第38話 勝負
「じゃあ、最初はロミオから……」
と、ノイファが言うと、レッドが遮った。
「まずは俺から行く」
「え、レッドさん、先行ですか?」
「ああ、こういうのは先に撃った方が勝ちだ」
「わ、分かりました。ではレッドさんから。よーい、スタート」
レッドは他の人には聞こえないくらい、唇を動かして数字を唱えている。そして、目を見開いた瞬間に大木の峰に撃つ。
ノイファは瞬間的にストップウォッチを止めた。
「待て、タイムは言うな。ロミオに勘くぐられるだろう」
レッドが焦ったように言うと、ノイファは、「確かにそうですね」と、言葉を返した。
「では、次、ロミオ。用意はいいか?」
ロミオはみんなが一斉に自分に集中しているのを感じた。フィールの方を見る。彼女は少し頷いている・。
「ああ」
ロミオが言うと、ノイファが「それじゃあ、行くぜ。スタート」
ロミオは心の中で数を数えていき、そして、十秒経つとともに拳銃のトリガーを引いた。
静まった夜中に幹へ実包が鳴る。
ノイファがすぐさまストップウォッチを止めると、そこには十秒十と記されていた。
ノイファの横にジュンがその表示を見て呟く。
「十秒十って、流石スナイパーね。やっぱりプロは違うわね」
「おい、俺のタイムはどれくらいだ?」
「レッドさんのは八秒です。つまり少し焦ってた可能性はあります」
「畜生!」
レッドはわざと地団駄を踏んだ。
ロミオは肩の荷が下りたと同時に、レッドがわざと俺たちに勝たせたのではないのかと疑った。
「しかし、どうやったら上手くなれるんだ。俺だってガキの頃からピストル握ってたけど、教えてくれないか?」
レッドはロミオに懇願すると、ノイファが言った。
「レッドさん。相手はファイナルブレイクに狙われる強者ですよ」
「だから、俺はファイナルブレイクとは離脱したって言ってるだろ」
と、二人の茶番劇の間にロミオはぽつりと言った。
「俺たちはファイナルブレイクには用はないんだ」
すると、二人は動きを止める。
「用はない? どこかに行くのか?」
「ああ、この場所から出る。お前たちもどうだ?」
ロミオは半ば彼らに情が湧いていた。
「どうします? レッドさん」
「お前はワクチンを手に入れて逃げられる。感染してる俺たちはそうはいかない」
「でも、そのワクチン五人分はあるんじゃないですか?」
フィールもどこか彼ら悪い人間ではないと判断したのか、思わず感情的になっていた。
すると、レッドは人差し指を振って、三回舌打ちをした。
「……お嬢ちゃん。俺たちはこの場所が好きなんだ。俺たちのやりたいことをさせてもらうぜ。おっと忘れてた。ほらよ」
と、レッドはワクチンの液体が入った小瓶をロミオに向かって高く投げた。
ロミオがキャッチすると、ジュンも「あと、これも必要でしょ」と、注射器をロミオに手渡した。
「あなたガタイがいいから、あたしのタイプだったけど残念ね。この際、マッチョな一般人でも襲おうかしら」
「それがいいぜ。俺もナイスバディの美女襲おうっと」
レッドとジュンは軽く言うが、内容は警察沙汰になるものだった。思わずフィールは苦笑いを見せていた。
「戦いは終わりだ。さっさと行きな。逃げるんだったら今のうちだぜ。この場所もファイナルブレイクに占拠されちまうし、俺たちは隠れなくちゃいけないんだからな」
「……わかった。行くぞフィール」
ロミオはボロボロになった車に乗り込んだ。
フィールもそれに続き、助手席に乗り込んだ。
「気を付けてね。お嬢ちゃん、あたしの男をよろしくね」
――別にお前の男じゃない。
ロミオは内心苛立ちながら、出発をした。
ジュンがロミオたちの車に手を振ると、思わずフィールもそれに答えるように手を振った。
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