第10話 裏ボス達
「…………」
城門前にやってきた俺達3人は重い空気に包まれていた。
「ここから出せ! 出せって言ってるだろ!」
紅髪の女の子が鉄でできた牢に体当たりをしているが、周りにいた騎士はいないものとして扱っているのだ。
「おい! お前達、何故見て見ぬふりをしているんだ! 彼女を止めないか!」
1番最初に動いたのはウィリアムだった。
「団長……お言葉ですが、コレは
「お前達……もういい下がっていろ」
「はっ」
何かいいたげなウィリアムだったが、それを飲み込んで部下達に指示を飛ばす。
どうやら俺が思っていたよりも忌み子への差別意識は根深いようだ。
「ケインさん申し訳ありません。私の不始末でこのような醜態を晒してしまい……」
「いや、いい……」
謝罪しようとするウィリアムを手で制して俺は牢屋の前に立つ。
「なんだお前!」
するとやはり、紅髪の女の子がつっかかってきた。
格子の隙間から出そうとしていて今、手を近づけたら確実に噛まれることになるだろう。
「俺はケイン。ケイン・ラードルフ……一応Aランクの冒険者で、お前達のことを引き取ろうと考えている」
膝を折って子供達の目を見る。
「アタシを引き取る? 勝手なことを言うな! アタシはお前なんかに育てられたくない!」
……話にならないな。いや、この子は俺と話をするつもりなんてないのだろう。
「あっそ……後ろの2人は?」
「……僕はここから出られるならなんでもいい」
目が隠れるくらい紫の髪を伸ばした男の子がぶっきらぼうにそう言った。
「ぼ、ボクは、その……」
そしてそれに続いてピンク髪の男の子? 女の子? がオドオドとした様子で口を開いたかと思ったがすぐにまた口を閉じてしまった。
「で、改めて聞くけどお前は?」
「ッペ! これが答えだ!」
このクソガキが唾吐いてきやがった。こっちが下手に出てやったら調子に乗りやがって……
「はーん。こんなことするんだー。うちの子になれば美味しいご飯が今すぐにでも食べられたのになぁ」
ローレライで頼んだ商品は戻ったら作ってもらう手筈になっている。
金なら余裕はあるし、子供達の胃袋なら好きなだけ食べさせてあげることもできるだろう。
「なっ!? アタシはお前みたいな汚い大人が大っ嫌いなんだ!」
「俺が汚い大人ねぇ〜、なんでそう思うんだ?」
「お前達大人は勝手にアタシ達を怖がってのけ者にしようとするからだ!」
まああそこまで差別されたら当然そう思うよなぁ。それにこれは自分を守る強がりの意味もあるのだろう。
でもそうだとしてもあの態度はいただけない。
「お前達って勝手に俺をそいつらの括りに入れるな。俺が最初からお前を仲間はずれにしようとしたか? お前が唾を吐きかけたから仲間はずれにしようとしたんだろ」
「そ、それは……」
「まあ俺もさっきのは大人気なかったと思うけどな。でもそうやって目に入るもん全部敵に回してたら、いつかお前の手を取ってくれる人がきた時にその手を薙ぎ払うことになっちまうぞ」
なんか説教くさくなってしまった。俺は人に説教できるだけの男じゃないのにな。
「……初めまして、私エルザ」
1人微妙な気持ちなっていると後ろにいたはずのエルザがいつのまにか横にいた。
「お前はソイツの横にいた……」
「うん……」
そしてエルザは俺の渡していた帽子をとった。
するとダークエルフ特有の尖った耳が露わになった。
「……その耳」
紅髪の女の子はなんとか言葉を絞り出した様子だ。
後ろの2人も息を呑んでいる。
ウィリアムは特に表情を崩していない。この様子じゃ気づいていたようだ。俺が伝えたのは物乞いをしていた子供を引き取ったってだけなんだけどな。
……流石原作キャラだ。
「お昼にも言ったけど、ケインはね……顔は怖いし、時々すごい悪い顔もするけど、多分いい人……出会って少ししか経ってないけど、そんな気がする」
「………………」
予想外の援護射撃に驚きつつも黙りこくった女の子に目を向ける。
「で、どうする? そこから出るか?」
「……出る……出るよ! でも勘違いするなよ! お前を信じたわけじゃないからな! アタシはアタシのためにお前についていくんだ!」
「それでいいよ。後ろの2人もそれでいいか?」
「あぁ」
「…………」
ピンク色の髪の子はこくこくと頷いている。
全員OKだな。
「よし、ウィリアム頼む」
「ありがとうございます。ケインさん」
「いや、当然のことをしただけだ」
全ては俺が死なない為ではあるけど、この子達に思うところがないわけではない。
この世界はあまりに差別が酷すぎる。日本じゃ考えられないほどにだ。だから考えさせられるものはある。
「ケインさん……貴方という人は……」
作中屈指のいい奴からの尊敬の念は嬉しいが後ろめたい気持ちのほうがでかくて素直に喜べない。
「早く子供達を出してやれ」
「分かりました!」
それからウィリアムは鍵を使って子供達を解放するのだった。
「これはアタシのだ!」
「違う僕のだ!」
