第18話「真犯人①」
*
着いた場所は、品留さんの自宅から、高速も使って2時間ほど車を走らせた郊外にある、ぐねぐねと湾曲する一車線の国道をうねった末にある、小さな町の小さな家であった。
チャイムを鳴らすと、2人の男女が出た。
50代くらいの、夫婦、だろう。表札を見るに。
警部とは面識があるらしく「ああ、はい」「どうも」と適当に挨拶を交わして、奥へと入った。
そこに――それは、いた。
2人の子供であった。
1人は、0歳7か月の子供。
まだおむつも外れていない子が、ベビーベッドですやすやと眠っていた。それを見て、何となく、苅生始くんを
私の思考回路は、まだ動き出してはいない。
問題は、もう1人の方であった。
彼女は読んでいた本を閉じて、立ち上がってこう言った。
「初めまして。わたしは苅生秋音と言います。
にこり、と、3歳児は笑った。
ぞくりとした。
ああ、この子だ、と。
見た瞬間に、確信してしまった。
この子が、親を殺したのだ――。
この子が、犯人だ――。
この常軌を逸している状況を、ご理解いただけるほどの語彙力が私にないのが、実に惜しい。
見た瞬間に、それだけで「こいつが犯人だ」と、強制的に脳髄に
「お姉さんのお名前を、教えてもらっても良いですか?」
この歳で敬語を使えている、どころか年上への処世術も学んでいる。
申し訳ないが――教育熱心なママさん方には非常に申し訳ないが、この時点でそこまでの情緒を得ているということが、私には、異常にしか見えなかった。
異常。
普通ではない、ということ。
「わ――私は、鹿海肯、探偵」
「良いお名前ですね。しかも探偵ですか。格好いい。肯お姉さんと呼んで良いですか」
「……お姉さんなんて呼ばれる歳じゃないわよ、私は」
「いえいえそんなことないですよ、まだまだお姉さんです。わたし、兄や姉って憧れているんです」
私はとんでもない勘違いをしていた。
無意識下に、容疑者から除外していた2人の人物が、ここにいた。
苅生始、苅生秋音。
0歳児の息子と、3歳児の娘。
彼らに犯行はまずもって不可能であると、どこかで断じていた自分がいた。
縦しんば、もし可能性があったとするなら、上の秋音ちゃんが誤ってベランダの鍵を閉めた可能性だろうけれど――それがあるなら捜査線上に既に上がっているはずであった。それに、3歳児が母親を突き落とすなどと、普通に生きていてそんな発想に至れるはずがない。
そうでない――そうでないのが。
でも。
しかし。
だから。
点と点が繋がってゆく。
苅生秋音。
犯罪者を、育て上げようとした、親。
犯罪者を育てるということは、偏差値を底上げするということに等しい。莫迦には完全犯罪はできないからだ。
だからそういう風に、育てたということなのか。
今
人生何周目だよ――とか。
そんなツッコミが馬鹿馬鹿しくなるくらい、目の前の状況は異常だった。
一体どんな、教育をしたのだろう。
否、それは教育と呼べるものなのだろうか。
この――異常なまでに大人びた、大人びてしまった3歳児と相対して、私は。
私は。
私は。
私は。
何も思うことができなかった。
(続)
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