第23話 いいざまじゃねえかクソザコォ
魔物が密集していれば道を迂回、単独ならばクレアの奇襲で排除といった具合に、可能な限り戦闘を避けつつ、ダンジョンコアへ向かっていく。
地図と比べて地形は若干変化していたが、まだ道が変わったり塞がれたりするほどではなかった。
やがて、避けようのない魔物の群れを撃破して進むと、ひときわ広い部屋に辿り着く。
部屋の中心には一本の柱。そこに光沢のある紅い球体が収められている。それがダンジョンコアだ。
「へええ、あれがダンジョンのコアなんスね。なんかでっかい宝石みたいな――」
とレベッカが一歩近づいた瞬間、コアに異変が起こった。
にょきにょきと触手が生え出てきたのだ。その触手の先端には目玉と思わしき器官があり、じっとりとレベッカを見つめる。
「――ひぇっ、怖ぁ! 全然、宝石みたいじゃなかったッス! 魔法生物の一種って言ってましたけど、ダンジョンコアってマジで生モノなんスねっ!?」
おれはクレアと目配せをする。クレアもおれと同じ意見らしく、ただ頷く。
「いやこんなの知らない。見たことも聞いたこともない」
このおれが、だ。世界中を見て回り、あらゆる魔物と対峙してきたつもりのおれだったが、まだ知らないモノに出会えるとは。
なんか嬉しい。新鮮な驚きに、感動してしまう。
よく見れば、その触手はダンジョンコアに根を張るように寄生している。このダンジョンの異変は、この寄生体によって引き起こされたと考えていいだろう。
しかし、いったいどこから来た? そして、急激にダンジョンレベルを上げたその力の正体は? なんなんだこの物体は?
「じっくり観察したいところだけど――」
「笑ってる場合じゃないでしょ。そろそろ来るよ……ッ!」
おっと、注意されてしまうほど笑ってしまっていたか。
クレアはコアを見据えて身構える。
コアの柱は震えるように蠢く。柱の下側に切れ目が走り、そこから吐き出されるように、人型の魔物がずるりと生み出される。
角と牙を持ち、前腕から鋭い刃が生えている。人型というより、魔獣を二足歩行させたといったほうがより近い。
ダンジョンコアが、自身を守らせるために生み出す魔物――ガーディアンだ。大抵は、そのダンジョンで徘徊している魔物の、1~2ランク上の魔物が出現する。より高レベルダンジョンで徘徊している、見慣れた魔物であるはずなのだ。なのに。
「このガーディアンも、見たことない……」
クレアの緊張の言葉には、おれも同意見だ。
いや、しかし、なにか既視感がある。似た雰囲気のものを、おれは知っている?
悠長に思い出している暇はなかった。ガーディアンが動き出す。腕を振り上げ、狙うのは――。
「レベッカ! 危ない!」
最もコアに近い位置で立ちすくんでいたレベッカが襲われた。
「うぁああ!?」
咄嗟に防御姿勢を取ったレベッカだが、ガーディアンの一撃にふっ飛ばされて壁に激突する。
「あ……っ、ぐ、ぅ……っ」
レベッカは失神寸前だ。防御した腕は深く切り裂かれ、出血がひどい。
体力:Aのレベッカだからこそ死なずに済んだと言える。おれやクレアでは、レベッカのように攻撃を喰らったらまず即死だろう。
「くっ!」
クレアはレベッカを一瞥して生存を確認すると、すぐ反撃に出た。ガーディアンではなく、ダンジョンコアに向けてナイフを投げる。見事な4連続の投擲だ。
救助より攻撃。いい判断だ。ダンジョンコアを先に破壊できれば、ガーディアンは消滅するか、少なくとも弱体化する。ダンジョン攻略のセオリだー。
しかしガーディアンは、それらを前腕の刃ですべて叩き落とす。
さらにクレアへ肉薄。クレアはガーディアンの連撃を回避し続けるが、反撃の余裕がない。徐々に壁際に追い詰められていく。
そうなると予測していたおれは、あえてクレアに背を向けてダンジョンコアへ走っていた。
手には爆薬。普通のコアなら、爆破できるだけの威力はあるはずだ。
背後から凄まじい速度で足音が追ってくる。ガーディアンがクレアへの攻撃を止め、おれに狙いを変えたのだ。
それも予測済み。
おれは振り返り、不意打ちで火をつけた爆薬を放る。ちょうど、ガーディアンの顔が突っ込んでくる軌道だ。
即座におれは防御姿勢。爆発。ガーディアンには直撃。
爆風にふっ飛ばされ、おれは地面を転がった。痛い、痛い、痛い! 右半身全体が激痛に包まれている。原因はきっと右腕だ。やばい折れ方をしてしまっている。他にも、あちこちで出血や火傷、骨折もあるだろうが、それが判別できないくらいに強烈な痛みだ。
爆発からはそこそこ距離があったはずだけど、甘かった。この体では、もっと距離を取らないとひどい怪我をする。うん、覚えた。次に活かそう。
それよりガーディアンは? ほぼゼロ距離で爆発を受けたはずだが?
爆煙の中で、ふらりと影が立ち上がる。こちらへ向かってくる。ガーディアンは、ダメージは見られるものの、まだまだ健在といった様子だった。
急所であろう顔面に直撃させたのだけどなぁ……。
まあいい。ダメージがあったんだ。さあ、次の手を繰り出そう。打てる手ならまだまだある。いずれは倒せるさ。
にやり、と笑えてくるが、全身の激痛ですぐには身動きが取れない。
そんなおれに、ガーディアンは遠慮なく迫ってくる。
クレアがガーディアンの行く手を阻もうと立ち塞がるが、どれほど耐えてくれるものか。
おれは歯を食いしばり、必死に立ち上がる。だがすぐ膝をついてしまう。痛い。熱い。そして苦しい。
あれ? これはちょっとまずいか……?
そう思いかけたときだった。
「へへへ、ヒャハハハハ!」
聞き覚えのある下卑た笑い声が聞こえてきた。
「いいざまじゃねえかクソザコォ……。んだよ、オレが来るまでもなかったじゃねえか、死にかけてやがる! ククッ、ヒャッハッハッハッ!」
レイフだ。魔物たちを強引に斬り伏せてきたのか、全身に返り血を浴びている。
「レイフ……? なんでここに」
「アァ!? レイフさんだろうがァ!」
「ぐっ、がっ」
いきなり蹴り上げられ、思わず意識が飛びかける。ここで気を失ったら、本当にまずいのに。
「けっ、このままほっといても全滅だろうが……せっかく来たんだからなァ! てめえはオレがぶっ殺しておいてやるよォ!」
レイフは剣を鞘から抜き、振り上げる。
だがその瞬間、ガーディアンがレイフに突っ込んできた。
「うおっ、なんだコイツ!?」
ガーディアンは、レイフの抜剣にダンジョンコアへの脅威を察知したのだ。
レイフにその気が無かったとしても。
「邪魔すんなクソがッ! てめえから片付けてやる!」
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※
次回、ガーディアンと戦うレイフは劣勢に陥ります。ですが、その隙に観察していたエリオットは確信を得て、レイフに指示。それによって徐々に押し返していくレイフですが、それは彼のプライドを著しく傷つけることになってしまいます。
『第24話 てめえもオレをバカにしやがるのかよォ!』
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