第5話「ナロー、控えめな革命児」
……人にはそれぞれ「ちょうどいい形」ってものがある。
それを探すのは難しいが、それを生まれながらに知ってる子もいる。
今日話すのは、そんな襟――ナローくんの物語じゃ。
ナローくんは、他の襟たちよりもひとまわり小さく、襟先も短い。
派手さはない。けれどもその小ささには、ある種の“意志”が宿っておる。
「僕は、主張しすぎないのがいいんだ。顔まわりの邪魔にならない。
小柄な人や、細身のスーツには、僕がちょうどいいんだよ」
そう言って、彼は静かに笑う。
昔、シャツの街に“標準”という名の基準があったころ、ナローくんはよくこう言われた。
「もう少し襟が長くないとね」「君の存在感は弱いね」
それでも彼はめげなかった。
「じゃあ、僕を必要とする誰かのところへ行けばいいだけさ」――そう言って、黙々と仕立て屋を巡っておった。
そしてある日、ナローくんは中学生の制服リフォーム相談に訪れた少年に出会う。
「市販のシャツは、どれも襟が大きすぎて、顔が埋もれてしまうんだ……」
そのとき、ナローくんは思った。
「やっぱり僕みたいな襟にも、出番はある」
彼はその少年の制服にぴたりと納まり、首元を小さく引き締めることで、顔全体をすっきりと見せた。
それを見た母親がこう言ったそうじゃ。
「こんなに“似合う”って感じたのは、初めてかもしれない」
――そのときから、ナローくんのまなざしが少し変わった。
彼は「控えめ」の価値を知ったんじゃ。
目立たなくても、自分の小ささが誰かの“ちょうど良さ”になることを。
「僕は大きくならない。けれど、それが僕の強さなんだ」
……そう言ったときのナローくんの目には、はっきりと火が灯っておった。
声高に叫ばずとも、黙って立ち続ける者がいる。
それもまた、一種の革命じゃよ。
さて、次はちょいと騒がしい話になるかもしれんのう。
伝統を守る襟たちの中でも、特に“規律”にうるさい兄弟がいてな。
ボタンダウン・クラブの話をしてやろうか。
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