第29話 何気ない会話
「散らかってるけど。」
常套句を口にしながら、夏生は自室の扉を開ける。
部屋は言うほど散らかっておらず、飲みかけのペットボトルや雑誌が小さなテーブルに積まれているぐらいだった。ベッド、勉強机、本棚の隣にあるカラーボックスには見慣れないものがあった。
「夏生、これは何?」
「んー?」
世が尋ねると、ああ、と夏生は頷く。
「この前に話した、レジンを作る道具だよ。」
LEDライト、シリコンモールド、紙やすりや調色パレットなど説明されてもわからないものばかりで、世は知的好奇心を刺激されてわくわくした。
「これで、あのキーホルダーを作ってるんだね。」
「キーホルダー?」
春近が早々にベッドを占領しながら、首を傾げる。
「ほら、夏生のリュックに下がってるやつだよ。」
世が言うと、春近は思い出したようだった。
「夏生、器用だよな。俺には向かないと思うー。」
「春近は不器用だからなあ。」
春近の図工や美術の作品を思い出して、世は笑う。それに対して春近は、まあね、と何故か自慢げに胸を張った。
「それなりに形にはなると思うけど…、そんなに不器用なん?」
夏生が問う。
「そうだね、覚醒前のピカソと言われたのはこの俺である。」
「補足すると、覚醒前なのにピカソの集大成って感じだよね。」
うんうんと頷きあう幼なじみたちを見て、夏生はふはっと吹き出してしまう。。
「それは衝撃と言うか、壮絶と言うか。見てみたいな。あ、だから美術の選択は音楽なんだ。」
三人の通う高校の美術は選択科目で、デッサン、書道、音楽がある。
「まあね。時代が俺に追いつかないからさ。」
「壮大な話になってきたけど、消去法なだけでしょ?」
世が突っ込みを入れると、春近はバレたかと舌を出した。
「デッサンは問題外だし、書道ってタイプじゃないしなー。」
「チカは音楽の成績良いよな。歌のテストとか積極的だし。」
夏生が心底尊敬するように、言う。
「カラオケみたいなもんじゃん?」
「カラオケ自体、あまり得意じゃない身からしたらすげーわ。」
「夏生、カラオケ苦手なの?」
「そう。だから今日、クラスの打ち上げがカラオケって聞いたときどうしようかと思った。」
夏生が困ったように、眉根を下げる。それに対して、春近が豪快に笑う。
「俺に感謝しろよ、夏生!」
「はいはい。感謝、感謝。」
「繰り返すとありがたみないぞー。」
それからも買ってきたお菓子の封を開け、意味のない会話を楽しんだ。一時間ほど経ったころ、世はお手洗いに立つ。
「階段下りて、右側。扉にプレートかかってるから、すぐわかると思う。」
「ありがとう。」
夏生からの教えを頭の中で復唱しながら、階段を下る。そして最後の一段を降りた先に、秋生の姿を見つけた。
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