Part3

 それは宙へ浮かび、少し下を向いていた首が生きているように上を向く。それはそのままノートの方を見ると、なぜだかノートの激しさは減衰した。先程まで嵐が吹き荒れたように動いていたページが、今では力なく閉じていた。

 人形と対象の動きを同期させるのが、ルードの能力であった。

「ノート!一旦落ち着いて!私達は、無関係な人を殺す訳にはいかないの。だから事実確認をちゃんとさせて?」

 この事務所では、時に殺人を伴う仕事も舞い込んでくる。しかし、その時に依頼だからとバカスカ殺しまくってしまっては信条に反するし、何よりこちらも良い気はしない。だからこそ、徹底した事実確認の上で、対象のみを確実に殺す必要があった。ちなみに、未練の対象だったら殺すことに迷いは無い。それがいじめの主犯格なら尚のこと。ただそれをしっかり見分けたいというだけだ。

【一度ここを離れましょうか。少し注目も集まってしまったようですし】

 莉舞の言葉でノートも少し落ち着いたのか、ルードの能力を引っ込めても殺人に向かおうとはしなくなった。

 ビレテの言葉を聞いて教室を見てみると、金髪少女を中心に軽い騒ぎが起こっていた。授業中に突然うずくまって泣き出せば、当然のことだった。

 そしてあれを見るに、あの少女は周りにいじめを隠していたのだろう。

 その仮説と共に莉舞は学校を出て、次なる目的地をノートの自宅に定め、向かうのだった。

【何で私がこんな扱いに……!!アイツのせいだ……アイツの……!!】

 道中、ノートはそんなことを言っていた。

 まったく……もう一回ルードで抑えとくか……?

 まだまだ気性の荒いノートをみやり、莉舞はそんなことを考えつつ歩くのだった。



 しかし、金髪少女がいじめに加担していたという証拠は掴めずにいた。部屋にそもそも物があまり無く、境遇を綴った日記も、録音も何も無かった。

 結局4人は事務所に戻り、ノートには事務所で寝泊まりしてもらうことにした。

「ふーむ……なんだかなぁ……」

 残った3人は、事務所の1階で深夜まで話し合いを行っていた。

 まず、どうすればいじめの証拠を掴めるか。

 次に、それが見つからない場合にどうするか。

 中々直ぐに答えを出すのは難しい議題だった。

「でも、もうあの金髪少女で確定だとは思うがね」

【そうですが……でも、断定で動いてしまうのはマズいと思います】

「あそこまでの恨み。それに、殺人鬼は案外冷静だったりするものでしょ?」

 慎重派のビレテと、強行派の莉舞。久しぶりの対立だった。

「あの女は確実にクロだ。あの時はひとまず止めたけど……今考えれば、かなり証拠に近しいものはある」

【ほう?それは何でしょうか】

 ほんの少し苛立ちも混ぜた声で、ビレテは莉舞にそう問いかける。

 これに対する莉舞のアンサーは以下の通り。

 1、学校での調査で得たもの。

 学校にいた時、この案件に関して何か書類が無いかと、職員室も訪れていた。その中で見つけた、ある紙束。

『いじめに関する重大案件に関して』

 こうタイトルが付けられたそれは、ノートの自殺に関する調査結果等をまとめたものだった。余りに枚数が多かったものだから、細かいところまでは覚えてはいないし最後の方飛ばしちゃっていた気もしたが、記憶を頼りに主要な内容をまとめるとこうなる。

 ノート――恐らくあの紙の中で〈七瀬ななせ明香めいか〉と表記されていた人――と金髪少女の間では常日頃対立があった。しかしそれは対立というには余りに一方的で、明香は日常的な嫌がらせを受けていたと。

 2、金髪少女の身体について。

 あの時、金髪少女の身体を近くでまじまじと眺めていた。そこで気づいたのだが、あいつ、両手に傷が付いていた。調査記録には確か、具体的ないじめの内容として、絞首や身体へカッターを用いて傷をつけていた、などがあったはず。その際に抵抗に会い、爪とかで傷がついたっておかしくない。

「どう?こりゃもう明らかでしょうよ」

【しかし……そのいじめの記録にしても、相手の名前が匿名になっていますし。あの時名前を見ておくべきだった……】

 そうすればノートに聞いて事実確認が取れたんですが。

 高校生になると基本名札を付けないことを悔やみつつそう付け加えて、ビレテは口を噤んだ。

「私はこれで確定だと思ってる。そんなに気になるなら、明日また行って名前確認してくる?」

 あのいじめ記録は莉舞がビレテと別れて調査していた時に見つけたもので、莉舞はその場でいじめに関して確証を持ったため、その場で金髪少女の名前を調べるのを提案出来なかった。だからこそ、莉舞はビレテにそう提案する。

 まあどうせ事実は変わらんけど。

 心の中でそう言いつつの発言だった。

【それを受け入れない択はありません。ではまた明日……学校に向かいましょう】

 少しバチバチとした雰囲気の中で、事務所から漏れる光は消えた。

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