第3話

なんだよこれ、恋愛小説かよ。運命の出会いみたいな感じになっちゃってるじゃん。

「チヨ、良かった。探したんだよ?それに……誰、この人。」

「探したのは私の方。へーすけ、毎回迷子になる。この人は」

「俺は瀬戸明臣です。チヨちゃんから話は聞いてます、へーすけ……さん。」

「急に敬語?気持ち悪い。」

「年上には敬語に決まってんだろ。」

へーすけに聞こえないようにコソッと言う。

「僕は高橋平祐です。敬語じゃなくてもいいですよ。歳は気にしませんので。」

聞こえていたらしい。敬語じゃなくてもいいと言う割にはあっちは敬語を使うんだな。

「へーすけは耳が良いんだよ。その代わり……」

「片目が見えない、そうだろ。」

びっくりした目でこちらを見てくる。とても本物の目に似ているが義眼なのか、少し目の動きがおかしい。今の医療技術でここまでできるとは、作った人はなかなかのやり手だ。

「そうなんです。よく分かりましたね。初めてです、分かった人。良い目をお持ちなんですね。」

目が見えない人にそう言われると、何故か怖い。抉られそうだ。

「それはそうと、平祐に聞きたいことがあるんだが。」

「なんですか?」

何から聞けばいいのか。聞きたいことは沢山あった。

「道場に通っていたらしいな。先生は邏卒……そしてあの台詞。先生の名前を教えてほしい。あと、良かったら手合わせして貰いたい。」

「手合わせ?良いですけど僕は弱いですよ。剣の才能がまるっきりないんです。先生……あ、坂本東馬っていうんですけど、坂本先生に一回も一本とったことないんです。」

坂本東馬……

こいつら……舐めてんのか。

「馬鹿言うな。一人でもせめぇのに。」

「良いの?へーすけを逃がして。明臣にも目的ができたはず。」

「目的……。」

確かに、俺は坂本を探し出し、もう一回手合いをしたい。そして、あの時の”答え”を出したい。そのためにも平祐は必要だ。だが、そこまで固執する必要もない。平祐にも、坂本にも。

「はぁ、少し考えさせろ。俺にも仕事があんだよ。俺が仕事の間は隣の店行っとけ。」

隣の店とは長い付き合いだ。といっても、あっちは老舗店舗。俺が店を始めた頃から世話になっていた。

「分かった。」

「良い返事を期待してます。」

ちゃんと行ったのか外に出て確認する。ふと上を見上げると、淡い光に包まれる綺麗な三日月が出ていた。

少し休んでから店を開けよう。


やっと静かになった店の中で一息つく。

こう思うと、最近は楽しくなかった。何もなかった。朝に飲む酒も、昼に飲む酒も、夜に飲む酒も、今となっては味気ないものだった。水のように飲んでは寝て、飲んでは寝ての繰り返し。価値はない。価値なんてあるとは最初から思ってない。この楽しくない日々を紛らわせるために飲んでいた。

今日はどうだ、今はどうだ。

笑えないことの連続ではあった。だが、今までより数段。

「……楽しかった。」

ぽつりとつぶやく。少し照れくさくて笑ってしまう。

まだ、笑えるんじゃねぇか、俺。嘘なんてつかなくても。

気分は上々。いつもよりコンディションも良い。

店、開くか。

「よし!!」

先程よりも百倍ほど大きな声で気持ちを張る。


瀬戸明臣、十九歳。職業ホスト。公にはただの居酒屋で外装もちんけな看板ただ一つ。作り笑顔に酒に甘い言葉で女を魅了する、知る人ぞ知る遊び場だ。

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