「えっ……あっ、ボクの分が……」
「……うん。刺身、食べてよかった」
そしてあれからウィリアムと別れてローレライに戻ってきたのだが、すぐにカオスと化した。
備え付けの風呂に入れと言ったのに紅髪が断ってそれに続くように2人がテーブルに着いた。
そして料理が来たら全員が食べたいものを奪い合って後はご覧の通りだ。
「はあ、落ち着けお前ら……ご飯は逃げないんだからゆっくり食え。で、だ。そろそろ自己紹介しようぜ」
そう。俺達は自己紹介をまだしていないのだ。いや、正確には俺とエルザはしてる。けど、3人の名前を聞けてない。
「お前に教える名前なんてない!」
そして紅髪は期待通り反抗してくる。勿論悪い意味での期待だが……
「じゃあこれからお前のことをおいとかお前って呼ぶけどいいか?」
「……それはダメだ! 仕方ない一度しか言わないからよく聞くんだぞ! アタシは偉大なる龍人族の父様と優しい母様の娘! フレイだ!」
瞬間、周囲の目がこちらに釘付けになった子供が4人もいるということで、元から注目はされていたがその視線とは違う嫌悪の眼差しだ。
なるほど、これは最悪の気分だ。
「…………みんなも拍手しろ。自己紹介が終わったんだからな」
フレイは強がっているが、残りの3人は周囲の目に萎縮してしまっていた。
そんな中俺は1人だけ拍手をしたのだが、他の3人は下を向いたままだ。
「……うん、よろしくね」
そして次にエルザが拍手を残りの2人も続くように拍手をした。
「じゃあ次は……黒髪の方から言ってみるか」
ピンク髪の方はオドオドしていて、今は言えそうにない為先に黒髪に振った。
「……僕は悪魔の母親と人間の父親から生まれた。名前はアルス。お前達と仲良くする気はない。僕が生きるためにお前達を利用してやる」
アルスは問題児じゃないかと勝手に思っていたが、これはフレイと同じくらい……いや、それ以上に問題児かもしれない。
「お前に言われるまでもないわ! 誰がお前と仲良くするもんですか!」
「……ふん」
「何よ! 生意気ね、分からせてやるわ! ……放しなさいよ!」
アルスに飛びかかろうとするフレイを抑えるが力がかなり強い。表情には出さないが、かなり力を込めてやっと動きを止めれている。
「落ち着けフレイ。3人、いやエルザも含めて4人の状況を考えたらすぐに仲良くなるなんて無理な話だ。だから今はとりあえず拍手だけはしろ。フレイが自己紹介した時にアルスは拍手してくれただろ?」
今まで、エルザと一緒にいたせいで麻痺していたがこの子達の状況を考えるとこれが普通だ。
「よろしくね」
エルザが拍手を始めるとフレイの力は抜けた。俺もフレイから手を離して拍手をする。
するとフレイは渋々に、もう1人はオドオドしながら拍手をした。
「じゃあ次は……頼む」
ピンク髪の子と目があったので、頼むとオドオドしながら席を立った。
「……えっと、ボクは夢魔と人間の……ハーフです。名前はルカって言います。よろしく、お願いします……」
1番無難な自己紹介だ。
でもルカは自信がないのか目線を下げたり上げたりを繰り返している。
「よろしくね……」
エルザと俺がほぼ同時に拍手をして残る2人も続くように拍手をした。
「よし、じゃあエルザもう一回ちゃんと自己紹介しとくか」
「うん。……私はダークエルフのエルザ。みんなよりも1日早くケインと出会った。……よろしく」
全員が拍手を送る。
「最後に俺がケイン・ラードルフだ。引き取った以上は最後まで面倒見るつもりだからよろしくな」
俺の挨拶が終わるとちゃんと全員拍手してくれた。
よかった。エルザは心配してないけど、フレイなんかは反抗してくるかと思ったが素直に言いつけを守ってくれた。
それにしてもエルザ、フレイ、アルス、ルカかぁ。なんか『アルカディア』の裏ボスと同じ名前だな。
……あれ? 確か裏ボスってダークエルフのエルザが率いる
確か本編終了までで5年、それから裏ストーリークリアで2年だから今から7年後の話だよな。
「……………………」
それぞれの顔を見て7年後の姿を想像すると、なんとなく俺の知っている裏ボス達に似ている。というか同一人物だ。
主人公と裏ボス達は同じく社会から爪弾きにされたが、主人公達は社会を正そうと、裏ボス達は社会を壊そうとした。
同じ境遇なのに立場が違う。という対比の設定になっていた筈だ。
「………………」
そして俺のイレギュラー行動がなければエルザはアルカディアで物乞いのような真似をしていたし、3人は山賊に売られていた筈だ。
「………………」
「……どうしたの? ケイン……顔色悪い」
「だ、大丈夫だ」
大丈夫じゃない! やばいやばい! 俺が育てようとしてるの裏ボス達じゃねぇか!! チュートリアルボスが裏ボスを育てるってどういう状況だよ!!
俺は心の中で叫ぶが、その叫びは誰にも届かないのだった。
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