BADEND後の聖女様や悪役令嬢を皆救おうとしないのでモブ皇女の私が拾い上げますが宜しくて?
肇真 りか
モブ皇女と多数の物語
第一話:物語の傍観者は、傍観をやめた
この世界に転生してから、私はずっと静かに物語を見ていた。
――アルメリア帝国第二皇女、フェサリア・ローズ・アルメリア。
大国に生まれながらも、物語の中心からは遠い存在。ただの背景、つまり“モブ皇女”である。
だが、それがどうしたというのだ。私はこの物語が、誰よりも、いや誰よりも――大好きなのだから。
もとは日本で暮らしていた、いわゆる「乙女ゲーム」や「異世界ファンタジー」が大好きな少女だった私。
ある日、不慮の事故で命を落とし、気づけばこの世界に転生していた。
目覚めた瞬間、私はすぐに悟った。この世界が、自分が何度も繰り返し読み込んだ『千の物語の記憶』の融合体であることに。
たとえば“剣の聖王子”や“氷の悪役令嬢”、“運命を覆す転生伯爵令嬢”……そんな登場人物たちが、さまざまな設定と背景を引き連れて、この世界で生きているのだ。
そして、私の推し――いや、最推しは彼女だった。
「……シェリル・アーカス、か」
金の巻き毛に澄んだ水色の瞳、どこまでも清らかで、強く、優しい聖女。
“聖女シェリル”は、本来ならば誰からも愛され、選ばれ、幸せになるべき存在。
だが、この世界では彼女は――BADENDを迎えるヒロインだった。
理由は簡単。
この物語世界は、複数のシナリオが混ざり合っている。
しかも、一部の転生者がこの世界に紛れ込み、自らの知識チートで本来の筋書きをぶち壊していたのだ。
その中でも特に悪質だったのが、転生モブ令嬢ことリーナ・フロイライン。
彼女は己の欲望のままにシナリオをねじ曲げ、シェリルを“偽聖女”として断罪し、あろうことか冒険パーティの囮に使って捨て去った。
結果、シェリルは――魔獣に喰われて死ぬ。
……それが、原作知識を持つ私の知るBADEND。
「――ふざけるな、ってのよ」
その瞬間、私は決めた。
モブ? それが何だ。
皇女? だから何?
この世界で好き勝手やってる転生者たちよ、あんたたちに渡すものなんて一つもない。
私が拾う。
私が助ける。
私が、幸せにしてやる。
◆ ◆ ◆
「……あなた、誰?」
血まみれで倒れた少女は、命の灯が消えかけた状態で私を見上げた。
それでも、その瞳は濁っていなかった。
場所は帝国の辺境、ディアザック森の最深部。
魔獣が巣食うこの地で、私は彼女を探し続けて、ようやく見つけた。
「フェサリアよ。アルメリア帝国第二皇女」
「皇女……様? どうして、こんな所に……」
「うるさい。しゃべらないで。今、治すから」
私の手のひらに雷が集まり、空間がきらめいた。
「《雷界転送(サンダー・ゲート)》」
雷の奔流と共に、私たちは帝都の治癒殿へ転移した。
空間魔法と雷魔法――どちらも扱える魔道士は、歴史の中でも私ひとり。
だから、誰にも真似できないことをしてやる。
誰にも救えなかった少女を――この私が、救ってやる。
「あなた……なぜ私を?」
「うるさいって言ってるでしょ。今は生きることだけ考えて」
布団に横たわるシェリルは、やつれながらも静かに微笑んだ。
「でも、ありがとう。……フェサリア様」
「……ふん。お礼は、元気になってから受け取るわ」
私はベッドの傍らに腰掛けて、手を握った。
「それと、もう一つ言っておくわ」
「はい……?」
「あなたは、もう“捨てられたヒロイン”じゃない」
私は彼女の目をまっすぐに見据えた。
「これからは、私の物語のヒロインよ」
彼女の頬がほんのり赤くなり、小さく頷いた。
――物語を狂わせた者たちよ。震えて待っていなさい。
モブ皇女? その通り。
でも、私はこの世界で一番物語を愛するモブなんだから。
そしてその物語の続きを、私はこれから書き換える。
BADENDを、幸せな結末へと――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます