第42話 ハッピーバースデー
忘れてしまわないように、書き記しておこう。
喜びも、悲しみも。あの夏の出来事を。
8月28日。世は17歳になった。この日のために春近と夏生、世は夏休みの宿題を終わらせて、余裕のある心持ちで当日を迎えた。
「世、誕生日おめでとう!!」
春近と夏生の祝福の声とクラッカーの小気味の良い音で幕を開けて、その中心に恥ずかしそうにはにかむ世がいた。
場所は左方家の夏生の部屋。壁は大量の折り紙の鎖や風船で飾られて、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのように賑やかで華やかだった。テーブルの上にはコンビニのからあげ、お菓子とジュースが並び、各自でつまめるようになっている。
「すごいね。飾り付け、頑張ってくれたんだね。嬉しい。」
「ああ、秋生も手伝ってくれたんだよ。」
「秋生ちゃんも?」
後でお礼を言うことを忘れないようにしなくては、と世は思う。
「おーい、二人とも!こっち向いてみ!」
朗らかに声を掛けられ、春近の方を見ると彼はスマートホンのレンズを二人に向けていた。
ピースサインを作ると、シャッターを切られる。
「チカ、俺も撮りたいから世と並んで。」
「いえーい!」
幼なじみコンビの息の合った変顔に、笑いが零れた。楽しくて、楽しくて時間が止まればいいと思った。
「そうだ、夏生。あれ、準備できてる?」
春近が思い出したかのように、夏生に尋ねる。
「おー。できてる、できてる。」
「? 何?」
オレンジジュースを片手に世が首を傾げていると、夏生がタブレットパソコンを取り出してきた。電源ボタンを押し、画面を操作して世に向けて見せる。
軽やかな音楽と共に始まったのは、動画だった。
『ハッピーバースデー、世!』
そこに映っていたのは、世と仲の良い友人たち。テロップまでつけられて、まるで番組のような出来だ。
「え、すご!これ、わざわざ撮ってくれたの?」
感激する世に、男子二人は満足げに胸を張る。
「企画と撮影は俺で、編集が夏生。俺、パソコン苦手だから助かったー。」
「春近がカメラマンしてくれたから、皆の笑顔を引き出せたんだよ。」
ハイタッチをしながら互いを叩いあう様子に、世の胸があたたかな感情でいっぱいになった。
友人は女子だけでなく男子にも至り、世が所属する放送部の部活の後輩や先輩もコメントを寄せてくれていた。
『えー、二年三組の水都 世さん。お誕生日、おめでとうございます。』
そう言って現れたのは、ピースサインをする白髪交じりで恰幅の良い男性。
「ちょっと!校長先生にまで、頼んだの!?」
それは、三人が通う高校の好調だった。
「あ、そうそう。撮影してたら、丁度通りかかったんでお願いしたんだ。」
「結構ノリノリだったって聞いたけど?」
夏生が笑いを堪えながら、春近に問う。
「いくつか違うパターンも撮らせてくれた~。」
学校の最高責任者にもなると器が違う、と言って春近は頷いた。
次は各自家庭の家族たちが世を祝う動画に切り替わる。
『世ちゃーん、いつも息子と仲良くしてくれてありがとー!』
春近と夏生の両親の言葉、そして秋生に至っては彼女の趣味だというギターを披露してくれる。
たくさんの人たちが、世の生誕を祝福した動画だった。最後に、春近と夏生が画面に出てきた。
『はい、と言うわけで、世の誕生日です。めでたい!』
『あとは、直接言いなー。当日の俺たち。』
二人が肩を組み、手を振って動画が終わった。
数秒の沈黙が流れ、口火を切ったのは春近だった。
「えーと…。改めて、誕生日おめでとう。これからもよろしく!」
「おめでとう、世。これからの一年、楽しい日々にしよう。まずは夏休み明けの修学旅行、たくさん思い出を作ろう。」
あたたかな感情は溢れ、涙となって零れ出す。
「ありがとう~…、二人とも…。めっちゃ嬉しいー。」
世は両手を拝むように合わせて、口元を覆う。
「やだ、メイク落ちる…。」
「落ちてもいーじゃん。そんな変わらんよ。」
「チカ、それってフォローなのか?」
その後、秋生もパーティーに呼び、動画で披露してくれたギターを生演奏でリクエストした。
「まだ、そんなにうまくないよ。」
そんな断りを入れつつも、彼女の演奏は板についていた。沢山、練習をしているのがわかる演奏だった。
「おっと。電話。ちょっとごめん。」
春近のスマートホンに着信が入り、席を立つ。
「どうした?」
戻ってきた春近に、夏生が聞く。
「ふっふっふ。パーティーのメイン、誕生日ケーキが出来上がったから取りに来てくれって。」
それは駅前にできた洋菓子店からの電話だった。
「なんか、材料の調達に時間かかったらしいんだ。よかったー、今日中に間に合って!」
「ケーキも用意してくれたの。」
「すごーい!春近くん、人気のお店じゃん。そこ。」
甘いものが大好きな女子二人が目を輝かせる。
「今から行ってくる。待ってて。」
春近がキャップをかぶり、ボディバッグを肩からかけて出かける準備をする。
「母さんに、車出してもらおうか?」
夏生の申し出を、春近は断った。
「大丈夫!すぐ戻るからさ。行ってきまーす!!」
そう言って、春近は元気よく部屋を出て行った。
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