3-25.人型機動兵器バレスタ
ドガッ!
ロックされて開かない扉を、玲於奈が力づくで壊す。
「この奥にあるはずよ、格納庫に繋がる非常用の竪坑が」
襲い来る警備ロボットの集団からどうにか逃れ、悠斗と玲於奈はここまでたどり着いた。そこは様々な備品が置かれた倉庫室。玲於奈は部屋の奥に進み、隅の床に手を付けた。
「ここに、確か――開いた!」
床の一部が四角に開き、下へと伸びる穴が現れる。
「行くわよ、悠斗。付いてきてよ!」
穴の中には簡素な梯子が伸びており、玲於奈はそこを降りていく。
「あ、待って」
悠斗もすぐにその竪坑へと入った。
人が丁度一人通れるほどの暗い穴を、ひたすら降りていく。長く垂直に伸びる梯子をどれくらい降りたのだろうか、梯子が途切れ、下へと降り立った先は、殺風景な金属で囲まれた小部屋だった。
「はぁ、やっと着いたの?」
「ええ、ここが目的地。バレスタの格納庫よ」
「バレスタ?」
「人型機動兵器――あんたの大好きなガンダムみたいなものよ」
「本当に!?」
「その扉の向こうが、格納庫よ」
悠斗が早足で扉に近づき、開ける。重い金属製の扉がゆっくりと開き、その先に広がっていたのは、広大な空間だった。天井の高さは、おそらく優に三十メートルはあろうかという巨大さ。
「あ、わぁ~、これが、バレスタかぁ!」
そこに並べられていたのは、まさに、悠斗がアニメで見ていた“巨大ロボット”だった。機体高はおおよそ十メートル程。黒を基調にした、いかにも兵器といったカラーリングだ。
「でも、ガンダムというより、ザク…いや、リックドムかなぁ……」
「ザクでも、リックドムでも、そんなのどうでもいいわ。とにかく、これで
「え、動かせるの、玲於奈!?」
「ふふん、当然よ」
「いいなぁ…。あ、それじゃあ、あの赤いのにしようよ。シャアみたいだ」
「ダメよ。あれは課長の専用機なんだから。あたしでは、動かせないわ」
「おお、やっぱ。赤は専用機なんだ……。三倍速いのかな?」
「ほら、行くわよ。誰も来ないうちに」
玲於奈が手近な機体へと向かう。整備アームに設置された階段を上り、コックピットのある胸部に向かう。悠斗はその後を追いながら、間近に見る本物の巨大ロボットを感慨深く眺めた。
「ああ、これ、動くんだよね、本当に……」
「当たり前でしょ」
言いながら玲於奈がコックピット横のパネルを操作して、ハッチを開く。
「早く中に入って! 時間がないわ!」
「あ、うん」
玲於奈に促され、悠斗はバレスタの中へと潜り込んだ。すぐに玲於奈も入ってくる。
「せ、狭いね、玲於奈」
「当然でしょ、一人乗りなんだから。――悠斗はシートの後ろね。背もたれに掴まるようにして、座るか立つかして」
「わかった」
玲於奈の言葉に素直に従う悠斗。その前で、玲於奈は起動の準備を忙しくしていた。
「ここのシステムは、正常に動くわ。大丈夫、いけそう……」
自身の認証コードを入力し、起動シーケンスを開始する。
コックピット内のスクリーンが点灯し、外部の様子を映し出す。パワーユニットの振動が微かに響き、コックピット内の緊張が高まった。
「もう動くの、玲於奈?」
「ええ、行くわよ」
ずん!
瞬時、大きな振動が伝わってくる。が、その後は、あまり揺れることはない。
「あれ、動いてるのこれ?」
「歩いてるわよ」
「え、そうなの――」
悠斗がシートの影から顔を出し、正面のモニターに目を向けた。確かに、風景が動いている。
「コックピットは揺れないように出来てるのよ。ガシャンガシャン、歩くたびに振動してたら、乗り物酔いしちゃうでしょ」
「そうなんだぁ」
「さて、誘導装置は動いてないから、手動でカタパルトデッキに出ないと……」
玲於奈は操縦桿を握り、足元のペダルを操作する。
鈍い音を響かせながら、格納庫内を巨体が進んでいく。
「勝手に動かしているのに、警告も出てないところを見ると、船内のシステムがまともに動いてないのは確かなようね」
「やっぱり、あのカエル男に乗っ取られてるのかな?」
「そうかもね。――カタパルトデッキに出るわよ」
格納庫の壁面までたどり着くと、そこにある巨大な二枚の金属製の扉を、横にある手動のレバーを操作して開く。油圧システムが音を立て、扉がゆっくりと開いていく。
開いた扉の向こうは、発進用のカタパルトが設置されていた。格納庫に繋がる扉を閉めると、玲於奈はバレスタをカタパルトへと載せる。
「射出システムは――これも、マニュアルでいくしかないか……。えっと、たしか、この横の操作ボタンを押して、それから、レバーを……」
「ねぇ、大丈夫、玲於奈?」
「うっさい、黙ってて! マニュアル発進は、訓練で一度やったきりなんだから!」
「え……」
(ねぇ、ヴァル、大丈夫かな?)
不安になった悠斗は思わず中の相棒に呼びかける。
(問題ない。見たところ、きちんとできてる。――万一の時は、俺様が手助けするさ)
(ヴァルも、動かせるの、このロボット?)
(もちろんだ。俺様を誰だと思っている。宇宙最強の兵器だぞ。こんな鉄人形、造作もない)
(そうなんだ。……じゃあ、本当に危なそうだったら、頼むよ)
(任せておけ!)
「悠斗、シートにしっかり掴まっていてね。射出の時は、少しGがかかるから」
「わかったよ」
言われた通り、悠斗は玲於奈の座るパイロットシートの背もたれをきつく抱きかかえた。
「行くわよ!」
カタパルトデッキの誘導ランプが輝く。まっすぐ伸びた先の、隔壁が開き、その先の宇宙がスクリーンに映し出された。
ピッ、ピッ、ピッ、ピィーッ!
巨大な機体が後方から猛烈に押される衝撃! コックピットにも加速Gが伝わってくる。
「わぁ、凄い!」
「しゃべらない。舌かむわよ!」
ズン!
腹の底から突き上げるような衝撃を受け、バレスタは船外へと飛び出した。
そこは、暗黒の宇宙空間だ!
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