Part7
「っ……面倒なやつ」
何だってこいつは私たちを襲う?私が魔族だと知っていたから?それともシーナに恨みがあったとか?ああもう分かんねぇ!
ひとまず今私が倒れるのはマズかった。魔王殺害の道半ばというのもそうだし、何よりシーナまで殺されてしまう。今はポーションを渡して離れてもらってはいるが、私に協力してるんだ。こいつはすぐに殺しにいくだろう。
ってか、コイツはいったい誰なんだ?
「なぁ、あんた名前は?名乗りもせずいきなり切りかかるとか、私よりも学がねぇんだな!」
単純に疑問を解消するという意味と、イラつきで判断を鈍らせるという意味の込めた言葉だった。後半に関しては効果を発揮できるか定かではないが。それに、そう言えば私も名乗っていなかったというのを遅れて思い出した。
「リール。単なる盗賊だよ」
魔法と魔法のぶつかり合いの中、そいつ――リールはそう名乗った。単なる盗賊とも言っていたが、なら余計に訳が分からない。盗賊とかの悪側の人間だったら、むしろ魔族は生かしときたいはず。いや、別に盗賊全員が人類滅亡を願ってるわけじゃないか……でも何で?何で私と全く関係の無い盗賊が殺しにかかってくる?
「じゃあもう一回聞く。お前は何で私を殺したいんだよ!理由を聞けば、譲歩する所もあるかもしれないだろ!」
実の所、譲歩なんて全く眼中に無かった。ここまで殺意を向けてくるような人間と、平和的に解決なんて出来るわけないと悟っていたからだ。
「……生きるためだよ。お前みたいな奴がいると、私はいつか死んじまうんだよ!!」
「はぁ……?」
あいつの言っている言葉が、全くもって理解出来なかった。私の存在がこいつの生死に直結するだと?
今までの行動を振り返ってみても、盗賊に関わったことはおろか、人間の死の手助けなんざ全くもって記憶になかった。
「とにかく、邪魔しないでくれ。私だって……ここで死ねない理由があんだよ!!」
こんな訳の分からんやつに殺されて死ぬなんざごめんだ。まだあいつに伝えてない。人間は綺麗で、優しいんだって。真に悪と呼ばれるべきは――お前らだってッ!!
「ぐっ……っ……!クソがッ!!」
決死の思いも込めて放った魔法は、確かにリールの身体に傷を刻んでいた。脇腹の肉を牙で抉り、両腕に少なくとも2、3発は雷を通した。それでもそいつは抵抗する気力を残しているようで、私の心臓目掛けてあの蛇みたいな剣先を伸ばしてきた。
でも、それもこれも想定済みだった。
虚空より取り出した短剣で、その剣先を弾き飛ばす。
僅かに隙が生じた。
目を丸くして、呆気にとられていた。
僅少ながらも、それは魔法を撃ち込むのに十分だった。右手をかざし、意識を集中させる。思えば、あの襲撃を追い返したのもこれだった。
右腕を肩まで覆うように走った紫雷は、暗夜の中を一心に駆け巡った。
「っ……面倒なやつ」
件の魔法使い――確かシーナは〈リーリィ〉と呼んでいたか――は、そんなセリフをこちらに吐いた。面倒な奴だと?私を死に追いやる悪魔の癖して。ふざけんな。
こんな言葉達は、的外れだと自分でも分かっている。
リーリィを殺したいのは私の私情だ。他人にこの気持ちを話したって納得してもらえるとは到底思えないし、自分自身でもおかしいとは思う。
でも、事実だから仕方がない。
自らの信念と感情の折り合いをつけるには、彼女を殺す他の無いのである。かつて英雄と評された者の杖をしかと握り、リーリィへ茨を伸ばす。盗賊生活の末に導き出した魔法だった。
というか、こいつ面倒だな。
剣先を伸ばして毒を入れる隙がない。魔法を避けて撃ち返すので精一杯だ。さっきの手下っぽい女はすぐに入れれたのに……てかそいつも回復されてるし。クソが。
正直、事前に考えた作戦はぐちゃぐちゃだった。
「なぁ、あんた名前は?名乗りもせずいきなり切りかかるとか、私よりも学がねぇんだな!」
リーリィは、再びそんな言葉を吐いてきた。ちょっとムカついたが、一度冷静に自分を客観視する。戦場における怒りは避けるに超したことはない。怒りは判断を鈍らせ、一気に自身を死へ導く。これも盗賊生活の中で知ったことだった。
「リール。単なる盗賊だよ」
なるべく平坦な声で、そう答えた。迫り来る牙を茨で受け止めながら、打開のチャンスを探る。
「じゃあもう一回聞く。お前は何で私を殺したいんだよ!理由を聞けば、譲歩する所もあるかもしれないだろ!」
そんな時に言われたのが、この言葉だった。何故私がリーリィを殺したいのか。と。そんなの決まっている。お前をそのまま生かせば、私が殺す冒険者がいなくなる未来に繋がっちまうからだ。でも、それを事細かに話すのは面倒だった。それに、さっきあんだけアンガーマネジメントの重要性を説いといて言うのもあれだが、ちょっとイラついて文構成を考える余裕が無くなっていた。
譲歩、だなんてお前が言うなよ。私のことを死に追いやり、そのくせ呑気に暮らしてるお前が……!
「……生きるためだよ。お前みたいな奴がいると、私はいつか死んじまうんだよ!!」
到底、理解し難い言葉だったろうなと思った。だから、「はぁ……?」なんて返答が返ってきても疑問は抱かなかった。
「とにかく、邪魔しないでくれ。私だって……ここで死ねない理由があんだよ!!」
すると、リーリィは魔法の勢いを強めた。より狂気的な密度の牙が辺りを囲み、逃げ場を奪う。その中で地中より這い出た牙が、右の脇腹を抉った。
額の端から汗が垂れた。
それでも未だ生存の機会はあると持ち直し、なんとか炎でその牙城を破る。しかし、今度はその様を嘲笑うように虚空より刃が降り注いだ。それと共に最初にも見た紫雷が駆け巡る。かなりの密度で放たれた魔法の数々、しかし、背中の剣先を通すだけのスペースは生まれた。
「ぐっ……っ……!クソがッ!!」
そんなダサい苦しみ声と共に、なんとか剣先を地に這わせるように伸ばした。
私は、生きたいんだ。お前にだって理由があるのは分かってる。でも、それでもッ!!
私は、生きたいんだッ!!!!!
決意と共に、神速で剣先を放った。
それが、最期の抵抗だった。
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