星夜に散った箒星

ʚ傷心なうɞ

Part1

(ああぁぁぁぁ……眠っ…)

 講義室後方、入口から最短距離の席。

 それは、毎日遅刻寸前に大学の門をくぐる俺――三水みすい太陽たいようの特等席だ。

 典型的なカス大学生?ノンノン何をおっしゃい。

 別に寝坊してる訳では無い。限りある時間を最も効率的に使う方法を考えた上での行動だ。朝は何なら早めに起き、その分の時間で自己研鑽に励む。ああ、なんて効率的……!

(とか言いたかったなぁ……)

 まあ、実際そんな訳が無い。一限がある日は毎日寝坊してる。二限でもギリなのに無理でしょ?あんなの人間のやることじゃない。

 しかしながら、どんな人間にだって人生のピークは存在する。モテ期だったり、何かしらの大きな仕事を成功させたり。俺の場合、多分それは小学生の頃だろう。足速かったし、友達多かったし、好きな人もいたし。それはそれは充実した人生だった。

(星奈せな……今何やってんだろ)

 美彗みすい星奈せな。不意に思い出した、かつて恋心を抱いた人の名前。小学校に入学してすぐ、名前の発音が同じ『みすい』というだけで仲良くなった少女だった。その後もずっと友達の関係は続いていたのだが、小学6年生の時。彼女の父親の仕事の都合で、彼女は東京へと引っ越してしまった。その時、初めて誰かを想った涙を流した気がする。

 彼女が引っ越す前日は確か、箒星が観測できた日だったか。当時の自分はそれに惹かれてしまった。まるでそれが彼女そのものであるかのように。

 でも実際、彼女は箒星みたいな人だった。不意に目の前に現れて、すぐに見えなくなってしまう。その伸びた尾は何処までも美しく、儚い。

 きっと俺は、彼女に恋をしていたのだ。同時に、彼女も俺を好いていたと思う。まあこれは俺の希望が9割なのだが。精々証拠として挙げられるのは、下校の途中まで手を繋いで帰っていたことぐらいなもんで。

 今思えば、結構凄いことしてたなぁ……あん時の俺。


 今日の講義は、ずっとそんなことが頭に浮かんでいた。



「疲れたぁ……」

 別に講義に集中していた訳でも無いのだが、今日はフルで埋まっている日ということもあってか、家に帰った瞬間にとんでもない疲労がのしかかった。

「あ、何か来てる……」

 そんな折、スマホの通知に目がいった。

 通知は誰かからのメッセージだった。

『もうそろ講義終わった?』

 すかさず返信を打ち込む。

『もう家いる。今やる?』

『おうよ、ボコしてやんぜ』

 あちらからもまた、すぐに返事が来た。

 この会話の相手の名は、『Comet☆ミ』と表示されている。箒星の上に乗っかった狼のイラストがアイコンだった。正直そのセンスはよく分からないが、どうやら彼女自身が描いたものらしい。

 彼女とは数ヶ月前にネット上で知り合い、最近じゃ一緒に格ゲーをする仲だ。ただ、この人のことは実際あまり知らない。分かってるのは精々、女性であること、同い年であることぐらいだ。まあネット上の顔も名前も知らない人間だから、当然ではあるのだが。

「聞こえる?」

「大丈夫。さてさて……今日はどいつでボコしてやろうかなぁ……!」

「はっ、なんでも来いよ。まあただ、前回のコンボは対策済みだぜ?」

 キャラ選をしながらの煽り合い。これも日常であった。

「てめっ……また端ハメ……!それやめろってんだろ!!」

「いやでーす。使える技は全部使いまーす!」

 常にハメ技を画面端で決める。それがComet☆ミという女。ほーんとにクソ。

 でもなんだかんだ毎日のように遊んじゃう。

 それがComet☆ミという女でもあった。

「だったらここでゲージ使って……下投げからの……コマンドッ!」

 レバーを自分史上最速で回し、ボタンを連打。

「ざーんねん。まだまだ甘いねぇすいみ君は」

「死ねぇぇぇぇぇえ゙え゙え゙!!!!」

 また画面端に運ばれた。そんで嵌められた。

 そして、彼女が言った『すいみ』という名。それが俺のプレイヤーネーム。

 三水→みすい→すいみ。

 あまりにも単純。アイコンも沢山の黒い魚と1匹の赤い魚が、大きな魚を形成するという多分日本人の大部分が既視感を覚えるやつ。フリー素材で頑張って作った。

「またやられた……なんで全キャラで端ハメコンボ開発してんだよ……」

「ふっふっふっ……なーに、ただお前を虐めたかっただけさ」

「殺すぞ」

「なんだと?この可愛い可愛いこめっとちゃんに?何と失礼な……」

「……可愛い?こんな卑劣な戦法をしといて?」

「ああそうだとも。なんなら今度直接会ってやろうか?」

「なっ――」

 スマホからそう発せられた音声。正直、自分が期待してたのかもしれない。いや、期待してた。初めて話した時から。だって俺童帝だし、中高と異性と話す機会なんて業務上必要な場合だけだったし。それに……声可愛いし。

 自然と心臓が早まる。レバーを握っていた手が汗で湿り、別に直接話している訳でもないのに視線が右往左往しだす。そうしている内に頭がこんがらがって、徐々に判断力が低下していく。

 どうしよう。言ってしまえば楽だろうか。いやでもキモがられるかも……でも相手から誘ってんだぞ?ああでもこれただの冗談だったのか?それを本気にしてるだなんて正に陰キャのそれ……!

 そんな風に突如錯乱状態に陥った俺の脳は、遂にその言葉を放った。

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