第6話
隠された扉から、突然現れたセレアに面食らっているハイネと兵士たち。
そんな彼らをよそに、セレアは血を流し倒れている父の姿を見つけると・・・。
「お父さん!!」
すぐに父の傍に駆け寄り何度も呼びかけるが、意識が朦朧としているのか、娘の必死な呼びかけに、僅かばかり動いた様子を一瞬だけ見せたが、そのまま動かなくなってしまった。
「お父さん!! お父さん!!」
「セ、セレア!? どうして出てきたの!?」
「ごめんなさい言うことを聞かなくて! でももう我慢できなかったの! ねえお父さん! お父さんしっかりして!! ・・・どうして、どうして!? お父さんは何も悪いことしてないのにどうしてこんなことするの!?」
突然の出来事に呆気に取られていた兵士たちだったが、徐々に状況を理解し始めたのか、表情がにやついて来ていた。
「は、はは。一瞬なにごとかと思ったが、こりゃいいぜ。あのまま隠れられてたら気付かなかったのが、そっちの方から出てきてくれてよ」
「お前ここの娘だな? やっぱり隠してやがったか。ダチの家に泊まりに行ったなんて嘘つきやがって、あやうく騙されたままになるとこだったぞ」
「まあいいじゃねえか。よく見りゃ極上の玉だし、せっかく出てきてくれたんだ、母娘とも可愛がってやろうぜ」
「そりゃ良い! んじゃ娘の方は先に俺がヤラせて貰うぜ!」
「なに言ってんだ! 俺が先だっつの!」
兵士たちの視線が自分たちから離れた一瞬の隙に、ハイネは兵士の1人から腰に携帯していた剣を奪った。
「てめっ!?」
「逃げなさいセレア!!」
「させるかよ!」
「動かないでっ!!」
「!?」
本来であれば、ハイネの細い腕では鉄と鉛の塊である剣の重さを支えきれず、剣先が床にくっついているだろうが、親の底力か火事場のなんとやらか、その剣先は真っ直ぐに兵士たちへと向けられていた。
「お、お父さんをあのままにしておけないよ!」
「お父さんのことは私に任せて。だからあなたは逃げるのよ」
「2人を置いて私だけなんて出来な――!!」
「言うことを聞きなさい!!」
「!?」
セレアにとって、いつも穏やかで、怒ったところなど見たこともないハイネの、これほど激しい口調は初めてだった。
しかし、そんな2人の様子を見ていた兵士の1人が嘲笑を浮かべた。
「この村に来た兵士は俺たちだけじゃないんだぜ? 逃げられっこねえ。諦めて俺らの――」
「裏口から出てすぐ脇の森に入ればそんな簡単には見つけられないはずよ!! だから早く!!」
モニカの成熟した体も良かったが、それ以上に、若く瑞々しいセレアに逃げられるかもしれないと思った兵士たちは焦りだした。
のだが・・・。
「私たちのことなら心配しなくても大丈夫だから。ね、セレア・・・」
それは明らかにハイネのミス。
少しでも戦いの心得のある者であれば、この状況で相手から目を離すことなど絶対にしない。
しかしハイネはセレアが心配のあまり、視線を兵士たちから外し、セレアを見てしまった。
「今だっ!!」
「!?」
視線が外れた瞬間、一斉にハイネへ迫る兵士たち。
「うあっ!?」
突然のことにハイネは咄嗟に剣を振り上げると、何かを切り裂く感触がハイネの手に伝わった。
「あ・・・」
「いってぇ・・・てめえっ!!」
呆然としているハイネの手から、他の兵士がすかさず剣を奪い取る。
「おい、大丈夫か?」
ハイネに斬られた兵士が、腕から血を流している。
深刻になるような傷ではないようだが、それでも血は止まらずに流れ続けているようだ。
「くっそぉ、めちゃくちゃいてぇ」
「お前はその2人を捕まえてろ。俺はこいつの止血するから」
「わかった」
兵士たちを制止できる術を失いながらも、なおセレアを庇うように兵士とセレアの間に立つハイネ。
「セ、セレア! 早く行って!!」
「でもっ!」
「いいから!!」
「逃がすかよっ!」
とりあえずセレアを捕まえようと、ハイネを無視して横を通り抜けようとした時、ハイネは体当たりするように兵士の腰にまとわりついた。
「うおっ!? 邪魔すんじゃねえ!!」
「セレア早く!!」
「いい加減にしやがれこのくそアマ!!」
「あぁっ!?」
「・・・え?」
セレアの目には、まるでスローモーションのように見えた。
その場に倒れる母親。
その後ろには、先ほどハイネに腕を切られた兵士が、剣と体に返り血を浴びて立っていた。
「お、お母さん!?」
「お、お前!? 何やってんだよ! 何も斬ることねえだろうが勿体ねえ!!」
「もういいだろこんな年増。いい加減ウゼェよ」
「お母さん! お母さん!!」
「セ、セレア・・・逃げ・・・て・・・」
倒れた母親に必死に呼びかけるセレア。
そしてすぐにハイネの傷を見た兵士だったが・・・。
「・・・こりゃダメだな。多少斬られたくらいならと思ったが、このバカが。本気で斬りやがって」
「そ、そんな・・・お母さん・・・お父さん・・・」
・・・日常生活とは、余りにかけ離れた出来事に、茫然自失となり座り込むセレア。
しかし、そんな様子のセレアを兵士たちが気遣うはずもなく・・・。
「ま、娘がいるし良いだろ。俺は最初っから年増よりこっちの娘の方が良かったしよ」
「熟女には熟女の良さがあるってのに・・・勿体ねえな」
目の前に倒れる父と母。
下卑た笑みを浮かべて自分へと迫ってくる男たち。
「いや・・・」
失ってしまった、二度と取り戻せない、何よりも大切だったもの。
「いや・・・!」
そして、これから自分を待ち受ける絶望の運命。
「いや・・・!!」
その第一歩となる、男の手がセレアの肩に触れた。
「いや!! いやああああ!!!!」
「暴れるんじゃねえ!!」
「いやあ!!! 助けて!! お父さん!! お母さん!!!」
「その二人は死んじまってるし誰も助けにはこねえよ! あきらめて大人しくしな!」
兵士の言葉が、絶望に染まるセレアの心をさらに追い詰める。
セレアの心を飲み込んでいく悲しみ。恐怖。
「いやあああああ!!!!!!」
まるで絶望がそのまま声になったようなセレアの叫びが響いた直後。
その叫びに共鳴したかのように、突如セレアが身に着けていたポーチから、目が眩むほどの凄まじい光があふれ出した。
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