫けるな!」



グリはシズカの激励に涙を乱暴に拭いて同じくガッツポーズをする。

そのまるで親子のような光景にミステリアは笑わずにはいられない。



「フハハハ…!いや失礼。本当に親子のようだな。疑ってしまって失敬。

お詫びと言えばいいのか分からないが、ワーキングのアナタでもチャンスを与えてやろう。………剣を抜け。」



シズカはその言葉にゴクリと生唾を飲んだ。


まさか一対一の勝負になるとは思ってなかったからだ。しかしここで逃げる訳にはいかない。

シズカは渡された剣を抜いてプルプルする腕で構えてみる。



「ルールは簡単。模擬戦形式です。

アナタが私に一振りでも傷を付けられたらアナタ勝ち。逆に私はアナタが負けを認めるまで殺す気で攻め続ける。…どうだ。」



ギラリと月明かりもないのにミステリアの瞳とその剣先が光る。

確かにその勝負方法なら戦闘が苦手なワーキングでも勝ち目があるかもしれない。


だが逆を言えば負けを認めない限り滅多打ちにされる可能性もある。

シズカはその申し出に否応なしに頷くしかない。



「…その覚悟確かに受け取った!王国特殊部隊暗喩部隊隊長、ミステリアの剣の錆になるオマエの名を聞いておこう。」



「…シズカ。闇夜に舞い落ちる……殺し屋……などではない……。


ただの……情報屋だあああああああああああ!!!」



どちらからと言うでもなく、二人の打ち合いが始まった。

カンっ!カンっ!と二、三度打ち合っただけでもうシズカの両手は痺れだした。

対するミステリアは片手で軽く受け流すだけに留まっている。



「…もう終わりか?」



「クッソ!!」



普段、剣なんか振り回さないシズカにとって格上との打ち合いはすぐに腕が上がらなくなる事は明白。

気力だけでなんとか振り上げるもその動きは単調で、戦闘のプロ…それも隊長クラスからすればすぐに返り討ちに出来る。



「ガフッ!」



いとも簡単に剣の柄で腹にカウンターを決められる。

そしてそのまま剣が振り落とされる音が聞こえたと同時に転がりながらミステリアと距離を取った。



「咄嗟の判断には優れているようだな。だが避けてばかりでは、ただでさえない体力を消耗するだけだぞ。」



そんなの分かっている。

体力的にも技量的にも圧倒的にシズカは劣っている。やるなら短期決戦。


ミステリアの意表をつくしか方法がない。だがどうすればいい?何だったら彼より上回れる?

