結婚するって本当ですか ~筋金入りのブラコン美女は自重なんて知りません~
音無 雪
その手に指輪を
良い天気に恵まれました。
色とりどりの花たちが咲き誇る我が家の庭
この日に合わせたかのよう咲いてくれました。
中央の芝生を囲むようにパーゴラやオベリスクが配置され、白や薄桃色の布で装飾されております。
布がそよ風に揺れており優しい空間でございますね。
本日は特別な日。この庭に集まったみなさんが笑顔でこちらを見つめております。
みなさん綺麗に着飾って華やかでございます。屋外でドレスを着ることはなかなか経験できないと思いますよ。
中には車いすに乗ったおばあさまも上品な着物姿でほほ笑んでおります。後ろにはおじいさまが寄り添い仲睦まじき姿でございます。
みなさん柔らかな笑顔でこちらを見つめております。
今から行われるのは結婚式
優しいまなざしを浴びた人前式でございます。
庭の奥に設置されているパーゴラ ここが舞台となります。
そして上段に立つのは聖女の姿をした私
ウエディングドレスではなく聖女のドレス……
残念ながら私は本日の主役ではございません。
白いスーツ姿の男性が緊張した面持ちで私の前にいらっしゃいます。
ヒールを履いた私が見上げてしまうほどに高い身長 角刈りにした黒い髪 筋肉質の厚い胸板が立派でございます。立っているだけで力強さを感じさせますが、まなざしはとても優しく人柄がにじみ出ているようです。
たとえるなら大樹 枝葉を伸ばし近くにいるものを雨風から守る優しい大樹
素敵な男性ですね。
さあ一生に一度の晴れ舞台です。厳粛に参りましょう。
「
「はい 誓います」
バリトンの太く低い声 迷うことのないはっきりとした言の葉が響きます。
素晴らしい宣誓でございます。
宣誓を受け、隣に目を移します。
一瞬で目を奪われる美女が佇んでおります。
乙女が憧れる白いドレスに身を包み、金色の糸を一緒に編み込まれたブラウンの髪が輝きます。小さな顔からはあどけなさを感じますが、ドレスを大きく押し上げる圧倒的なものをお持ちでございます。シミひとつない肌に艶のある唇 輝く瞳からは強い意志が伝わってまいります。
乙女が夢見るこの瞬間をついに迎えたのですね。乙女が最高の輝きを見せる式でございます。
「
「はい 誓います」
少し震えた涙声 感極まってしまったのでしょう。高まった感情がこちらまで伝わってきて声に詰まります。
いけません。大役を任されたのです。最後まで勤め上げなければいけません。
「指輪の交換を」
傍らに控えていた妹に目で合図をすると指輪を乗せた紫色のベルベットトレーを二人の間に差し出し腰を落とします。
今日の妹は聖女のドレスを纏い、私の補佐をしております。彼女も深くかかわった関係者の一人でございます。このふたりを結びつけるきっかけになった功労者と言ってもよろしいでしょう。
目の前に差し出されたトレーに載せられた台座から大きな手で指輪をつまむ樹さん 右手の甲には特徴的な傷の跡 勲章だと笑っていらっしゃいましたね。
おそるおそる聖奈さんの小さな手を取り指輪を薬指へ
細い指に輝く指輪は神々しさも感じます。聖奈さんはすこし手の甲を立て指輪を眺めながら嬉しいですよね。
今度は聖奈さんが台座から二回りほど大きな指輪を細い指で取り上げます。
そして樹さんの手を取り…… 樹さん緊張のせいか指が震えております。
力強さを体現したような殿方でもこのような場面では緊張なさるのですね。指先がブレているのでなかなか指輪が入りません。
そこで樹さんの手をがしっと握る聖奈さん ぐいっと力を込めて指輪をはめました。
一瞬ではございますが、おふたりの力関係を垣間見たような気がいたします。聖奈さん お強いのですね。
「それでは誓いの接吻を」
半歩前に出て樹さんを見上げる聖奈さん 身長差が際立ちます。
顎を上げてそっと目を閉じて待っている美女
現実味を感じられないほど美しいお姿に見惚れてしまいます。
輝くような美女の接吻待ちのお顔を前にしておりますが問題がございます。
まさに目の前で接吻を見る事に、いえ 見せつけられる私はどのような顔をすれば宜しいのでしょうか。社交界で培ったお嬢さまスキルを発動させて必死に平穏を保とうとしております。至近距離で究極の惚気です。
頑張れ私。なんとか耐えるのです。
美女の折れそうな腰にそっと手をまわして樹さんが寄り添います。かがむようにしてそっと落とすように重なる唇。美しいですね。とても絵になる一瞬でございます。
女性陣からは思わず洩れてしまったようなため息が聞こえます。そして暖かな拍手が響きます。
遠くからシャッターの音が連続して響きます。かすかにハミングバードのような羽音も聞こえます。撮影用小型ドローンが飛んでいるようですね。記録係のスタッフさんも全力で仕事をされております。想い出をたくさん残してあげてくださいな。
誓いの接吻が終わりましたら次は…… 終わったら……
接吻から離れようとした時、聖奈さんの細い腕が樹さんの首に絡みつきます。離してはもらえないようでございます。
あのぉ ここは情熱的な接吻ではなく適度に抑えていただけませんでしょうか。私の精神がそろそろ限界を迎えております。
お父さまが大きめの咳ばらいを一つ ようやく現実に戻っていらっしゃいました。次に進めてもよろしいですね。
「ここに婚姻が成立しました。集う皆さまが証人となります。このふたりに祝福を」
列席のみなさまから祝福の言の葉と花びらのシャワー
私はふたりに手のひらをかざし聖女として祝福します。 なんちゃって聖女ではございますが、心から幸せを祈りましょう。
隣では妹も腰を落とし、やわらかに手を組み祈りの姿勢 聖女姉妹からの祝福です。これが私たちの出来る精一杯の祝福でございます。幸せになってくださいね。
二人の未来に世界樹の加護がありますように
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます