プロローグ 2
「勝手に休むんじゃないぞ!! 自分たちは栄光あるバルドニアの為に働けているんだと感謝しながら働け!!」
バルドニアの侵攻が進むにしたがって広がっていく領土。
当然、その領土内にある街や村はバルドニアの支配を受けることになり、そこに住むほとんどの人々は、高い税収、横暴で不条理な扱いなどで、苦難の日々を過ごしていた。
そして現在地。
大陸の中央西部にあり、元は地元の民間業者が採掘を行っていた、森の中にすり鉢状の穴が開いた鉱脈。
しかしバルドニアに侵略され、バルドニア本国から赴任した監督官の下で、厳しい労働が強制されていた。
労働力は元々この鉱脈で働いていた鉱夫たちと、近隣の街や村で捕らわれ、強制的に連れて来られた老若男女。
抵抗する者は容赦なく斬り捨てられ、連れて来られた場所で待っていたのは、奴隷としての過酷な労働。
あちこち擦り切れて泥だらけな、連行された時のままの衣服。
僅かな食事と土の上で直に眠る睡眠。
そんな劣悪な環境で、みんな疲れ果てた表情で、ただの道具のように扱われ働かされていた。
「よしよし。今日も順調に採掘は進んでいるようだな。何か問題はあるか?」
「奴隷が何名か衰弱して使い物にならなくなったので廃棄しましたが、今日、新たに奴隷が到着する予定です」
採掘現場に視察に来て、奴隷として働かされている人たちを薄ら笑いを浮かべて眺める、小奇麗な衣服を着た小太りな中年の男性監督官。
その隣には、強面で体格は良いが、監督官に対して腰を低くしてる、奴隷たちの監視兼警備の兵をまとめる、監視長の女性。
「どんどん新しい奴隷を連れて来い。増やしたところで賃金を必要とせず、生死すら気にせずに使える労働力なんだからな。節約するようなものではない」
「確かに。本国でも各地から奴隷を集め使われていましたが、これほど便利で使いやすい物はないですからね」
「ここで採掘された鉄などの鉱物が、バルドニア軍の武器の原料となるだけでなく、様々なことに使われ、偉大なるバルドニアはさらに繁栄するんだ。その大義を忘れるな」
「ここでの採掘実績が、そのまま監督官殿の評価にも繋がりますからな」
「ははは。まあその通りだ。そして今のところ、私の評価は非常に良いものになっている」
「本国から何かしらの恩賞を頂けたら、私めにも是非おこぼれを」
「ならば、何をすればよいのかわかっているな?」
「どんどん奴隷を使い、どんどん採掘していきます」
「うむ。それでいい」
監督官が採掘場を見渡していると、縄に繋がれた一団と、物資が積まれた馬車が採掘場に入って来た。
縄に繋がれた人々は、その境遇に絶望しているのか、みんな顔を俯かせている。
「どうやら新しい奴隷どもが到着したようだな。いつも通り若い女は私の屋敷に、その他は全て労働にまわせ」
「その手はずになっています」
「うむうむ」
監督官は下卑た笑みを浮かべ満足げに頷いた。
「ではそろそろ戻るとするか。最近は外ればかりだったからな。今度は当たりの女奴隷がいれば良いが」
「監督官殿もお好きですねぇ」
「街から離れたこんな場所では、これくらいしか楽しめるものがないのだ。お前とて好みの男を持っていってるんだろう?」
「ははは。バレてましたか。仕事終わりの溜まったものを晴らすには、コレか酒か、どちらかしかありませんからね」
「労働力として有用な奴はあまり持っていくなよ?」
「わかってますよ」
「ならいい。しかし奴隷は労働力にも玩具にもなる本当に使い勝手の良い物だな。壊れればすぐに代わりも効く」
「ははは。いや全くです。あ、向こうをご覧ください。面白そうなことが起きそうですよ」
「ん? 何処だ?」
監視長が指差した先には、年老いた女性が重い岩を背負わされ、フラフラと運んでいる姿があった。
そして・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・う、うぅっ!」
重い岩を何とか背負って歩いていた女性だったが、やがて背負っていた岩に押し潰されるように倒れてしまった。
「おい貴様! なに勝手に休んでんだ! もっと働け!」
「あうッ!!」
「母さん!!」
倒れた女性の元に監視員がすぐに駆け付け鞭を打つと、すぐ近くで同様に働かされていた中年の男性が慌てて割って入って来た。
「お、お願いです! 少しだけ、少しだけ休ませてください! 母さんはずっと働かされてもう限界なんです!」
「あぁ? なんだお前は? 俺に逆らうのか?」
「い、いえそんなつもりは! でもまともな食事も休みもほとんどない中で働かされて、母さんはもう限界で――!!」
「そうか。わかった」
「・・・え? あ、じゃあ休みを!?」
「使えねえ奴隷はいらねえ。そんなに休みてえんなら、お前も一緒に2度と働かなくて済むよう楽にしてやるぜ!」
「ひっ!」
監視員が鞭を振り上げ、母親に覆いかぶさる男性ごと打ちつけようとした瞬間。
「うぐっ!? ・・・な、なんだこりゃ・・・?」
監視員の胸元を、何処からか飛んで来た矢が貫き、監視員は驚きの表情を浮かべたままその場に倒れた。
「な!? なんだ――ッ!?」
「突撃ーーッ!!!」
「うぉぉぉおおおおおお!!!!」
何処からか聞こえて来た声と共に、数人の騎士の様な鎧姿の人たちを筆頭に、採掘場の周りにある森林から武器を掲げた大勢の人たちがなだれ込んで来た。
鎧を身に付けている人や身に付けていない人。
体格の良い人や華奢な人。
男性や女性。身なりも年齢もバラバラな集団が次々と監視員に襲い掛かっていく。
「な、なんだお前ら!?」
「俺たちが誰だかわかってんのか!? バルドニア帝国のぐああっ!?」
問答無用で監視員を攻撃する集団の中から、20代前半で、貴族のような出で立ちの1人の男性が高台に立ち、採掘場に響き渡るように声を上げた。
「我らは明星(みょうじょう)の解放軍!! 帝国の横暴なる支配と苦しみから人々を解放する剣だ!!」
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