……そんなの…一つしかない。



「オマエの唯一とも思われる能力はおおよそ察しが付いている。


恐らくはサーチ系の能力だろう。だがそれでは私には勝てない。

サーチは元々ある物や生き物の能力を分析する能力。過去や未来は分析することは出来ない。


従って私の次の行動を読むのは不可能。アナタが私に勝てる確率など…万に一つない。」



諦めろ。と言わんばかりにミステリアは一気にシズカとの距離を詰めて猛攻を開始する。


まだ立ち上がる事さえ出来てないシズカは、その攻撃を剣で防ぐ事しか出来ない。…腕はもう感覚がないくらい限界がきている。足腰も踏ん張りが効かなくなって来た。

もう、耐えることさえ時間の問題になってきている。



「(あと少し…もう少しなんだ…っ!)」



だけどシズカは諦めてなかった。

往生際悪くリサーチを使って何かを探っている。


確かに…ミステリア自身をリサーチした所でその能力は高く、シズカが付いていけるものではない。

彼がリサーチしているのは別にある。


例えばこの庭園。どこかに…それこそ過去に模擬戦などで付いた痕跡の一つでもあれば…それを頼りに彼の戦いの癖を見出せるかもしれない…。


限りなく低くその上、見つけとしても対処できるか分からないが、今はそれに賭けるしかない。



「………何処かに………!」



「…何をブツブツ言っている。オマエの負けだ。死にたくなければさっさと負けを認めるがいい。」



ギリギリと剣と剣がぶつかり合う音を立てながらも、シズカはそれに答えなかった。


ミステリアは留めを刺すべく一旦距離をおく。



「オマエのその粘り強さだけは褒めてやろう。

それに敬意を評して…せめて一瞬で焼き殺してやる。」



そうミステリアは唱えると剣を構えた所から膨大な魔力が集まる。


風が巻き込まれ渦ができる。その溜まった膨大なエネルギー波をシズカにへと向けた。



「さらばだ愚か者よ。大切な者も守れない己の無力さと、国にたてついた事をあの世で詫びるがいいっ!!」



魔力は熱破へと変わりシズカを襲う。この熱波はグリの翼をも焼いた熱量だ。


真正面から受ければただでは済まないだろう。



「シズカっ!!待ってて!」



堪らずフォンはシズカを助けようと加勢しようとするがシズカはそれを制した。


これは一対一の真剣勝負。誰が加勢するなど許される訳ない。例え…それが命の危機だろうとルールはルールだ。



「(いや…まだ……いけるっ!)」



いつもやる気のなさそうな眠たそうな三白眼の目が見開かれた。

それと同時にエネルギー波による爆発が起こる。だが、そこにシズカの姿は何処にもなかった。



「ま、まさか…っ!」



そう思い後ろを振り返るとそこには目を光らせたシズカがいた。

あり得ない!私の大技を出す時の癖を知るはずない!とミステリアはがら空きの背中を取られて愕然とする。


シズカはこの一瞬のチャンスを逃さないとばかりに渾身の力で剣を振る。

が、足腰まで限界が来ている彼は踏ん張る事すら出来ず、剣に振り回される形となって剣先はミステリアの一纏めにした黄金の髪がボトリと落ちただけとなった。



「ーーーーっ!!」



それでもワーキング如きに意表を突かれたことに驚きを隠せないミステリア。

焦りから尻餅を付いているシズカの喉元に剣先を向ける。少しでも動けば刺される近さだ。



「…残念だったな。これが決まれば勝ててたものを。己の脆弱さを恥じるがいい。さあ!負けを認めろ。」



「………ぐっ……。」



正論すぎてぐうの音も出ないシズカは奥歯を噛み締める。

本当にその通りだ。戦闘センスがないからと諦めて修行を放棄していたツケがこんな所で回ってくるとは思わなかった。


だとしても負けを認められなかった。



「……シズカ。」



鉄格子越しからグリは自分の無力さと考えなしを痛感していた。


もしあの時、ちゃんとシズカの言う事を聞いて雑貨屋の子を助けなかったら翼を見られる事もなかったかもしれない。

襲撃にあった時、もっと自分に力や知識があれば…誰も傷付かずに済んだのかもしれない。


何もかも過ぎ去った事だ。どうしようもない。後悔だけがグリを襲った。



「(お願い…!寝坊ばかりで時々情けないけど…誰よりも優しくていつもボク達のヒーローでいようとしてくれる…大切な父親を助けたいっ!!)」



お揃いの紫色のローブを掴みながらグリは柄にもなく願った。

強く強く強く…。

叶う訳ない。全ては自分が蒔いた種。そう涙を溢れさせていると、目の前にふわりと暖かな光の粒が現れた。

見たこともない現象だがグリはこの光をよく知っている。



「………フォン。」



魔力だけとなったもう一人の片割れの少女の名前を呼ぶ。

あぁ…そうだ。ボク達は二人で一人の同一人物。考えている事など同じのようだ。

グリはそっとその光を手に取り抱くように自身の中に取り込む。



「…お願いフォン。力を貸して。」



その言葉に応えるように光はグリを包み込むくらい強くなる。

彼の頭の中にフォンの記憶が混濁する。


それとは別に知り得ない記憶も…。元々あったグリフォンとしての継承されるべき記憶だろうか。

どちらでもいい。シズカを救える力が手に入るなら…。


グリの記憶とフォンの記憶とグリフォンとしての記憶…。この三つが混ざり溶ける時、彼らの中に異変が起こるのだった…。




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